NECグループのフォーネスライフは、認知症発症のリスクを予測する新サービスを開始する。同社が提供するデジタルヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス (FonesVisuas)」に新たな検査項目として追加。検査日から20年以内に、認知症を発症するリスクを予測する。10月26日から、6つの医療機関で提供を開始し、2023年3月までに100機関で利用できるようにする。

  • AIとセンシング技術で認知症リスクを予測するNECグループの新サービス

    デジタルヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス (FonesVisuas)」に認知症発症のリスクを予測する新サービスを追加する

フォーネスライフのバイオセンシング技術に、NECグループが持つビッグデータのAI分析技術を組み合わせ、導き出した予測モデルで、未来をシミュレーションし、生活習慣微改善策を提案することになる。

同サービスは5万円~7万円で利用が可能だ。検査に健康保険は適用されない。また、Makuake(マクアケ)で数量限定の特別価格も利用できる。

  • 治療から予防の世界へ。フォーネスライフのバイオセンシング技術に、NECグループが持つビッグデータのAI分析技術を組み合わせて実現していく

フォーネスライフ 代表取締役CEOの江川尚人氏は、「これまでに提供してきた心筋梗塞や脳卒中、肺がんに関する発症リスクを可視化するサービスに加えて、新たに認知症発症のリスクを予測するサービスを提供する。一度に複数の疾患リスクが見え、生活改善までトータルで提供する点が特徴になる」とする。

  • フォーネスライフ 代表取締役CEOの江川尚人氏

フォーネスライフは、NECソリューションイノベータが100%出資して、2020年4月に設立した企業で、協業している米SomaLogicのSomaScan技術を活用。血清や血漿、尿から約7,000種類のタンパク質を測定。血中タンパク質の測定技術とデータ解析、シミュレーション技術により、現在の健康状態と疾病リスクをわかりやすく可視化するサービスを提供している。

  • リスク予測から生活改善までトータルで提供する点が特徴

現在、脳卒中、脳梗塞、心筋梗塞、心不全は4年以内の初発および再発のリスクを予測。肺がんは5年以内の発症リスクを予測する。また、現時点での耐糖能、肝臓脂肪、内臓脂肪、心肺持久力(最大酸素摂取量)、安静時代謝量、アルコールの影響度も測定できる。25の医療機関を通じてサービスを提供しており、2022年度内には100機関で利用ができるようになるという。

検査には、SomaLogicが開発したSOMAmerを利用。疎水性相互作用による独特なタンパク質結合様式により、あらゆるタンパク質に対して、特異的に結合する検出プローブが準備できるという。採取した血液と、約7,000種類のSOMAmerを混ぜ合わせ、結合させ、洗浄分離したあとに特異的に結合していたSOMAmerを乖離。血液中に存在するタンパク質の量を、ドットの光シグナルの強度として数値化することができる。「再現性が高く、幅広く測定できるダイナミックレンジを持ち、広い範囲のタンパク質濃度を一度に測れる点が特徴である」(フォーネスライフ CTOの和賀巌氏)という。

  • 血中タンパク質のパターンから認知症のリスクを予測する

今回の認知症のリスク予測では、約7,000種類のタンパク質のうち、25種類の血中タンパク質のパターンを分析することで、20年以内に認知症が発症するリスクを、4区分で判定し、発症リスクを確率で示したり、平均群と比較した発症リスク倍率も表示する。

米国での1万1,000検体を対象に、25年間に渡って、認知症の発症ケースを観察してきたデータをもとに、20年後に認知症を発症する集団を、タンパク質のバランスのなかから見つけ出すという。また、名古屋大学医学部神経内科長の勝野雅央教授と、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターの協力を得て、日本人の検体でも確認をしているという。

「遺伝子検査では、認知症やがんなどの予測は可能だが、いつ発症するかという時期を見ることが難しい。タンパク質のビッグデータ解析により、病気がない状態であっても、発症時期のリスクを示すことができる。結果をもとに早い段階からの生活習慣の改善により、未来を手にしてもらいたい」と述べた。

  • フォーネスライフ CTOの和賀巌氏

検査結果報告書の読み方をわかりやすく解説した検査ガイドの提供や、保健師による健康相談や健康改善メニューの提案などにより行動変容の実現をサポートするコンシェルジュサービス、運動や睡眠などの生活習慣の改善に取り組むことができるコンテンツを用意したNECソリューションイノベータによるスマホアプリサービスを提供。新たに、東北大学の川島隆太教授がプロデュースした脳トレスマホアプリ「Active Brain CLUB」(開発・NeU)も提供する。

  • 検査結果報告書のサンプルイメージ

  • 脳トレスマホアプリ「Active Brain CLUB」も提供

認知症は、2025年には65歳以上の人口のうち、約5人に1人が発症するとの予測があり、高齢化の進展とともに、認知症患者の数が増加すると見られている。また、高齢者の介護理由では認知症が最も多く24.3%を占めている。介護する上での身体的負担を感じる人は73.4%、精神的負担を感じる人は86.9%に達しており、「認知症は、本人はもちろん、介護にかかる経済的負担、身体的負担、精神的負担も大きい。さらに、認知症の罹患、進行により、大切な思い出まで失ってしまい、金額では測れない影響もある。軽度認知症の患者の45%が生活習慣改善によって回復したというデータもある。早期発見よりも、もっと早い段階でリスクに気づき、自らの生活習慣を見直すサービスを提供していくことで、より高い成果が出ると考えている」(フォーネスライフ 代表取締役CEOの江川尚人氏)とした。

  • 超高齢社会が到来し、高齢者の5人に1人は認知症を発症するという推計

  • 高齢者の介護理由は「認知症」が最も多い

  • 認知症介護の負担は大きい。早期発見よりも早く、健康改善・予防が重要となってくる

熊本県荒尾市では、健康および介護の取り組みにおいて、フォーネスビジュアスを導入することを新たに発表。認知症および脳卒中の発症リスクの予測をもとに、市民に改善プログラムを提案し、生活習慣の改善による健康寿命の延伸や、医療および介護給付費の増加抑制にもつながると見ている。

  • 自治体と連携し、疾患リスク予測をもとに市民に改善プログラムを提案する取り組み

フォーネスライフでは、2025年までにフォーネスビジュアスで300万人の利用を目指すほか、乳がんや胃がん、すい臓がん、大腸がん、前立腺がんなどにも検査項目を増やし、将来的には50以上の疾病のリスク予測の実現を目指している。2029年度には、企業や自治体への展開などにより、国内検査事業で300億円以上の売上高を目指すほか、アジアを中心とした海外検査事業で300億円、国内外のヘルスケアソリューションの提供やパートナーとの連携事業で400億円を計画。合計で1,000億円以上の事業規模を目指す。

  • 測定サービスの提供のほか、企業や自治体への展開、海外展開も目指した事業目標

一方、NECグループのヘルスケア事業の取り組みについても説明。NECソリューションイノベータ 取締役 執行役員常務の石井正彦氏は、「NECソリューションイノベータは、イノベータを結んで社会価値を創造する目標を掲げ、ヘルスケアを重点事業のひとつに位置づけている。ヘルスケア分野においては、『世界中の誰もが、楽しく、ストレス無く、元気になれる健康で豊かな社会を支える』をビジョンに掲げ、病気になって治療をする世界から、予防ができる世界にしたいと考えている。そのためには疾患原因について考えることが必要である」とし、「ウイルスや細菌など、原因が特定されている疾患はワクチンや治療薬で対応ができるが、がん、循環器系疾患、認知症など、複数の因子が絡み合う疾患は、人類が克服できておらず、そこに対峙する必要がある。これらの因子を含むビッグデータをAI分析することが解決につながる。バイオマーカーやバイタルデータなどのセンシングする技術に、NECグループの主力事業であるICTで積み上げてきたビッグデータのAI解析技術をかけあわせ、これを活用することで、予防につながる疾病予測サービスを実現し、ビジョンの達成を目指す」と述べた。

  • NECソリューションイノベータ 取締役 執行役員常務の石井正彦氏

さらに、「超高齢社会においては、平均寿命と健康寿命の開きが幸せを奪うことになる。また、新型コロナウイルスによる健康被害は世界中の人々を苦しめている。一方で、IPSなどによる再生医療や、診断分野へのAI活用など、医療技術も進歩している。未来を生き抜くための21世紀型のヘルスケア革命を実現したい。また、ヘルスケア領域に留まらず、様々な社会課題の解決に貢献したい」などと語った。