KDDIは2025年1月21日、モバイル通信と製品・サービスを一体で提供できる「ConnectIN」という新しいサービスの提供を開始しました。DynabookやVAIOといったパソコンメーカーがこれを採用し、法人向けに一定期間の通信料を組み込んだパソコンを販売することも明らかにされましたが、こうした買い切り制通信サービスの提供拡大が、長らくスマートフォンが主体だったデバイスと通信との関係を大きく変える可能性がありそうです。
通信の“買い切り”はデバイスメーカーに多大なメリット
モバイル通信を利用するには携帯電話会社と契約し、毎月料金を支払う“サブスク”の仕組みが当たり前という認識の人が多いかと思います。ですが2025年1月21日、そうした認識を大きく変える「ConnectIN」というサービスがKDDIから発表されました。
これは企業が提供する製品に、一定期間利用できるKDDIのモバイル通信料を組み込んで販売できるようにするサービス。最近では、自動翻訳機やGPSを用いた見守りデバイスなどのように、ネットワークに接続して利用することが前提のデバイスが増えつつありますが、それらのデバイスを使用するのにWi-Fiに接続したり、別途通信サービスを契約したりするのは手間でしかありません。
そこで、デバイスに通信サービスを一定期間利用できる仕組みを組み込んで提供することにより、ユーザーが手間をかけることなくモバイル通信を利用できるデバイスが増えています。そうしたデバイスを提供しやすくするのがConnectINであり、メーカー側がKDDIのMVNOとなってKDDIのデータ通信回線サービスをデバイスとセットで販売する形となるようです。
それゆえ、ConnectINは個人向けではなく、主としてデバイスやサービスを開発する企業に向けたサービスとなり、その採用を打ち出しているのがパソコンメーカーです。実際、ConnectINの発表会には、DynabookやVAIOといった国内のパソコンメーカーが登壇し、ConnectINを採用したパソコンを法人向けに販売することを明らかにしています。
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Dynabookが法人向けに提供するノートパソコン新製品「dynabook X83/LY」。ConnectINを活用した通信サービス「dynabook eSIM Startin'」を搭載し、KDDI回線で4年間データ通信が使い放題になるという
実は、KDDIはConnectINの提供に先立ち、2023年11月から日本HPと、KDDIの通信回線サービスを組み込み5年間無制限でのデータ通信が可能な「HP eSIM Connect」を提供し、これを組み込んだパソコンを法人向けに販売してきました。その実績をもとに、他のパソコンメーカーにも働きかけたことで、ConnectINの実現に至ったようです。
最近では、デバイスに直接組み込める「eSIM」の仕組みがスマートフォンだけでなくパソコンにも広がっており、パソコンでモバイル通信を利用しやすくする環境は整ってきていました。ですが、実際に通信を利用するには、別途携帯電話会社とモバイル通信サービスを契約し、毎月料金を支払わなくてはいけないことから、管理にかかる手間が大きく、企業が導入するうえで大きなハードルとなっていました。
それだけにパソコンメーカーとしても、パソコンに通信をセットにして販売できるConnectINの導入は、モバイル回線を活用するハ-ドルを下げパソコンの付加価値を高められるという点でメリットがあることから、多くのメーカーが導入に動いたといえるのではないでしょうか。
実はIoTデバイスではすでに当たり前の仕組み
ただ、現時点でConnectINが導入されるのはあくまで企業向けのパソコンに限られるようで、個人向けのパソコンに導入されるわけではありません。KDDIとしては、まず法人向けから取り組み、今後メーカーとコンシューマー向けモデルへの導入も検討しているとしています。
ただ、営業職などで毎日のように社外に持ち出して利用するため通信が不可欠な法人向けパソコンとは違い、コンシューマー向けとなると毎日、外出先でパソコンを利用するとは限りません。それゆえ、コンシューマー向けにサービスを提供するうえでは、プリペイド方式に近く都度必要な通信量を購入できる「povo」の仕組みを取り入れることなども検討していく考えのようです。
またKDDIとしては、パソコン以外にも導入するデバイスの幅を広げる方針のようで、パソコンのように大容量通信を必要とするデバイスだけでなく、より通信量が少ないIoT機器向けにもConnectINを提供していくことを検討しているといいます。ただConnectINは、大容量通信が求められるパソコン向けに、国内で閉じたサービスを提供する分には競合も少なく魅力も大きいのですが、それより通信量が少ないIoTデバイス向けとなると、実は多くの競合が存在している状況にあります。
実際、ConnectINと同じく、一定期間の通信サービスを買い切り制で提供するサービスであれば、ソフトバンクが出資している独1NCE(ワンス)が近いサービスを提供しています。1NCEは世界173の国や地域で10年間、500MBのデータ通信と250通のSMS送信が利用できる通信サービスを、わずか2,000円という低価格で提供。2024年にポケトーク社が販売した自動翻訳機の新機種「ポケトークS2」に同社のサービスが採用されたことで話題となりました。
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独1NCEにはソフトバンクが出資し、国内などでの独占販売権を得ており、10年間で2,000円という低価格で顧客を拡大。ポケトークが2024年に発売した自動翻訳機の新機種「ポケトークS2」にも採用されている
それに加えて、IoT向けの通信としては、やはりKDDIのグループ会社となっているソラコムが、1NCEの競合としてサービスを提供している状況にあります。それゆえ、ConnectINがIoTデバイスにまで領域を広げるとなれば、これらのサービスと一定のバッティングが生じる可能性があるわけです。
そして何より、何よりIoT向けのモバイル通信サービスは非常に安い価格で提供することが求められ、薄利多売のビジネスが求められることから、世界展開をしていないConnectINには不利な要素が多いでしょう。KDDIとしては今後、海外にも強みを持つソラコムの協力も得てConnectINの拡大を図りたい考えを示していますが、独自性を生かして既存のIoT向け通信サービスとすみ分けられるかは今後の大きな課題となってきそうです。
とはいえ、ConnectINのように買い切り制に近いモバイル通信サービスが増えていることは、メーカー側が通信サービスを一体化したデバイスをより開発しやすくすることにもつながってくることは確か。とりわけ、AI時代を迎えた昨今は、クラウドに接続して利用するサービスの重要性が今まで以上に高まっているだけに、こうしたサービスの広がりでAIの力を活用できる機器が増え、我々の生活を大いに変えてくれることには期待したいところです。