2020年4月24日に発売された、アップルのiPhone新機種「iPhone SE(第2世代)」。非常に高い性能を備えながらコンパクトで、4万円台から購入できることから高い注目を集めているようだが、なぜアップルは4年間新機種を出さなかったiPhone SEを、今のタイミングで復活させたのだろうか。

性能は最先端でAndroidスマホのお株を奪う低価格

2016年に登場し、4インチのコンパクトなボディと購入しやすい価格で根強い人気を誇りながらも、長らく新機種が投入されなかったアップルの「iPhone SE」。ところがアップルは2020年4月15日に第2世代のiPhone SEを発表。日本でも2020年4月24日より販売が開始されている。

新型コロナウイルスの影響から携帯大手3社での販売は5月に延期されたものの、Apple Storeや家電量販店からは予定通り販売がなされており、既に新しいiPhone SEを手にした人もいることだろう。

新しいiPhone SEは「iPhone 8」をベースに開発されているようで、4.7インチのディスプレイを搭載し、生体認証には指紋認証の「Touch ID」を採用するなど、iPhone 8とサイズやデザインなどはほぼ同じだ。だが一方で中身は大きく進化しており、チップセットに原稿の「iPhone 11」シリーズと同じ「A13 Bionic」を搭載。性能面ではハイエンドモデルに匹敵する、最先端といえる内容となっている。

そして多くの人を驚かせたのが価格だ。iPhone SEはストレージが64GBの最も安いモデルで44,800円、最も高い256GBのモデルで60,800円と、iPhone 11の64GBモデル(74,800円)と比べかなり安価なことが分かる。特にストレージ的にも“適量”といえる128GBのモデルは、64GBモデルと比べストレージが倍ながら、49,800円と価格差は5,000円と、非常にお得度が高いとして注目を集めているようだ。

  • 2020年4月24日に発売された、第2世代の「iPhone SE」。ボディはiPhone 8と同じながら、iPhone 11と同じチップセットを搭載し大幅な性能強化が図られている

    2020年4月24日に発売された、第2世代の「iPhone SE」。ボディはiPhone 8と同じながら、iPhone 11と同じチップセットを搭載し大幅な性能強化が図られている

新iPhone SEがここまで安価だと、Androidスマートフォンの販売にも大きな影響を与える可能性がある。2019年10月の電気通信事業法改正によるスマートフォンの値引き規制が大きく影響し、ここ最近は中国メーカーだけでなく、国内メーカーも価格を2~4万円台に抑えた低価格のAndroidスマートフォンの投入を増やしているのだが、それらはいずれもチップセットの性能を抑えることで低価格を実現しているものが多い。

もちろんそうした低価格のAndroidスマートフォンは、iPhone SEと比べディスプレイやカメラなどの面で優位性を持っているものが多く、チップセットの性能差だけで優劣を付けるのは難しい。だが国内で絶大の人気を誇るiPhoneに、ここまで安くて高性能のモデルが登場したとなれば、低価格スマートフォンを求める層が雪崩を打ってiPhone SEに流れてしまう可能性があり、低価格モデルの販売に力を入れるAndoridスマートフォンメーカーに不利な状況を生み出す可能性もありそうだ。

低価格で“iPhone離れ”を防ぐ戦略転換

なぜ新iPhone SEがここまでの低価格を実現できたのかというと、最大の要因は既存のボディを活用することで開発コストを抑えていることだろう。先にも触れた通り、新iPhone SEはボディサイズやデザイン、Touch IDやシングルカメラ構造という点に至るまで、iPhone 8と同じ内容となっており、iPhone 8のボディをそのまま活用した様子が見えてくる。

この手法はiPhone SEシリーズに共通しているものであり、初代iPhone SEも、当時旧機種となっていた「iPhone 5S」のボディを活用することで低価格化を実現していた。ただ初代iPhone SEの発売当初の価格を振り返ると、16GBのモデルが52,800円、64GBモデルが64,800円と、iPhoneの中ではお得感があったものの、ミドルクラスのAndroidスマートフォンと比べそこまで安くはなかったため、爆発的に販売を伸ばした訳ではなかった。

  • 2016年に発売された初代「iPhone SE」は、当時旧機種となっていた「iPhone 5S」をベースに、チップセットやカメラなどを最新のものにアップデートしたモデルだった

ではなぜ、新iPhone SEがそこまで低価格を実現できたのかというと、ベースモデルからアップデートした部分が少ないからと推測される。初代iPhone SEはiPhone 5Sと比べ、チップセットだけでなくWi-Fi、そしてメインカメラにもアップデートが施されているのに対し、新iPhone SEがiPhone 8よりアップデートされている部分は、チップセットと、Wi-Fi 6に対応するなどした通信部分くらい。変更箇所を可能な限り減らすことでコストダウンにつなげている可能性が高いといえそうだ。

そしてこれだけの低価格化を実現した新iPhone SEの存在は、今後のアップルの動向を占う上でも非常重要な意味を持つものでもある。というのもアップルは2017年頃から販売数やシェアを追う戦略を転換し、高額かつ高付加価値のモデルの販売を重視して利益を追う戦略へとシフトしていた。だがこの戦略によってアップル製品のラインアップは高額化が進み、消費者離れを招いてしまった部分は否めない。

それゆえアップルは2019年頃から、根強いファンを持ちながら、戦略転換の軸から外れ長らく新機種を投入してこなかった「iPad Air」「iPad mini」などの新機種を相次いで投入し、離れたファンを取り戻す戦略に打って出ているのだ。新iPhone SEの投入もそうしたアップルの戦略転換による所が大きいと考えられ、低価格で利益があまり高くないシリーズをあえて復活させることにより、高額化が進んだiPhoneから離れてしまった、あるいは離れようとしているファンの心を取り戻す狙いが強いといえる。

  • アップルは2019年にも、やはり根強いファンを持つ「iPad mini」などの新モデルを投入したことで大きな驚きをもたらしていた

iPhoneは今のアップルにとって非常に重要な商材でもあるだけに、新iPhone SEでどこまでファンをつなぎ留められるかという点は、今後のアップルの業績を占う上でも非常に大きな意味を持つといえそうだ。