2020年10月28日、KDDIの「UQ mobile」とソフトバンクの「ワイモバイル」が相次いで、月額4,000円前後で高速データ通信が20GBという料金プランを発表した。菅政権の料金引き下げ要求に応えたプランとされているが、その内容を見ると両社の真の狙いが見えてくる。
「世界的に高い」とされる20GBプランを安価に提供
2020年9月に内閣総理大臣に就任した菅義偉氏は、かねて携帯電話料金の引き下げを公約に掲げてきた。そしてその任務を託された武田良太総務大臣は、就任直後からその実現に向け積極的な動きを見せているようだ。
実際、武田氏は2020年10月9日には消費者団体の代表など携帯電話利用に関する意見交換会を実施。さらに2020年10月27日には「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表し、「分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現」「事業者間の公正な競争の促進」「事業者間の乗換えの円滑化」という3つの柱で競争を促進し、料金引き下げの実現を目指す方針を示している。
そうした政府の動きに携帯電話会社の側も反応しているようで、2020年10月28日にはKDDIとソフトバンクの2社が料金引き下げに向けた具体的な動きを見せてきた。それは両社のサブブランドによる、新しい料金プランの追加である。
KDDIのサブブランド「UQ mobile」が2021年2月以降に提供するという「スマホプランV」は、月額3,980円で高速データ通信量が20GBというもの。「スマホプランR」などと同様、通信量を超過した場合は最大1Mbpsの通信が利用できるほか、「UQ家族割」の適用で月額500円の値引きも受けられるが、通話定額はオプションの契約が必要になる。
一方、ソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」が2020年12月下旬に提供を予定している「シンプル20」は、月額4,480円で高速データ通信量20GB、通信量超過時も最大1Mbpsで利用できるというもの。1回あたり10分の通話定額が標準で付いている分UQ mobileより料金は高いこと、「おうち割 光セット」「家族割引サービス」など割引サービスが一切適用できない点がスマホプランVとの大きな違いといえそうだ。
いずれのプランも20GBで4,000円前後という点で共通しているが、このようなプランの投入の発表したのには、政府の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」が影響していると見られる。この調査の中では東京を含めた世界主要6都市の携帯電話料金を比較しており、20GBのプランは東京が世界で最も高いとされている。
菅総理が携帯電話料金の引き下げに強くこだわるのも、この内外価格差調査が大きく影響していると言われている。そうしたことから2社は、内外価格差調査で世界的に高い水準にあるとされる20GBのプランをサブブランドに設け、調査時の料金より大幅に安い料金に設定することで、政府の要望に応える姿勢を見せたといえるだろう。
真の狙いはメインブランドの死守、NTTドコモの対応に注目
だが両ブランドのサービス内容を見るに、狙いはあくまで政府の要望に応えることであり、料金引き下げに本腰を入れている訳ではない様子も見えてくる。そのことを示しているのが、今回の新料金プランはサブブランドが提供したものだということだ。
サブブランドは元々、サービスなどに係るコストを下げ、その分料金を安く提供するブランドという位置付けである。両社はともに今回のプレスリリースで「マルチブランド」「ダブルブランド」と表現し、サブブランドも同じ携帯電話会社が提供するブランドの1つであることを明確に打ち出しているが、ブランドによってサービス内容が異なることに変わりはなく、値下げによって「au」「ソフトバンク」といったメインブランドの価値を下げたくない様子が見えてくる。
また実際のところ、今回のプランは両ブランドが従来提供してきたサービス内容と比べ大幅に安くなっている訳ではない。実際、UQ mobileが2020年5月31日まで提供していた「スマホプランL」は、月額3,980円で14GBの高速データ通信が利用でき、一定期間17GBに増量できるキャンペーンも実施していた。
またワイモバイルが現在提供している「スマホプランR」も、月額4,680円で14GBの高速データ通信ができ、キャンペーンの適用で1年間、17GBに増量可能となっている。そうしたプランを提供してきた実績を考えれば、今回のサブブランドのプランは通信量の増加である程度の引き下げがなされてはいるものの、劇的に安くなった訳ではないと見ることができそうだ。
そうしたことから今回の両プランは、低価格プランを提供しやすいサブブランドを活用し、なおかつ政府が問題視していた20GBのプランをピンポイントで提供することにより、政府に料金を引き下げたことをアピールする狙いが強いものといえるだろう。政府の批判をかわすことで、高額なプランの契約者が多い“虎の子”となるメインブランドの料金引き下げに言及されるのを避け、収益性を維持するのが真の狙いといえそうだ。
一方で同様の施策を打ち出しにくいのが、サブブランドを持たないNTTドコモである。NTTドコモは現在、日本電信電話(NTT)による株式公開買い付けがなされている最中であることから、それが終了する2020年11月16日まで大きな動きを取りにくいようだが、その後にNTTドコモがどのような施策を持ってライバルに対応しながら、政府に料金引き下げをアピールしてくるのかが注目されることとなりそうだ。