スマートフォンに2つのSIMを搭載できるようになったことでニーズが生まれた「副回線」。最近ではメイン回線の通信品質に不満を抱く人達に向け、通信品質の良さをアピールし副回線としての利用をアピールするサービスも出てきていますが、実際のところ副回線にはどの程度のニーズと商機があるのでしょうか。MMDLaboの調査から確認してみましょう。

災害時の備えや通信品質改善などでサービスが拡大

ここ最近日本で販売されているスマートフォンの多くは、物理SIMと内蔵型の「eSIM」の2つを搭載していることが多く、中には米アップルの「iPhone」シリーズのように、eSIMのみ搭載する機種も出てきています。そしてeSIMの広がりによって、開拓が進められようとしているのが副回線です。

副回線とは、メイン回線とは別の回線のSIMをスマートフォンに搭載し、サブ用途で利用するもの。その副回線を明確にうたったサービスといえば、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が2023年から提供していた「副回線サービス」が思い起こされます。

これは自社のメイン回線のSIMとは別に、他社回線のSIMをスマートフォンに入れてもらい、災害時や通信障害時などでメイン回線が使えなくなった時に、そちらに切り替えて通信を継続するサービス。2026年4月に、災害時などに他社回線に乗り入れる「JAPANローミング」が提供されるまでのつなぎというべきサービスだったため、2026年8月から9月にかけて各社ともサービスを終了してしまいましたが、デュアルSIMの仕組みを有効活用する事例として注目されていました。

  • 副回線の代表例となったのが、携帯3社が最近まで提供していた「副回線サービス」。災害や通信障害の備えとしてデュアルSIMの仕組みを活用し、メイン回線とは別の会社の通信回線を1台のスマートフォンで利用できるサービスだった

    副回線の代表例となったのが、携帯3社が最近まで提供していた「副回線サービス」。災害や通信障害の備えとしてデュアルSIMの仕組みを活用し、メイン回線とは別の会社の通信回線を1台のスマートフォンで利用できるサービスだった

ただ他にも副回線としての利用を促すサービスは出てきており、その代表例となるのがKDDIの「povo」です。povoはプリペイド方式で毎月の維持費がかからないことから、2021年の提供開始当初から副回線としての利用ニーズも一定数存在しました。

ですが副回線としての注目を集めたのは2026年、メイン回線の通信品質に不満を抱く競合を狙い、副回線需要開拓に向けたキャンペーン施策を打ったことでしょう。中でもそのターゲットとなったのは、KDDIと2026年10月に契約を更新しローミングエリアが狭くなった楽天モバイルで、KDDIの代表取締役社長である松田浩路氏も、決算説明会でローミングエリアが縮小する楽天モバイルに対し、povoでの支援を提案する一幕もあった程です。

  • KDDIの「povo」は通信品質低下が指摘される楽天モバイルなどを狙い撃ちし、それらの契約者にpovoを副回線として利用してもらうキャンペーンを2026年6月から展開している

    KDDIの「povo」は通信品質低下が指摘される楽天モバイルなどを狙い撃ちし、それらの契約者にpovoを副回線として利用してもらうキャンペーンを2026年6月から展開している

また現在では、日本通信の「合理的シンプル290プラン」や、オプテージ「mineo」の「マイそくスーパーライト」など、MVNOを中心に500円以下で利用できる、副回線にも適したサービスがいくつか出てきています。さらに言えば、NTTドコモの「ahamo」やソフトバンクの「LINEMO」、そして楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」など、携帯大手の比較的低価格なプランも副回線としての利用に適しているでしょう。

利用者の開拓の余地はあるが、ビジネスには課題が

ただそうした副回線の利用が、多くの人に広まっているかというと話は別ですし、そもそも1台のスマートフォンで2つの回線を利用できること自体、まだ知らない人も多いかと思います。そこで実際に、副回線がどの程度利用されているのかを調査したのが調査会社のMMDLaboです。

同社が2026年9月に、約6万人を対象に調査をしておりその結果を公表しているのですが、2回線以上利用している人は全体の7.3%と、やはり多くはないようです。ただ副回線を利用していない人であっても、興味があるという人は2割ほどいるそうで、今後市場が伸びる可能性はあるとしています。

  • MMDLaboの調査によると、2026年9月時点で2回線以上利用している人の割合は7.3%。人口1億人に対していえば730万人くらいの規模とのことで、あまり多いとは言えない(出所:MMDLabo)

    MMDLaboの調査によると、2026年9月時点で2回線以上利用している人の割合は7.3%。人口1億人に対していえば730万人くらいの規模とのことで、あまり多いとは言えない(出所:MMDLabo)

では実際のところ、副回線サービスとしてどのようなサービスが利用されているのでしょうか。同社の調査によると、最もシェアが高いのは基本的に月額料金がかからないpovoで、次に日本通信や「IIJmio」などのMVNOが続く状況。ただLINEMOや楽天モバイルもそれらに続くシェアを獲得しており、副回線としての利用ニーズが高いことを示しています。

  • 副回線サービスとして高いシェアを持つのはpovoで、その後も低価格に強みを持つMVNOや、楽天モバイルなどが続いている(出所:MMDLabo)

    副回線サービスとして高いシェアを持つのはpovoで、その後も低価格に強みを持つMVNOや、楽天モバイルなどが続いている(出所:MMDLabo)

そしてメイン回線と副回線の組み合わせで、最も多いのは楽天モバイルとpovoとのこと。ただNTTドコモとahamoなど、同じ会社のネットワークを副回線として使うケースも多いようで、副回線のニーズも災害時のバックアップや通信品質対策より、日常的な通話や通信が多いといいます。

その理由は、調査対象に同じ機種で複数回線を使用しているかどうかが調査項目に盛り込まれていないためとのこと。スマートフォンだけでなく、タブレットやモバイルWi-Fiルーターなどで副回線を利用しているケースも含まれることから、バックアップ用途よりも日常利用のニーズが多く出ている可能性があるようです。

  • メイン回線と副回線の組み合わせで多いのは楽天モバイルとpovo。だがNTTドコモと「ahamo」など、同じ会社のサービスを組み合わせるケースも見られる(出所:MMDLabo)

    メイン回線と副回線の組み合わせで多いのは楽天モバイルとpovo。だがNTTドコモと「ahamo」など、同じ会社のサービスを組み合わせるケースも見られる(出所:MMDLabo)

ただ一方で、副回線を契約する上で重視したポイントは、「月額料金の安さ」が圧倒的とのこと。既にメインで利用する回線を保有しているだけに、副回線にはあまりお金をかけたくない様子が明確に見えてきます。

  • 副回線のニーズは低価格であることが圧倒的なことから、通信会社の立場に立つとメリットが見出しにくい部分もある(出所:MMDLabo)

    副回線のニーズは低価格であることが圧倒的なことから、通信会社の立場に立つとメリットが見出しにくい部分もある(出所:MMDLabo)

それだけに通信事業者の視点からすると、副回線の需要開拓が進んでも、低価格のプランばかり選ばれてしまってはビジネス面でのメリットがほとんどなく、力を入れる理由にならないように感じてしまいます。この点についてMMDLabo代表である吉本浩司氏は、「副回線を利用し、メイン回線の方がよくないと認識を持てば、副回線をメイン回線にスイッチングする可能性がある」と話し、副回線を経由してメイン回線に昇格することで、競合から顧客を奪うことがビジネスチャンスになると見ているようです。

  • 2026年10月22日にMMDLaboが実施したメディア向け勉強会に登壇する、MMDLaboの吉本氏

    2026年10月22日にMMDLaboが実施したメディア向け勉強会に登壇する、MMDLaboの吉本氏

実際、povoは副回線としての利用を広げてから、通信品質やサービスの良さを理解してもらい、メイン回線へ移行してもらうことに力を注いでいます。低価格が非常に重視されるだけあってビジネスにはかなりの難しさを伴いそうですが、副回線の需要開拓がうまく進めば、携帯電話市場の新たな成長要素になり得るかもしれません。