KDDIは6月7日、同社のサブブランド「UQ mobile」の新サービスをいくつか発表したのですが、中でも注目されたのは、同社の電力サービス「UQでんき」「auでんき」を契約するとUQ mobileの月額料金が割り引かれる「でんきセット割」です。こうした割引は、これまで家族の人数に応じたものが主流だったのですが、なぜKDDIは電力サービスとセットで契約すると料金を割り引くという、従来にない仕組みを導入するに至ったのでしょうか。

電力とのセット契約で、1人の契約でも月額1,000円切りを実現

2020年末から大きな話題となっていた携帯各社の新料金プランが出揃い、携帯電話業界も落ち着きを取り戻しつつあります。ですが、そうしたなか、KDDIがサブブランドとして展開する「UQ mobile」に関して、6月7日に新たな発表を実施しました。

UQ mobileは、KDDI傘下のUQコミュニケーションズがMVNOとして運営していたのを、2020年にKDDIが承継し、サブブランドとして直接運営する形へと変更がなされました。それ以降、契約を順調に伸ばしているようで、2021年5月には300万契約を突破したとのこと。今後も、UQ mobileが強みとする小・中容量の料金プランは利用が増えると見ているようで、さらなる契約拡大のため新たな施策を打ち出すに至ったとのことです。

  • KDDIが事業承継して以降、UQ mobileは契約数を順調に拡大。2021年5月には300万契約を突破したという

その中で打ち出されたのは、auショップ全店舗でUQ mobileの取り扱いを開始し、UQ mobile利用者のサポート充実が図られるようになったことや、「iPhone 12」「AQUOS sense5G」など5Gに対応した新機種の投入などですが、最も注目されたのはやはり料金関連の施策でしょう。

UQ mobileは今回の発表で、新たな割引サービス「でんきセット割」を6月10日より開始すると発表しました。これは、KDDIが提供する「UQでんき」「auでんき」を契約している人が専用サイトから申し込むことで、UQ mobileの月額料金を割り引くというものです。

  • UQ mobileが新たに打ち出した「でんきセット割」。「UQでんき」「auでんき」とのセットで「くりこしプラン」の料金を値引きするもので、最も安い「くりこしプランS」は月額990円で利用できる

割引額は、現行の料金プラン「くりこしプラン」の料金によって638円~858円と変わるようですが、「くりこしプランS」(月額1,628円)にでんきセット割を適用した場合は月額990円となり、1,000円を切る価格で利用できるとのこと。また、「くりこしプランL」(月額3,828円)に適用した場合は月額2,970円と、KDDIのオンライン専用プランであるpovoの月額料金(2,728円)に近い金額で、月25GBとpovoより多いデータ通信量の利用が可能となるようです。

この割引内容を見ますと、競合となるソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」に対抗する狙いが非常に強く、最も安価なプランで割引を適用すると月額1,000円を切るというのはワイモバイルが先に打ち出している施策でもあります。ですがワイモバイルの場合、従来の携帯電話サービスで一般的な家族の人数に応じた割引で、割引がなされるのは2回線目以降に限られるのに対し、UQ mobileは自社の電力サービスの契約とセットで、1人でも割引が受けられるのが大きな違いといえるでしょう。

伸ばせない通信事業の代わりに周辺サービスを拡大

では、UQ mobileはなぜ、割引の対象として電力サービスを選んだのでしょうか。理由の1つとしては、くりこしプランが単身者でもお得に利用できることを訴えてきたことから、家族だけでなく単身者でも割引を適用しやすい手段として、電力を対象にしたことが考えられます。

ですがもう1つ、より大きいのは「au経済圏」の存在でしょう。KDDIは通信サービスを軸としながら、決済や金融、コマースなど幅広いサービスを提供し、それを共通ポイントプログラムの「Ponta」で結びつける独自の「au経済圏」という戦略を取っています。

しかも、KDDIの主力事業である携帯電話を主体とした通信事業は、少子高齢化に加え政府から値下げ要請がなされるなどして、事業を大きく伸ばすのが困難になっています。そうしたことから、同社は事業拡大のためau経済圏の拡大に力を注いでいます。最近であれば、6月1日にフードデリバリーサービス「menu」を提供するmenu社と資本・業務提携を結び、両社でau IDを軸に飲食店に関連した深い連携を図ることを打ち出したことが、その一環といえるでしょう。

  • KDDIは、フードデリバリーサービス「menu」を提供するmenu社との資本提携を発表したが、これもau経済圏を拡大する取り組みの一環となっている

そしてau経済圏の中でも、KDDIが現在力を入れている事業の1つに挙げられるのが電力なのです。実際、KDDIは「auでんき」などの獲得を主要な指標の1つとして獲得に非常に力を入れており、2020年度には248万契約を獲得、2021年度にはそれを288万と、300万近い契約数にまで伸ばす計画を立てているのです。

  • KDDIの2021年3月期決算説明会資料より。「auでんき」などの電力事業は、KDDIがau経済圏を拡大するうえで重要な位置付けとなっており、2021年度には288万契約を目指すとしている

そうしたことからKDDIは、割引サービスを提供していなかったUQ mobileのくりこしプランに、電力サービスとのセットという新たな割引を追加することで、電力サービス契約を増やしau経済圏の拡大を図りたい狙いがあるといえるでしょう。そして、UQ mobileで大きな成果を出すことができれば、今後それが他のサービスとセットでの割引につながったり、あるいはauブランドに同様の割引が導入されたりする可能性もあるかもしれません。

ただ、povoなどオンライン専用プランの提供で可視化されたように、セット割引などの複雑な割引の仕組みを嫌う消費者も少なからずいることから、あまりセット割に力を入れすぎると消費者から猛反発を受ける可能性が少なからずあります。それだけに、同種の割引施策を増やすうえでは、消費者が求める割引とシンプルさのバランスをいかに取ることができるかが、重要になってくるといえそうです。