この1年で、「au」「UQ mobile」「povo」の3ブランドに体制を大きく変えたKDDI。UQ mobileの「自宅セット割」や「povo 2.0」などで低価格サービスの強化を図る一方、「iPhone 13」シリーズの販売に合わせてauのプロモーションに力を入れるなど、3ブランドの立ち位置を生かして消費者へのアピールを進めています。コンシューマー向けの通信市場に向けたこの1年の戦略の変化と、今後の取り組みについて話を聞きました。

  • 3つのモバイル通信サービスのブランド「au」「UQ mobile」「povo」を擁するKDDI。携帯電話キャリアを取り巻く環境が激変したこの1年間の戦略や手応え、今後の取り組みについて、2人のキーマンに話をうかがった

    3つのモバイル通信サービスのブランド「au」「UQ mobile」「povo」を擁するKDDI。携帯電話キャリアを取り巻く環境が激変したこの1年間の戦略や手応え、今後の取り組みについて、2人のキーマンに話をうかがった

UQ mobileのアピールに全力を注いだ2021年前半

行政による料金引き下げ圧力の影響を強く受けたことで、2020年から2021年の1年で携帯電話市場は激変し、携帯各社は大幅な戦略転換を推し進めてきました。大手の一角を占めるKDDIもそうした市場の変化に対応するべく、従来力を入れてきた「au」だけでなく、より低価格の「UQ mobile」、そしてオンライン専用の「povo」の3ブランドを新たに展開し、幅広い層の顧客に対応できる体制を整えてきました。

KDDI マーケティング本部 副本部長の村元伸弥氏は、複数ブランド展開の狙いについて「各ブランドが持つ個性が認識され、ブランドの個性と使い方で選べる選択肢が増えた」と説明。3ブランド展開が競争上ポジティブな影響を与えていると話します。

  • KDDI パーソナル事業本部 マーケティング本部 副本部長の村元伸弥氏

なかでも、2021年前半に注目を集めたのがUQ mobileです。2021年6月には、指定の電力サービスを契約すると割引が受けられる「でんきセット割」(2021年9月2日からはリニューアルした「自宅セット割」を提供)を開始し、家族割引サービスの恩恵が受けられなかった単身者でも、最も安価なプランであれば月額1,000円を切る低料金で利用できるようになったことは大きなインパクトを与えました。

  • 「UQ mobile」はCMキャラクターを一新するなど、プロモーションを大幅に強化しただけでなく、適用すると最も安いプランでは月額1,000円を切る「自宅セット割」などの提供も話題となった

UQ mobileのプロモーションに力を入れてきた理由について、村元氏は取扱店舗の拡大を挙げています。KDDIは2021年7月上旬より、auショップ全店舗でUQ mobileの取り扱いを開始するなど、UQ mobileの取扱店舗を急拡大していることから、そのタイミングに合わせてプロモーションを大幅に強化するにいたったとのことです。

その結果、UQ mobileの契約者が増えただけでなく、auショップ自体への来店も増えているとのこと。「auとUQ mobileを一緒に比べる機会が増え、auを選んでもらう機会も増えるなど相乗効果が出ている」と村元氏は話し、双方のブランドやサービスの認知が高まって大きな成果をもたらしたとしています。

大規模アピールが難しいなか、新iPhone商戦の取り組みは

ですが、村元氏によると、実はUQ mobileの注力にはiPhoneの販売戦略も大きく影響しているとのこと。新iPhoneの販売商戦を迎える秋には、その販売の主力となるauのプロモーションに力を入れる必要があることから、年の前半のうちにUQ mobileの認知を高めておく必要がある、という事情もあったようです。

ただ、2020年にiPhone 12シリーズが登場した際は、auの新サービス発表会を実施するなど積極的な取り組みを打ち出していたのと比べると、2021年のiPhone 13シリーズ発表に合わせては発売会やイベントも実施されず、例年と比べ盛り上げ方が弱い印象も受けます。

  • KDDIは、2020年のiPhone 12シリーズ発表後に発表会を実施し、iPhone向けのさまざまな施策をアピールしたが、2021年はそうしたイベント自体実施されなかった

この点について村元氏は、「緊急事態宣言などもあって派手なイベントはできなかったが、iPhoneを購入しやすい環境を作って準備してきた」と答えます。その1つに挙げられるのが、新しい端末購入プログラム「スマホトクするプログラム」で、従来の「かえトクプログラム」で残債免除の条件となっていたプログラム継続の上での機種変更が不要となったのが大きな変更点といえます。

この変更は、機種変更を求めることが契約の“縛り”につながることを懸念する総務省や公正取引委員会からの要請によるところが大きいとみられますが、村元氏は「(総務省などからの)指摘が顧客のサービスの質を上げるためのものと捉え、今回プログラムの見直しを実施した」と答えています。実際、スマホトクするプログラムには、支払い方法を「au PAYカード」にすることで最大で支払総額の5%相当のPontaポイントを還元する「スマホトクするボーナス」が新たに追加されるなど、従来より利用者へのメリットが大きくなっています。

デジタルネイティブ世代の価値観を意識した「povo 2.0」

一方、iPhone 13シリーズの発売からほどなくして提供を開始し、話題となっているのが「povo 2.0」です。月額基本料0円から利用できるインパクトに加え、通信量だけでなく利用できる期間も異なるトッピングを用意し、「月あたり○○GB」といった従来の料金プランの概念を大きく覆した内容で注目されました。

  • 「povo 2.0」は月額0円で、必要な通信量を必要なだけトッピングするという、従来の料金プランの概念とは大きく異なる内容で大きな話題を呼んだ

ですが、以前の「povo 1.0」を開始したのは2021年3月で、短期間のうちにサービスを大きく変えたのはなぜでしょうか。KDDI パーソナル事業本部 マーケティング本部 マーケティング企画部 部長の門脇誠氏は、「トッピングというコンセプトが顧客から面白いと好評をいただいており、少し進化させられないかという話が社内で出ていた」というのがそのきっかけだったとのこと。そこで、ベースの料金を0円にし、ライフスタイルに合わせてトッピングを追加するよう、利用者に料金の仕組みを委ねるというpovo 2.0の仕組みに行き着いたのだそうです。

  • KDDI マーケティング本部 マーケティング企画部 部長の門脇誠氏

povo 2.0の特徴的なサービスとしては、特定のお店で買い物をしたり、抽選で当たったりすることで通信量がもらえるクーポンが入手できる「#ギガ活」がありますが、こちらについて門脇氏は「トッピングの特徴を活用したプロモーションとして#ギガ活を導入した」と話しています。ポイントを獲得するのと同じ感覚で“ギガ”を手に入れることで、povoのトッピングという特色を楽しんでもらうことが狙いになるそうです。

村元氏は、povoがターゲットとするデジタルネイティブ世代について、「モノよりコト、体験を重視するなど、我々のマーケティングからは計り知れない消費活動が広がっている」と話しています。そうした顧客層を意識し、povoでは従来にない価値観を持ち、顧客の声をスピーディーに取り入れることで、従来の通信会社のサービスとは異なるアプローチをしていく方針のようです。

充実が進む5G、利用促進の要となるのは

では、それらの3ブランドを支えるネットワークインフラについては、どのような取り組みを進めているのでしょうか。KDDIは、5Gのネットワーク整備に力を入れていますが、なかでも特に力を入れているのが生活導線上、より具体的には都市部の鉄道沿線や商業地域です。

村元氏は「5Gを点で感じるより、ある程度生活動線の中で体感できるという意味で、体感機会が深くなっていると理解している」と話しており、日常生活での移動や買い物などで、途切れなく5Gが利用できることを重視したインフラ整備とアピールを進めているようです。

  • KDDIの5Gエリア整備は生活導線上、具体的には鉄道沿線や商業施設などに重点を置いて進めている

ただ、現在はコロナ禍ということや、緊急事態宣言が幾度となく発令され移動の自粛が求められたことなどもあり、自宅で過ごす機会が多くなっているのも事実です。それでも生活動線を重視した整備を進めているのは、緊急事態宣言、ひいてはコロナ禍が明けて再び移動が活発になることを見越しているからこそ、と村元氏は答えています。

一方、現在多くの人が過ごしている住宅地での5G整備について、村元氏は「自宅は固定回線を引いている世帯が非常に多く、割と不自由のない通信環境が整備されている家庭が多いと理解している」と答えています。固定ブロードバンド回線の普及率が高いことから、住宅地での5G整備を急ぐ必要はないと判断しているようで、当面は生活動線に重点を置いた整備を進めていく方針のようです。

ですが、5Gの利用を拡大するうえでは、インフラだけでなくそれを利用するデバイスやサービスの普及も求められます。デバイス面では、2021年に入ってスマートフォンの5G対応が低価格帯のモデルにまで広がり、解消の道筋が見えてきていることから、今後は5Gの利活用を促進するサービスの充実が強く求められることとなります。

村元氏は「日々のデータ通信利用でサクサク感のある5Gは体感的に満足度が高く、今まで使っているものがストレスなく使えるところが満足度に寄与すると思っている」と話していますが、一方で5Gの利活用を促進するコンテンツやサービスに関する取り組みも積極的に推し進めているとのこと。その1つが、2021年9月に発表した「VIRTUAL CITY」構想などメタバースに関する取り組みです。「(メタバースは)まだ一般的ではないが、この先一般的になれば高速・低遅延のサービス利用を進めるうえで重要になってくる」と門脇氏は説明、積極的な取り組みを進めていきたいとしています。

  • KDDIは、5Gの性能を生かす取り組みの1つとして、メタバースを活用し、リアルとバーチャルの空間を融合させた「VIRTUAL CITY」構想を打ち出している

また、5G時代は行政による規制の影響もあり、従来のように端末や料金施策だけで他社と差異化を図ることが難しくなりつつあります。そこでKDDIは、以前より力を入れているネットフリックスなどの外部サービスとの連携に加え、「au PAY」などKDDIやグループ企業が提供するサービスとの連携を強化すること、それに加えてpovoなどで従来とは大きく異なるニーズを捉えるサービスを提供することなど、複数の要素を重ね合わせて一層の差異化を図っていきたい考えのようです。

そうした取り組みが好循環につながり、競争力を強化できるかどうかが、KDDIの競争力向上には重要になってくるでしょう。携帯電話会社が競争を勝ち抜くうえで、従来以上に総合力が問われるようになってきたことは確かだといえそうです。