電気通信事業法改正で高額スマートフォンの値引きが禁止された影響を受け、3万円を切る低価格のスマートフォンが増えています。ですが最近では、そこまで安くはないけれどハイエンドスマートフォンよりは安い、5万円台のスマートフォンも増えつつあるようです。これまであまり目立たなかった5万円台のスマートフォンですが、なぜここにきて数が増えているのでしょうか。

1億800万画素スマホ「Mi Note 10」は驚きの5万円台

2019年12月9日、中国のスマートフォンメーカーであるシャオミが日本進出を正式に発表しました。ウェアラブルデバイスやスーツケース、炊飯器など、さまざまな製品の日本投入を発表したシャオミですが、やはり発表の中心となっていたのはスマートフォンです。

同社が日本市場への投入を発表したのは「Mi Note 10」と「Mi Note 10 Pro」の2機種。これらはいずれも、1億800万画素という非常に高い画素数のイメージセンサーを備えたカメラをはじめ、背面に合計で5つのカメラを搭載するなど、カメラ機能にとても力の入ったスマートフォンです。

  • シャオミの日本投入第一弾となった「Mi Note10」。1億画素超えのカメラを含む5つのカメラを搭載するなど、カメラの性能にこだわったスマートフォンである

ですが、それ以上に驚きをもたらしたのが価格です。非常に高いカメラ性能に加え、側面がカーブした6.47インチの有機ELディスプレイ、そしてディスプレイ内蔵型の指紋センサーを備えながらも、Mi Note 10は5万2800円(税別)、Mi Note 10 Proは6万4800円(税別)と、かなりリーズナブルな価格設定がなされたのです。

  • 充実した機能・性能を備えながらも、Mi Note 10は5万2800円とかなりリーズナブルな値段で提供されることが驚きをもたらした

シャオミはもともと、高性能なスマートフォンを相場よりかなり安い価格で提供するというコストパフォーマンスの高さで急成長したメーカーです。それだけに、Mi Note 10/10 Proもその価格競争力を存分に発揮した機種といえるのですが、一方で気になったのは、低価格スマートフォンの売れ筋とされている3万円台のモデルの投入がなかったことです。

シャオミが現在のタイミングで日本市場に進出した背景には、2019年10月の電気通信事業法改正が影響していると言われています。この法改正によって、携帯電話会社が高額なスマートフォンを大幅に値引いて販売することができなくなったことから、もともと価格の安いスマートフォンを提供しているシャオミのような企業にチャンスが生まれたわけです。

それだけにシャオミには、低価格モデルの投入が期待されていました。今回投入されたMi Note 10/10 Proは性能を考えれば安いものの、3万円台以下のモデルと比べれば高いので、やや中途半端な印象を受けた人もいるかもしれません。

「もうハイエンドスマホは買えない」人の選択肢

ですが、最近の動向を見ていると、Mi Note 10と同じ5万円台という価格帯のスマートフォンが徐々に増えている印象も受けます。最近発売された端末でいうと、ファーウェイ・テクノロジーズの「HUAWEI nova 5T」や、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 8」などがその代表例といえるでしょう。

  • 4眼カメラとハイエンド相当のチップセットを搭載した「HUAWEI nova 5T」も、市場想定価格は5万4500円に設定されている

なぜ5万円台のスマートフォンが増えてきたのかといえば、そこにも電気通信事業法改正の影響があると考えられます。法改正によってスマートフォンの高額な値引きができなくなったことから、現在10万円を超えるようなハイエンドモデルは非常に買いにくくなっているというのは、多くの人が感じているのではないかと思います。

ですが一方で、現在多くの人が使っているスマートフォンは法改正前に購入したもので、しかもその多くは高額値引きによって安価に購入できたハイエンドモデルであることも事実です。ハイエンドスマートフォンを当たり前のように購入し、使い続けてきた人たちが、安いからといって3万円台のスマートフォンに簡単に変えられるか?というと、やはり抵抗があるというのが正直なところではないでしょうか。

もちろん、現在はスマートフォン自体の性能が向上していることから、3万円台のスマートフォンでも日常使いには十分な機能・性能を持っています。ですが、カメラやゲームなど、スマートフォンに何かしらのこだわりを持っている人には不足する部分があることも、また確かです。

大幅値引きがなくなったハイエンドモデルはもう買えないけれど、特定の機能や性能にこだわったスマートフォンが欲しい。そうした人たちを狙うべく、3万円台の製品よりも一歩上の機能・性能を持った、5万円台のスマートフォンを投入するメーカーが増えてきたといえるでしょう。

実際、Mi Note 10は1億800万画素カメラ、HUAWEI nova 5Tは4眼カメラとハイエンド相当のチップセット性能、Xperia 8は防水やFeliCa、21:9比率のディスプレイといったように、それぞれハイエンド相当の機能・性能を一部取り入れています。ですが、これらの機種をよく見ると、こだわりポイント以外はやや性能を落とすなどしてメリハリを付けることで、価格を下げ買いやすくしていることが分かります。

  • ワイモバイルでは税込み5万4000円で販売されている「Xperia 8」。21:9比率のディスプレイにこだわる一方で、チップセットはミドルクラス向けのものを採用することなどで価格を下げている

スマートフォンの値引き規制は当分続くと考えられることから、今後3万円台以下だけでなく、5万円台のスマートフォンも一層増えることが予想されます。値引き規制の影響でハイエンドモデルからの買い替えに困っている人は、そうした価格帯のモデルの動向に注目しておくといいかもしれません。

著者プロフィール
佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。