NTTドコモが2020年12月に「ahamo」を発表し、携帯電話業界に大きな衝撃を与えてからもうすぐ1年を迎えようとしています。ですが、NTTドコモ以外の2社はオンライン専用プランの内容を大幅にリニューアルしたり位置付けを変えたりするなど、戦略転換を図る動きを見せています。一体なぜでしょうか。

サービス内容激変のpovo、存在感低下のLINEMO

2020年12月3日に発表され、携帯電話業界に大きな衝撃を与えたのが、NTTドコモの料金プラン「ahamo」でした。ドコモショップでのサポートをカットする代わりに、税別月額2,980円(発表当時)でデータ通信量20GB、なおかつ1回あたり5分間の通話定額が付くなど、複雑な割引がなくシンプルかつ非常にコストパフォーマンスが高い料金プランであったことから、たちまち大きな評判を呼んだことは記憶に新しいかと思います。

  • NTTドコモが2020年12月に発表した「ahamo」は、3,000円を切る月額料金で20GBの通信量が利用できるコストパフォーマンスの高さで、たちまち大きな注目を集めた

そうしたことから、携帯各社はahamoに対抗するべく、相次いでオンライン専用のブランドを打ち出して追随する動きを見せました。実際、KDDIは「povo」、ソフトバンクは「LINEMO」といったブランドを相次いで立ち上げ、3,000円を切る価格でahamoと同様にオンライン専用、かつデータ通信量が20GBという料金プランを提供するに至りました。

その「ahamoショック」というべきできごとから、間もなく1年が経とうとしています。各社のオンライン専用プランの提供が始まったのは2021年3月から4月ごろなので、実際のサービス提供からは半年程度しか経過していないのですが、各社の動向を追ってみますと、オンライン専用プランは短期間のうちにかなり大きな変化が起きているのが分かります。

実際KDDIは、povoを「povo 2.0」にリニューアル。ベースの料金は月額0円で、高速データ通信量を必要に応じて追加するというプリペイド方式の要素を取り入れたプランに転換するなど、必要なサービスを有料で追加する「トッピング」の仕組みを生かしたまったく別の内容となり、大きな話題を詰めました。

  • KDDIは、2021年9月29日にpovoを「povo 2.0」にリニューアル。月額0円から利用できるようになり、月額料金に縛られない新しい使い方が可能になった

ソフトバンクのLINEMOは、従来の「スマホプラン」に加え、月額990円で3GBの通信量が利用できる、より安価な「ミニプラン」を追加しています。ですが、同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、2021年11月4日に実施された決算説明会で、ワイモバイルの方が顧客からの評判が良く、今後低価格帯はLINEMOよりワイモバイルに力を入れていく方針を示すなど、低価格帯戦略という意味では同社の中でLINEMOの存在感が落ちている印象です。

  • ソフトバンクは7月15日にLINEMOの新料金プラン「ミニプラン」を追加。通信量は3GBと少ないが、月額990円とより安価に利用できるようになった

オンライン専用プランは思った以上に伸びていない?

その一方で、ahamoはサービス開始以降は料金プランの内容に変化がなく、リニューアルを図る動きは見せていません。なぜ、各社のオンライン専用プランの扱いに差が出てきたのかといえば、影響しているのは契約数でしょう。

実際、2021年7月末時点で各社が決算で打ち出した契約数は、ahamoが約180万、povoが約90万、そしてLINEMOが50万を切るという状況で、かなりの差が付いていました。2021年10月末~11月頭に各社が決算で発表した数字を確認しますと、ahamoは約200万契約、povoはpovo 2.0の開始によって100万契約を超えたとしていますが、LINEMOはMVNOとして提供していた前身の「LINEモバイル」との合計で100万契約を超えたとする一方、LINEMO単体の契約数は公開しなくなったことから、契約が大きく伸びていないのではないかと推測されます。

  • ソフトバンクが2021年11月5日の決算説明会で公表したスマートフォン累計契約数。LINEMO・LINEモバイルの契約数も伸びてはいるが、ワイモバイルの伸びと比べれば明らかに小さい

そうした契約数の差が、KDDIやソフトバンクの戦略転換につながったといえますが、裏を返せばオンライン専用プランが思ったほど伸びなかったことから、各社がもともと描いていた戦略を取りやすくなったともいえます。

実はKDDIはもともと、トッピングの仕組みを活用したモバイル通信サービスを提供するシンガポールのCircles Lifeと提携して子会社を設立、eSIMを使ったオンライン特化型の若い世代向けモバイル通信サービスを提供する予定でした。ですが、NTTドコモがahamoを打ち出したことで急遽対抗策を打ち出す必要に迫られ、povoを提供するに至ったという経緯があります。

  • KDDIは、2020年10月に子会社を立ち上げることを発表。eSIMを活用したトッピングの仕組みを持つサービスを展開するCircles Lifeと提携し、この子会社を通じてオンライン専用の通信サービスをMVNOとして提供しようとしていた

それゆえ、もしahamoがなければ、当初からpovo 2.0に近いサービスを提供していた可能性が高かったと考えられるわけです。そして、当初のpovoがahamoに匹敵する大成功を収めたわけではなかったことから方針転換を図り、本来提供したかったpovo 2.0のサービスを提供するに至ったのではないでしょうか。

ソフトバンクも、もともと中・低価格帯はワイモバイルで注力する方針で、LINEMOの前身となるLINEモバイルは、どちらかといえば「LINE」のブランドを生かし、ソフトバンクやワイモバイルとは異なるユーザーを獲得する狙いが強いブランドでした。それが、ahamoの登場で急遽LINEMOを立ち上げる必要に迫られましたが、低価格帯はやはりワイモバイルを主軸にしたいというのが同社の本音であり、LINEMOの契約が思った以上に延びなかったことを受け、再びワイモバイル重視の姿勢に戻ったといえます。

KDDIもソフトバンクも、以前から低価格帯に強いサブブランドを持っていることから、オンライン専用プランでahamoと同様のサービスを提供するメリットは薄いといえます。オンライン専用プランは、それらの2ブランドではカバーできていなかった若くてリテラシーが高いユーザーなど、新しい領域の顧客を開拓するのに活用した方がメリットが大きいでしょうし、一連の戦略転換でその意味合いが強くなったといえそうです。

一方、NTTドコモはサブブランドを持たないことからahamoの重要性は非常に高く、3社の中で最も成功していることもあって、今後も大幅なリニューアルを図る可能性は低いでしょう。ただNTTドコモの場合、課題はオンライン専用プランではなく、他社がサブブランドでカバーしている低価格帯の領域です。

NTTドコモはこの領域をカバーするため、外部のMVNOと連携する「エコノミーMVNO」を打ち出し、さらにそのエコノミーMVNOに参加する「OCN モバイル ONE」を展開するNTTコミュニケーションズの子会社化を打ち出すなど、グループ間連携で強化を図る姿勢も見せています。ですが、エコノミーMVNOはあくまで別会社のサービスを活用するため、NTTドコモの従来プランの利用者は番号ポータビリティでの乗り換えが必要になるなど、他社のサブブランドよりも不利な要素がいくつかあるのも事実です。

  • NTTドコモは低価格領域をカバーするべく、外部のMVNOのサービスをドコモショップでサポートする「エコノミーMVNO」を発表。2021年10月21日より「OCN モバイル ONE」がその第1号サービスとして連携を開始している

ahamoの好調でオンライン専用プランでは他社に大きな差を付けたNTTドコモですが、低価格帯のサブブランド対抗という面では弱みがあるのも確か。トータルで見れば、各社ともに試行錯誤が続いているのが現状といえそうです。