スマートフォン新機種の発表が相次ぐなか、中国系メーカーの低価格攻勢を受け、ブランド力を持つメーカーにも厳しい状況が迫っています。それら中国メーカーに対抗する軸となるのは、やはり各社が強みに持つ技術となっています。最近の新製品から、技術で市場での存在感を維持する各社の戦略を追ってみました。

安さが光る中国勢、ハイエンドで6万円台も

秋に入り、各社からスマートフォン新製品の発表が相次いでいます。最近では、スマートフォン新製品の発表イベントを定期的に実施する携帯電話会社はNTTドコモくらいになってしまっただけに、メーカー各社が実施する新製品発表がより注目されるようになってきました。

それら新機種の中で、日本で最も注目されているのはやはりiPhoneなのでしょうが、それ以外の国々も含めれば関心が高まっているのは中国系のメーカーです。中国メーカーは低価格ながら高性能という、圧倒的なコストパフォーマンスを武器にここ数年来シェアを大幅に高めていますが、その影響は日本にも確実に及びつつあります。

なかでも、コストパフォーマンスを武器に世界シェアでアップルを抜き、日本でも存在感を高めつつあるのがシャオミではないでしょうか。その実力の一端を垣間見せたのが、2021年10月2日に同社が日本市場向けの販売を発表した「Xiaomi 11T」シリーズです。

  • 日本市場への投入が発表されたシャオミの「Xiaomi 11T」シリーズ。フラッグシップだけあって非常に高い性能を備えながら、価格は非常に安い

これは、日本での投入が初となる同社のフラッグシップモデルで、上位モデルの「Xiaomi 11T Pro」は1億800万画素のカメラや、クアルコム製の最新チップセット「Snapdragon 888」を搭載するなど、非常に高い性能を備えています。それでいて、最も安いRAM8GB・ストレージ128GBモデルの市場想定価格は69,800円と、同等の性能を持つモデルが軒並み10万円を超えるなかにあって、破格の安さを実現しています。

もう1つ、国内でここ最近動きを見せているのが、中国のレノボを親会社に持つ米国のモトローラ・モビリティです。同社の日本法人であるモトローラ・モビリティ・ジャパンは、2021年10月12日に「motorola edge20」シリーズの日本での販売を発表していますが、それらも非常にコストパフォーマンスが高いモデルに仕上がっています。

  • モトローラ・モビリティの「motorola edge20」は、6.99mmという薄さに1億800万画素のカメラや大画面ディスプレイ、4000mAhのバッテリーを搭載して5万円台という価格を実現している

実際、同シリーズで上位モデルに位置付けられるmotorola edge20は、6.7インチの有機ELディスプレイに1億800万画素のカメラ、クアルコム製のミドルハイクラス向けチップセット「Snapdragon 778」を搭載しながら、同社のオンラインストアでの価格は54,800円。ハイエンドよりやや下のクラスとしてはかなりお得といえるでしょう。

一連の新製品からも、中国系メーカーのコストパフォーマンスの高さが見て取れるだけに、中国外のメーカーにとっては価格競争に巻き込まれないよう、いかに差異化を図るかが生き残りのためにも重要です。そこで各社が重視しているのは、自社が強みを持つ技術をいかにスマートフォンに取り入れて、機能で確実なユーザーニーズをつかむ製品を提供できるかではないでしょうか。

技術を生かした個性でのファン醸成が重要に

技術で差異化を図る動きといえば、最近であれば折り畳めるディスプレイを採用した「Galaxy Z Flip3」を投入するサムスン電子がその象徴といえます。ですが、ここ最近の各社の新製品からは、それ以外の企業も自社技術のフル活用で差異化を進めようとしている様子が見て取れます。

例えば、ソニーが2021年10月26日に発表した「Xperia PRO-I」は、従来のXperiaシリーズ以上にソニーが強みを持つカメラへの注力を強化したスマートフォンです。同社の「RX100 VII」に搭載されている1.0型のイメージセンサーをスマートフォンに最適化して搭載し、さらにレンズにはドイツのカール・ツァイスの「ZEISS Tessar」レンズを採用するなど、高級コンパクトデジタルカメラに匹敵する性能のカメラに仕上げています。

  • ソニーのスマートフォン新機種「Xperia PRO-I」は、1インチセンサーの搭載で高級コンパクトデジタルカメラに匹敵するカメラ性能を備えている

それに加えてXperia PRO-Iには、素早く高画質の映像を撮影できるVloggerなどに向けた動画撮影アプリ「Videography Pro」を新たに搭載。動画撮影がしやすくなる専用のアクセサリーも用意するなど、写真だけでなく動画の撮影にこだわる人にも力を注いでいるようです。その分、値段は予想実売価格が198,000円と非常に高いのですが、自社のイメージング技術を徹底して盛り込み、価格より品質を求める写真や映像のプロ・セミプロにターゲットを絞ることで、確実な支持を得ようとしている様子を見て取ることができるでしょう。

  • VLogなどの撮影に適した「Videography Pro」を搭載し、動画撮影用のアクセサリーも提供するなどして、こだわりを持つVloggerの獲得にも力を入れているようだ

より普遍的な層を狙いながらも、技術で明確な差異化を図ろうとしているのが、2021年10月20日に発表したグーグルの「Pixel 6」シリーズです。Pixel 6シリーズは、最も安い「Pixel 6」の128GBモデルでも74,800円と、先のXiaomi Tシリーズと比べコストパフォーマンスが良いとはいえませんが、それでも大きな注目を集めているのは「Tensor」の存在です。

  • グーグルの最新スマートフォン「Pixel 6」シリーズ。カメラ部分がバー状になったデザインなど特徴的な要素は多いが、とりわけ注目されているのが独自チップセットの搭載だ

Tensorは、グーグルがPixel 6シリーズに向けて独自開発したチップセットで、従来のチップセットと比べAI関連の処理をより高速にこなせるのが大きなポイント。グーグルは以前よりAI関連の技術に大きな強みを持っていることから、Pixel 6シリーズはTensorを使うことで他のスマートフォンにはない機能を実現しているわけです。

その1つはカメラで、新たに背景の不要な人物などを消すことができる「消しゴムマジック」や、被写体の流れるような動きを表現できる「モーション モード」などの機能を追加。より簡単な操作で、高度な撮影ができるようになっています。

そしてもう1つ、より特徴的なのが音声や言語に関連する機能です。Pixel 6シリーズでは、「LINE」などのメッセンジャーアプリに入力した言葉をリアルタイムで他の言語に翻訳する「リアルタイム翻訳」や、動画などのコンテンツの音声を字幕にして表示する「自動字幕起こし」(日本語はベータ版)、話した言葉を最大48の言語に翻訳する「通訳モード」などの機能が新たに提供されるほか、従来英語しか対応していなかった「レコーダー」の文字起こし機能も日本語で使えるようになっています。

  • Pixel 6シリーズは、Tensorを用いたAI技術の活用で、メッセンジャーアプリに入力した文字をリアルタイムで翻訳する「リアルタイム翻訳」などを端末上で実現できるという

これだけ高度な機能を、Tensorの活用でほぼすべて端末上で処理し、プライバシーにも配慮しているという点はグーグルならではといえ、その技術が価格だけによらない差異化へとつながっていることは確かでしょう。

コモディティ化が進んだスマートフォンは、今後も低価格化が進むだけに、多くの企業にとって利益を出しにくい“おいしくない”ビジネスとなりつつあることは確かです。そうしたなかで、スケールメリットをあまり持たない、中国系ではないメーカーが生き残るには、技術による明確な個性を打ち出して継続的な支持をしてくれるファンをいかに獲得できるかにかかってくるといえそうです。