2022年7月2日より3日間にわたって影響が続いたKDDIの通信障害。規模の大きさと障害時間の長さから、社会的に小さくはない影響を与えたこの通信障害ですが、なかでも総務大臣が動くなど問題視されたのが情報発信のあり方についてです。通信障害発生時の適切な情報発信はどうあるべきなのでしょうか。

  • KDDIの通信障害は3日にわたって影響が続き、社会的に大きな混乱をもたらすこととなったほか、情報発信のあり方にも課題を残した

    KDDIの通信障害は3日にわたって影響が続き、社会的に大きな混乱をもたらすこととなったほか、情報発信のあり方にも課題を残した

「顧客目線での情報発信が不十分」と大臣が批判

2022年7月2日に発生したKDDIの通信障害は、およそ3日間にわたって音声通話を主体として使いづらい状況が続き、緊急通報ができなくなるなど深刻な事態を招くこととなりました。それに加えて、同社の回線を利用していた企業のシステムなどにも影響が及び、ATMが使えなかったり、宅配便の再配達ができなかったりするなど、間接的に影響を受けた人も多いのではないでしょうか。

通信障害の経緯を簡単に振り返ると、そのきっかけはメンテナンス時のルーター設定ミスにより、15分間音声通話ができなくなったことにあります。その間に端末からなされた位置登録要求が破棄されてしまったため、ルーターの設定を元に戻したところ、位置登録要求の再送が急増。音声通話を司る「VoLTE交換機」にアクセスが集中して混雑する輻輳状態を招き、それが契約者の情報や位置などを管理する「加入者データベース」へと波及し、通信障害が大規模化するに至っています。

そこでKDDIは、加入者データベースの負荷軽減を図るべくユーザーの通信量を制限する措置を取ったのですが、それでも負荷が軽くならなかったため障害が長期化。その後、6台のVoLTE交換機が輻輳の影響で異常が起きていることが判明し、それらを切り離してようやく回復へと至っています。

  • 今回の通信障害の経緯。ルーターの設定ミスがネットワーク内部での大規模な輻輳を招き、それが通信障害を深刻なものにしたようだ

KDDIはスマートフォンなど、ネットワークの外側からのアクセス集中による輻輳対策には力を入れて対処していましたが、今回のようにネットワークの内側で輻輳が起きることは考えにくいことからあまり想定していなかったようで、それが通信障害の大規模・長期化に至った要因といえるでしょう。

ただ、今回の通信障害に関しては、影響の範囲も広く深刻な事態を招いたこともあって、むしろ技術面以外の対応に関する課題も浮き彫りにしたといえます。なかでも大きな注目を集めたのが、ユーザーに対する情報発信のあり方です。

今回の通信障害は大規模かつ長時間に及びましたが、KDDIも自社の利用者に対して自社のネットワークを通じて通知をすることができなかったこともあり、情報発信もWebサイトで障害の発生を告知するにとどまっていました。それゆえ、通信が利用できず、Webサイトにもアクセスできないユーザーには何が起きているのか分からず、一部のauショップにユーザーが押しかけ混乱を招く事態を招きました。

そうした状況に業を煮やした金子恭之総務相が、利用者目線での情報発信が不十分であるとして総務省職員をKDDIに派遣、情報発信を指示するという異例の措置を取ることとなりました。その結果、通信障害発生の翌日となる2022年7月3日には、通信障害発生の真っ只中であるにもかかわらず、その対処で陣頭指揮を取るべき代表取締役社長の高橋誠氏が記者説明会を実施するに至っています。

  • 通信障害発生翌日の2022年7月3日には、通信障害対応の最中ながら高橋社長が登壇する記者説明会が実施されたが、そこには総務省の意向が強く働いたようだ

“復旧”の表現を巡り混乱、適切な内容とタイミングに難しさ

また、その情報発信を巡っては、言葉の表現に関してもトラブルが生じていました。KDDIは負荷低減に向けた作業を実施した際、西日本エリアで2022年7月3日の11時、東日本エリアで17時30分に復旧作業が終了するとしており、ネットワーク試験検証のうえで本格再開時間を決定するとしていました。しかし、ユーザーには復旧作業が終われば即使えるようになるものと捉えられ、「時間が過ぎたのに復旧しない」という苦情が寄せられたようです。

  • KDDIは7月3日の説明会でも、西日本・東日本エリアでの復旧作業予定時刻を示した一方、本格再開時期は検証の上で決定するとしていた。だが、ユーザーには復旧作業の完了で即使えるようになるものと捉えられ、混乱が生じたようだ

実は、KDDIが当初情報発信に慎重な姿勢を取っていたのも、過去に情報発信を巡って問題が起きた事例があったためです。それは、NTTドコモが2021年に発生させた通信障害で、障害により通信ができない状況から一部回復したことから「回復」と表現して通知したところ、ユーザーに「全面的に回復した」と捉えられてアクセスが増加、結果として通信しづらい状況が長引くなど混乱を招いたのです。

  • NTTドコモが2021年10月に起こした通信障害においても、利用できない状態から“回復”と表現したことが、ユーザーからは全面的に“回復”したものと捉えられたことで混乱が生じている

そうしたことからKDDIも、障害が継続している間にアクセスが増えることで、トラブルが増えないよう完全復旧するまで情報発信を抑えていたものと考えられます。ですが、通信障害が長期化したことでそのことが不満へとつながり、行政が動く事態をも招いたことで情報発信の積極化を求められた結果、“復旧”を巡る混乱が生じたともいえるのではないでしょうか。

そして、一連の動向から見えてくるのは、通信障害発生時に適切なタイミング、適切な内容で情報発信をすることの難しさです。今回の通信障害においても、総務省が情報発信を求めたことで会見を開き、高橋社長の適切な答弁によりKDDIの評価が高まりましたが、その一方で情報発信の積極化に舵を切ったことが、のちに“復旧”を巡る混乱へとつながった印象も否めません。

通信障害は、顧客に与える影響もセンシティブなものだけに、発生させた企業の立場としても、障害対応に集中して復旧を急ぐ“安全”と、情報発信で顧客に“安心”を両立させることには頭を悩ませているというのが正直なところでしょう。それだけに、今回の通信障害を機として、緊急時の情報発信のあり方についても行政を交えての議論や、指針作りなどをしていくことを考える必要がありそうです。