QRコード決済を主体としたスマートフォン決済で大きな存在感を示すようになったPayPayは、1月17日に新たな取り組みを発表。飲食店で40%を還元するキャンペーンを打ち出したほか、金融サービスの提供に向けた取り組みを表明しました。その内容からは、スマートフォン決済の競争が新しい段階に移りつつある様子が見て取れます。
大規模施策で短期間のうちに頭角を現したPayPay
2019年を改めて振り返ると、QR決済を中心に、スマートフォン決済がとても大きな盛り上がりを見せた年だったといえるでしょう。
特に大きな話題を振りまいたのが、各社の大規模キャンペーン。スマートフォン決済は短期間のうちに参入事業者が急増したことから、各社が利用者拡大のために「20%還元」「1000円あげちゃう」など、お得なキャンペーンを多数展開したことがスマホユーザーに大きなインパクトを与え、利用促進につながったことは確かでしょう。
そうしたスマートフォン決済の中で一歩抜きんでた存在となったのが、ソフトバンクグループの「PayPay」です。PayPayは、100億円を費やした大規模還元キャンペーンや、お笑い芸人の宮川大輔さんを起用したテレビCM展開、そして全国20か所に営業拠点を構えて積極的な加盟店開拓を実施するなど、ソフトバンクグループとその傘下のソフトバンク、ヤフーのリソースを積極活用することで、短期間のうちに存在感を高めることに成功しました。
1月17日に同社が実施した発表会で明らかにされた数字からも、その急拡大ぶりが見て取れます。PayPayのサービス開始は2018年10月と、まだ開始から1年程度しか経過していないにもかかわらず、発表会の実施時点でのユーザー数はすでに2300万人超で、加盟店の申込数は185万か所超に達しているとのこと。2019年12月には、単月での決済回数が1億回を超えたそうです。
しかも今後、PayPayにはさらなる追い風が吹くと考えられます。それは、ヤフー(PayPayの親会社の1つ)の親会社であるZホールディングスと、ライバルの「LINE Pay」を持つLINEが経営統合を発表していることです。
さまざまな統計などを見ても、PayPayとLINE Payはともにスマートフォン決済の中で利用者数の上位を占めています。現時点ではまだ経営統合が完了していないので、どのような形での統合になるかは未知数です。しかし、統合後には両サービスの統合も進められるとみられ、さらなる規模拡大へとつながって市場での存在感を一層高める可能性が高いでしょう。
従来の“バラマキ”とは大きく異なる40%還元
そうしたことから、スマートフォン決済の“勝ち組”となりつつあるPayPayですが、さらなる利用拡大に向け、発表会では新たな取り組みを2つ打ち出していました。その1つが、PayPayのアプリ内でローンや投資などの金融サービスを提供することです。
PayPayは店舗での決済のほか、最近では「PayPayモール」などオンラインでの決済にも対応させるなど、決済利用シーンの拡大を推し進めています。さらに、PayPayは2019年9月30日に「資金決済に関する法律」における資金移動業の登録を完了させ、現金として払い出しできる「PayPay マネー」をサービスに追加しています。このことから、単にお金を支払うだけでなく、お金を扱うさまざまなサービスを強化する方針を推し進めるに至ったといえるでしょう。
決済を軸に金融へとサービスを拡大する取り組みは、ここ最近急速に広がっています。実際、「au WALLET」や「au PAY」を展開するKDDIは、傘下のauフィナンシャルホールディングスを通じて、au WALLETアプリ上でさまざまな金融サービスを提供する取り組みを拡大しています。
こうした取り組みは、1つのアプリをプラットフォームとして活用し、その上でミニアプリを用意して生活に関するさまざまなサービスを提供する、最近注目の「スーパーアプリ」へとつながるものでもあります。PayPayは、金融サービスへの進出によって、決済アプリからスーパーアプリ化への第一歩を踏み出そうとしているわけです。
そして、もう1つの取り組みとなるのが、指定の飲食店でPayPay決済すると40%還元されるというキャンペーンです(2020年2月に実施予定)。「すき家」「吉野家」「はなまるうどん」など7社が展開する飲食店と、PayPayでの決済が利用できる「Coke On Pay」対応の日本コカ・コーラの自動販売機がその対象となり、Yahoo!プレミアム会員であれば還元額が10%上乗せされ、なんと50%もの還元がなされるとのことです。
一見すると、最大で50%も還元されるキャンペーンとあって非常にお得なように見えるのですが、その内容をよく見ると、1回当たりの付与上限は最大で500円、期間内の上限が1500円に制限されています。しかも、かつての「100億円還元キャンペーン」が店舗を選ばず利用できたのと比べると、今回のキャンペーンは対象となる店舗が非常に限定されている印象を受けます。
今回のキャンペーンにかける予算は明らかにされなかったので、これはあくまで筆者の推測になるのですが、店舗が限定されているということはPayPay側だけでなく対象となる店舗側も還元額を負担している可能性が考えられます。それだけに、今回のキャンペーン施策は、かつての100億円キャンペーンのように大規模な予算を費やした“バラマキ”ではなく、かなり予算をコントロールしている印象を受けるのです。
効率化されたこのキャンペーンと、PayPay上のサービス拡大という2つの施策からは、PayPayが一定のユーザー数を確保したことで、認知を高めてPayPay自体の利用者を増やすフェーズから、利用者の“財布”をPayPayに取り込んで新たなビジネスを展開するフェーズへと移行しつつある様子が見て取れます。そして、先のau PAYのように、同様の動きは他のスマートフォン決済サービスからも見て取ることができることから、2020年のスマートフォン決済競争は「大規模キャンペーン」から「スーパーアプリを巡る戦い」へと、徐々に変化していく可能性が高いと考えられます。
ですが、これらのことは、消費者から見ればお得なキャンペーンが減ることで、それを目当てとして利用が拡大していたスマートフォン決済の利用意欲を失わせることにもつながりかねません。いかにお得さを打ち出して決済の利用を継続させながらも、金融など新しいサービスの利用を広げて定着へと進めていくかが、PayPay、そしてスマートフォン決済を手掛ける事業者には求められることになりそうです。
著者プロフィール
佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。