5月19日、NTTドコモが夏商戦に向けた新サービス・新商品発表会を実施しました。ですが、夏商戦向けとして打ち出されたスマートフォンの新機種は、ハイエンドモデルを中心として、すでに各端末メーカーが発表済みのものが多くを占めていました。なぜ携帯電話会社よりも先に、端末メーカー主導で新機種を発表するようになったのでしょうか。

発表済みの端末が並んだNTTドコモの新商品発表

夏の商戦期を控え、スマートフォンの新機種が次々と発表されていますが、そうしたなかNTTドコモは5月19日に新サービス・新商品発表会を実施。そこで発表されたのは、eスポーツ「X-MOMENT」の新リーグや、5Gを固定回線代わりに使用するホームルーター「home 5G」など多岐にわたりましたが、やはり注目されるのはスマートフォンの新機種です。

ですが、今回の発表会で打ち出された夏商戦向けのスマートフォンを見ると、すでに販売が始まっている「Galaxy S21」「Galaxy S21 Ultra」に加え、すでにNTTドコモからの発売が発表されている「Xperia 1 III」「AQUOS R6」などが多くを占めており、正直なところ驚きが弱い内容だったといえます。

  • NTTドコモは、5月19日に新サービス・新商品発表会を実施。夏商戦向けのスマートフォンも打ち出されたが、約半数はすでに発表済みのものだった

もちろん、東京五輪モデルの「Galaxy S21 5G Olympic Games Edition」のほか、「Galaxy A52 5G」「Xperia Ace II」「arrows Be4」など、純粋な新機種も3機種発表されました。ただ、これらはミドルクラスのモデルで、うち2機種は4Gのみ対応の低価格モデルとなっており、インパクトはあまり大きくありません。

  • 東京五輪モデルを除く、純粋なスマートフォン新機種として発表されたのは3機種。そのうち5G対応機種は「Galaxy A52 5G」のみだ

しかも、NTTドコモ以外は夏商戦に向けた発表会を実施する様子はなく、KDDIやソフトバンクは各メーカーの発表会に相乗りする形で、自社ブランドでの製品発表をするケースが増えています。2020年には5Gの発表に合わせて、各社がスマートフォン新製品を大々的に発表して注目されましたが、1年経った現在、大規模な発表会を実施してスマートフォン新機種をアピールしようという様子は見られません。

  • KDDIは、2020年に5Gの発表イベントで対応スマートフォンを相次いで発表。多数のラインアップを揃えたことをアピールしていた

消費者がモバイル通信を利用するうえで、スマートフォンは重要な存在であることに変わりはなく、その新機種には現在も大きな関心が寄せられています。なぜ携帯各社は、かつて力を入れていたスマートフォンの新製品発表を実施せず、メーカーに任せる方向へと舵を切りつつあるのでしょうか。

スマホではもう他社との違いを打ち出せなくなった

そこにはいくつかの要因がありますが、大きなものとしてはiPhoneが圧倒的シェアを持ったことで、携帯電話会社にとってiPhone以外のスマートフォン新機種の重要性が大きく落ちたことが挙げられるでしょう。ですがもう1つ、端末開発に携帯電話会社が関与する部分が減っていることも、大きな要因になっていると考えられます。

かつて、携帯各社は他社との差異化を図るため、メーカーと協力してオリジナルの携帯電話やスマートフォンを積極的に開発していました。ですが、最近はメーカーが開発したスマートフォンをベースに、FeliCa対応や自社サービスを利用するためのアプリを追加するなど、最小限のカスタイズをするだけで販売する傾向が強まっています。

  • NTTドコモは、2017年にオリジナルの2画面スマートフォン「M」をZTEと共同で開発したが、こうした意欲的なオリジナルモデルの開発は近年あまり見られなくなっている

そこには、世界的に同じモデルを販売するiPhoneが日本で受け入れられたこと、3Gから4Gへの移行で携帯電話会社ごとに異なっていた通信規格が統一され、海外メーカーから端末調達がしやすくなったこと、そして政府のスマートフォン値引き規制で端末販売が伸び悩んでいること……など、いくつかの要因が影響しています。携帯電話会社としても、メーカーが提供するスマートフォンを可能な限りそのままの形で調達した方がコストが抑えられるので、コストがかかるオリジナルの端末開発に力を入れなくなったといえるでしょう。

もちろん、現在もオリジナルモデルに類するものはいくつか登場しています。最近であれば、ソフトバンクがワイモバイルブランドで販売している「Libero 5G」や、楽天モバイルの「Rakuten BIG s」などがそれに当たります。ですが、これらは各メーカーが海外で販売している既存のスマートフォンをベースに、携帯各社の要望に応じて機能を追加したものであることが多く、かつてと比べれば携帯電話会社が開発に関与している部分は大きくありません。

  • ワイモバイルオリジナルの5Gスマートフォン「Libero 5G」は、ZTEが海外で販売するミドルクラスの「Blade」シリーズの端末をベースに、FeliCaに対応するなどのカスタマイズを施したものだ

そうしたことから、携帯各社はスマートフォンで他社との違いを打ち出すのが難しくなっており、大々的に発表してもアピールにつながらないことから発表に力を入れなくなったといえます。実際ソフトバンクは、ソフトバンクモバイル時代の2014年に大々的な新機種発表会を控えるとしており、その後大規模なスマートフォン新機種発表イベントは不定期での開催となっています。

KDDIも2018年ごろを境として、新機種を大々的に発表するイベントの実施が減少傾向にあり、料金やサービスで大きな動きがあった時だけ、スマートフォンも同時にアピールするという傾向が強まっています。2020年に各社が新機種を大々的に発表したのは、5Gというビッグイベントがあったからこそといえ、実はかなり例外的な状況でもあったわけです。

そうしたことから今後、イベントなどでスマートフォンの新機種が一堂に介する機会は減っていくことが予想されます。スマートフォンの新機種に高い関心を持つ人には非常に残念なことではあるのですが、スマートフォン自体がすでに最先端の存在ではなくなっているだけに、やむを得ない部分もあるといえそうです。