スマートフォンより大きな画面で、さまざまなコンテンツが利用できるタブレット。市場に流通するタブレットの大半は非常に低価格で低性能なものだが、最近になって再び高性能のタブレットを市場に投入する動きが強まっている。一体なぜだろうか。
MacBook Proと変わらない性能を持つ新iPad Pro
「iPhone 17」シリーズや「iPhone Air」など、iPhoneの新機種を発表したばかりのアップル。だが日本時間の2025年10月16日にはさらに、「iPad Pro」「MacBook Pro」の新機種も発表している。
その詳細は既に多くの報道がなされている通りだが、大きなポイントはチップセットに「M5」を搭載したことだろう。M5はiPad ProやMacなどに向けたアップル独自の最新チップセットであり、従来の「M4」と比べAI関連を中心に、大幅な性能向上が図られているという。
それだけに新しいiPad Proは、M5による性能向上が大きな進化ポイントとなっているのに加え、「iPhone Air」で新たに搭載されたアップル独自開発のモデム「C1X」も新たに搭載。自社製の部材の採用を増やすことで性能向上と効率化を図り、モバイルデバイスに求められる省電力性がより高められることをメリットとして打ち出しているようだ。
一方でM5は、同時に発表されたもう1つのデバイスである14インチの「MacBook Pro」新機種にも搭載されている。もちろん両機種にはディスプレイサイズやRAMやストレージ、他のさまざまなインターフェースなどに違いがあるのだが、同じチップセットを搭載しているだけにiPad ProはMacBook Proと大きく変わらない性能を持つことも、また確かだといえる。
ただiPad Proをタブレットとして見た場合、そこまで高い性能を持つ機種が他にあまり存在しないのも確かだ。現時点でその競合となりそうなのは、韓国サムスン電子が2025年9月に発売した「Galaxy Tab S11 Ultra」くらいだろう。
Galaxy Tab S11 Ultraは14.6インチの大画面ディスプレイに加え、チップセットに台湾メディアテック製のハイエンド向けとなる「Dimensity 9400+」を搭載するなど高い性能を備えたタブレット。大画面を生かしてパソコン感覚で操作できる「Samsung DeX」にも対応している。
コロナ禍で動画以外の価値が見出されたタブレット
スマートフォンでは多くのメーカーが性能の高いハイエンドモデルを用意しているのに対し、タブレットでそこまで高い性能を持つ機種の数が少ないのはなぜかといえば、その需要に偏りがあるためだろう。iPad Proのように、高性能を生かして動画編集やグラフィックデザインなどをする人は多いとは言えない。
多くの人はタブレットに対し、スマートフォンの延長線上にあるコンテンツの消費を求めている。中でも多いのは動画サービスをより大画面で見ることであり、他にも電子書籍を読む、あるいはWebやSNSを大画面で見るなど、高い性能を必要としない用途が主であった。
それだけにタブレットは著しい低価格化が加速し、現在も1万円台で購入できる、低価格かつ低性能のタブレットが市場に多く流通していることは確かだ。ただそこまでの低価格化が進んだ結果、タブレットは一時市場崩壊の危機に至っていたこともまた確かで、アップルがiPad Proシリーズを投入するに至ったのも、低価格化の波にのまれないよう、プロユースを開拓してiPadシリーズの価格と価値を維持するためと見られている。
ただコロナ禍のリモートワーク需要により、タブレットにコンテンツ消費以外の用途があることが見出されたことから、その需要を満たすべく、ここ数年来アップル以外のメーカーからも、高性能タブレットを復活させる動きが広がっている。そのことを象徴しているのがサムスン電子で、同社は一度日本のタブレット市場から撤退したものの、2022年発売の「Galaxy Tab S8」シリーズで再参入を果たしている。
それに加えて最近では、低価格モデルに強みを持つ中国メーカーも、高性能モデルを並行して投入する動きを強めているようだ。実際シャオミは、2025年9月26に国内向けの新製品発表イベントを実施した際、タブレットの新製品もいくつか発表。その中にはミドルクラスの「REDMI Pad 2 Pro」 シリーズだけでなく、ハイエンドモデルの「Xiaomi Pad Mini」が含まれていたことに驚きがあった。
Xiaomi Pad Miniはその名前の通り、8.8インチのディスプレイを搭載したコンパクトなサイズ感のタブレット。一般的に小型のタブレットは性能が低いものが多いのだが、Xiaomi Pad MiniはチップセットにDimensity 9400+を搭載し、3K解像度(3008×1880)のディスプレイを搭載するなど、非常に高い性能を備えている。
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シャオミのタブレット新機種の1つ「Xiaomi Pad Mini」は、8.8インチの小型モデルながらハイエンド向けのチップセットを搭載。ゲーム中に充電がしやすいよう、USB端子を2つ備えているのもポイントだ
その分価格も7万4980円からと、小型のタブレットとしてはかなり高い部類に入るのだが、低価格に強みを持つシャオミがこうした製品にチャレンジしていること自体、高性能のタブレット需要開拓に向けた動きが継続していることを示している。
もちろんタブレットの需要が現在もなおコンテンツの消費にあることは変わっておらず、高性能タブレットによる新たな需要開拓ができなければ、再び低価格化の波にのまれてしまう危惧がある。
とりわけ多くのタブレットが採用するAndroidは、OSを開発するグーグルがタブレット投入に積極的ではなく、その分アプリの充実に欠けるという課題も抱えているだけに、タブレット市場の維持拡大に向けては、デバイスだけでなくアプリやサービスを巻き込んだ取り組みが一層求められることになるだろう。


