この1月は、源泉徴収票や法定調書などの国税関連の書類の提出、給与支払報告書や償却資産申告書などの地方税関連の書類の提出の時期でした。そして、2月から3月にかけては、所得税確定申告書の提出時期になります。1年でもっとも多くの申告・申請書類が提出される時期です。その中で、かなりの数が電子申告され、個人事業者や個人が行う電子申告では、マイナンバーカードが利用されることになります。

マイナンバーカードに関しては、様々な普及策が講じられる計画ですが、今回は電子申告におけるマイナンバーカードの利用を中心に、電子申告の現状や、マイナンバーカードについて考えてみましょう。

所得税確定申告書の電子申告とマイナンバーカード

所得税の申告件数は、年々少しずつ伸びており、平成30年分では2,200万件を超える件数になっています。国税庁の申告所得税に関する統計資料 から、平成30年分の所得別の申告者数、および申告納税額がある者、還付申告した者の数をまとめると表1のようになります。

(表1)平成30年分所得別申告者数

所得の種類 申告者数 内申告納税額がある者 内還付申告した者
事業所得者 3,729.386 1.683,549 867,999
不動産所得者 1,585,983 1,097,510 136,691
給与所得者 10,357,756 2,541,166 7,327,632
雑所得者 5,843,770 727,441 4,410,761
他の区分に該当しない所得者 671,809 340,378 298,273
合計 22,188,704 6,390,044 13,041,356

ここで、「雑所得とは、他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得をいい、公的年金等、非営業用貸金の利子、著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税、講演料や放送謝金などが該当します。」

所得税の確定申告というと、個人事業者が1年分の所得について申告するものと思われている方が多いと思われますが、実は給与所得者が最も多く、それも還付申告が大半を占めている状況です。事業所得の申告者数は、近年では平成27年分の3,777,202人をピークに、年々減ってきています。一方、給与所得者の確定申告者数は、平成25年分では9,252,114人でしたが、そこから5年で100万人くらい増えたことになります。医療費控除はもちろんですが、ふるさと納税をする人が増え、こうした人が確定申告しているものと思われます。

(図1)は、法人税と所得税の電子申告利用率の推移をグラフで表したものです。

所得税の電子申告は年々少しずつ伸びていますが、最新のe-Taxの利用状況 によると、平成30年分では57.9%になっており、前年比で3.4ポイント増えています。

国税庁の『「税務行政の将来像」に関する最近の取組状況』によると、平成30年分からの、電子申告の簡便化により、マイナンバーカードに加えて、ID・パスワード方式による電子申告も可能になっていますが、その実績は[図2]のようになっています。

ID・パスワード方式では、税務署に出向き、税務署員による本人確認により、その場で発行されるID・パスワードのみで電子申告できる方式のため、マイナンバーカードは不要です。

従来の方式では、電子署名のためにマイナンバーカードが必要となることから、平成30年分では、マイナンバーカード方式と従来の方式を利用した561千人がマイナンバーカードを電子申告で利用していることになります。

平成30年分の電子申告利用率は57.9%ですから、約12,847千人が電子申告しているわけですが、納税者本人が電子申告している割合は、そのうち10%程度であり、マイナンバーカードを電子申告に利用しているのは、4.4%程度ということなります。

では、残りはというと、事業所得や不動産所得、雑所得などの個人や中小企業のオーナーや家族の確定申告を、税理士が確定申告書の作成から電子申告の代理送信まで引き受けてやっている状況があります。税理士が電子申告の代理送信をする場合は、日本税理士会連合会が発行する税理士専用の電子証明書を使用しています。

所得税の確定申告でマイナンバーカードの利用を促進するためには、給与所得者の申告者に向けて、電子申告の利便性をアピールしていくことが大事になります。国税庁では、スマートフォン+マイナンバーカードで電子申告できる仕組みを作り、平成30年分より令和元年分では、利用できる対象範囲を広げました。この施策が、どれだけ電子申告におけるマイナンバーカードの利用を広げるかは、令和元年分所得税確定申告の統計資料が出揃うまでわかりません。

給与所得者の電子申告は、まだまだ伸ばせる余地があります。スマートフォン+マイナンバーカードで利用できる対象範囲をさらに広げるとともに、スマートフォン+マイナンバーカードでの電子申告をもっとアピールして、マイナンバーカードの取得を促せば、マイナンバーカード本来の使い方での普及が進むことになります。

東京オリンピック後のマイナポイント付与によるマイナンバーカード普及策などが実施されることになっていますが、まずは、マイナンバーカード本来の役割での普及を目指すことが大事なのではないでしょうか。

法人の電子申告におけるマイナンバーカード利用

日本経済新聞1月26日の電子版に、「税・社会保険の電子申告 導入迫る 企業の準備整わず」という記事が掲載されました。これは資本金1億円超の大法人の電子申告義務化が2020年4月に迫るなかで、企業側の準備が進んでいない状況を伝える記事になっています。

(図1)のグラフ下をみると、「平成30年7月時点において機械的に抽出した大法人の電子申告義務化の対象法人に係る平成29年度の法人税申告のe-Tax利用率は66.1%である。」との記載があります。(図1)で平成29年度の法人税の電子申告の利用率は80.0%、最新のe-Taxの利用状況によると平成30年度の同利用率は84.3%と、4.3ポイント伸びています。大法人の電子申告義務化の対象法人の利用率より、全体の利用率が高いのは、数の多い中小法人の電子申告については、個人事業主と同様に、税理士が法人税申告書の作成から電子申告の代理送信まで請け負っているからです。そして、先にも書いた通り、税理士が電子申告の代理送信をする場合は、日本税理士会連合会が発行する税理士専用の電子証明書を使用しています。

では、法人自ら電子申告する場合必要となる電子証明書についてはどのようになっているのでしょうか。一般的には、法人用として用意されている商業登記認証局の電子証明書などが考えられますが、法人代表者が自らのマイナンバーカードを使用することもできるようになっています。また、電子委任状により、社内の担当者に委任することで、担当者のマイナンバーカードで電子申告することもできます。

(図3)はe-Taxの電子委任状(PDF形式)を説明したものです。

代表者が作成した委任状に代表者がマイナンバーカードで電子署名をして、受任者である社内の担当者が自らのマイナンバーカードでe-Taxに「電子証明書の登録」を行えば、担当者が法人税申告書の電子申告を、自らのマイナンバーカードを使って行うことができます。この場合、法人代表者と担当者がマイナンバーカードを取得する必要がありますが、商業登記認証局の電子証明書のように費用がかかることがありませんから、電子申告に費用をかけたくないのであれば、代表者が自らのマイナンバーカードで電子署名して申告するか、この電子委任状を活用して担当者に電子申告を任せる方法をとることもできます。 eLTAX(地方税電子申告)でも、同様の電子委任状を使用できることから、今後法人自らが法人税および法人地方税の電子申告に取り組む際には、こうしたやり方も検討してはいかがでしょうか。

以上、みてきたように、個人の所得税の電子申告はもちろん、法人の法人税等の電子申告においても、マイナンバーカードを利用することができます。電子申告の利用を促進するとともに、これらマイナンバーカード本来の利用方法で、マイナンバーカードの普及をはかることに、もっと力をいれていく必要があるのではないでしょうか。

中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。