ここ最近、通信とは関係のない異業種の企業が、MVNOとなってモバイル通信サービスを提供するケースが増えている。それを受けてMVNOの参入を支える企業の動きも活発になっており、その1社であるミークは2025年10月30日、非通信事業者によるモバイル事業参入を支援する「MVNO as a Service」を新たに提供すると発表している。しかしなぜ、いま異業種がMVNOとして参入する動きが強まっているのだろうか。
異業種は“格安”ではなくサービス連携に魅力を見出す
かつて「格安スマホ」「格安SIM」などの名称で大きな注目を集めた。携帯電話会社からネットワークを借りることから低コスト、かつ低価格でモバイル通信サービスを提供できることを強みとし、携帯大手には実現できない低価格で急速に存在感を高めていった。
だがMVNOは他社からネットワークを借りるという事業構造上、昼休みの時間帯に通信速度が低下しやすいなど通信品質面に課題を抱えている。それに加えてMVNOの台頭に危機感を抱いた携帯電話会社の側が、低価格なサブブランドやオンライン専用プランなどを相次いで提供したことで、MVNOの競争力は急速に低下。撤退する企業も現れ、今では市場での存在感も限定的だ。
しかしながら、ここ最近そのMVNOにあえて参入する企業が急速に増えている。実際、2025年3月にはフリマアプリ大手のメルカリが、MVNOとして「メルカリモバイル」の提供を開始。4月には日本航空(JAL)が、MVNO大手であるインターネットイニシアティブ(IIJ)との協業により「JALモバイル」というサービスを提供開始している。
そして最近新規参入するMVNOには特徴的な傾向があり、それは通信サービスを主な事業として展開していないこと。MVNOに参入する企業は従来、インターネットサービスプロバイダー(ISP)や固定ブロードバンドなど、何らかの通信を手がけている企業が多かったが、いま参入が増えているMVNOは通信とは全く関係ない異業種の企業が主だ。
中でも多いのが、コンシューマー向けのサービスを展開している企業による参入である。それゆえMVNOによるサービスと、既存事業とのシナジーに重きを置くケースが多く、メルカリモバイルであればメルカリの売上で毎月の料金が支払える仕組み、JALモバイルであれば利用料金に応じてマイルが貯まる仕組みなどが用意されている。
こうした状況を見るに、現在MVNOに参入している企業は、以前のMVNOのように単独の事業としてビジネス化するのではなく、主力となるサービスの価値を高め顧客とのつながりを強めるための、副次的なサービスとして提供しようとしていることが分かる。
新規参入を支援するMVNOの動きが急拡大
ただ一方で、異業種から参入する企業は通信に関するノウハウを持っておらず、単独で参入するのは容易ではない。そこでMVNOの新規参入拡大とともに活発になってきているのが、MVNOとして参入したい企業を裏から支える、既存MVNOの存在だ。
実際、異業種から新規参入したMVNOの多くは、既存MVNOの支援を受けてサービスを提供していることがほとんどだ。先に触れたJALモバイルも、IIJがMVNEとして支援する形が取られているし、2024年に「マジモバ」ブランドでMVNOとして参入した、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」等を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスも、やはりMVNOの1社であるエックスモバイルがサービス提供に大きく関与している。
そしてもう1つ、異業種を既存MVNOが支援するケースとして注目されたのが、実業家である前澤友作氏が設立した「カブ&ピース」という企業が提供している「KABU&モバイル」である。KABU&モバイルは、利用料金に応じて同社の株式がもらえるという非常に特徴的なサービスとして高い関心を呼んだが、そのサービス提供にはミークという企業が大きく関わっている。
ミークは「NURO光」「NUROモバイル」などを展開しているソニーネットワークコミュニケーションズから独立した企業で、MVNOの支援やIoT向け通信サービスなどの事業を中心に展開している。そして同社も、異業種からのMVNO参入が増えていることを受け、新たにミークモバイルという新会社を設立。MVNOに参入したい企業を支援するサービスを2025年10月30日に発表している。
それは「MVNO as a Service」というもので、MVNOとして新規参入したい企業に対し、通信インフラから新規利用の申し込み、顧客管理や料金の回収など、MVNOに関するあらゆるサービスを1つのパッケージにまとめ、包括的に提供するという。企業側はこれを利用することで、コストや人員などのリソースを大幅に抑えながら、MVNOとして自社ブランドによる通信サービスを提供できるメリットがある。
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MVNOの支援事業などを展開するミークは、新たにミークモバイルを設立し「MVNO as a Service」の提供を開始。通信からシステムまで包括提供することで、異業種の企業によるMVNO参入を容易にする仕組みとなる
ただ一方で、通信サービスの主体はミークモバイルとなり、通信料収入はミークモバイルに入る。企業側にはそれら通信料収入のうち、一部を販売手数料として提供する形が取られており、既存のMVNOと比べれば、企業側がMVNOによるサービスで得られる収入は小さくなるようだ。
それだけにこのサービスは、低いリスクで自社ブランドによる通信サービスを提供し、付加価値を高めることに重きを置いたサービス設計となっていることが分かる。同社としては大きな企業だけでなく、スポーツや芸能などのファンクラブなどもターゲットとして想定しているようで、規模の面でも非常に幅広い業種を対象に、利用を広げていきたい姿勢を見せている。
MVNOとして通信サービスを提供しても携帯大手に対抗するのは非常に難しい状況だが、既存のサービスを軸としたMVNOが増えることが、MVNOによるサービスの活路となりつつあることは間違いない。それだけに今後もミークのように、MVNOの参入障壁を引き下げるサービスが増え市場が再び活性化する可能性が出てきたことは、非常に面白い動きだといえる。



