海外進出で成果を出せず、国内でも圧倒的人気を誇るiPhoneを有するアップルに押され苦戦が続いている国内のスマートフォンメーカー。どのような策をもって厳しい市場を生き残り、挽回しようとしているのだろうか。今回は「Xperia」ブランドで知られる、ソニーモバイルコミュニケーションズの事例を取り上げる。

高いカメラ技術に強みを持つXperiaシリーズ

日本のスマートフォンメーカーはいま、非常に厳しい状況に立たされている。海外で大きな成果を出せておらず、規模では韓国サムスン電子や米アップルなどに敵わないのに加え、頼みの綱の国内でも、圧倒的なiPhoneの人気によって存在感を大きく落としているというのが実情だ。

そうした非常に苦しい状況下で、国内メーカーはどのような戦略をもって、スマートフォン市場での生き残りをかけようとしているのだろうか。まずは「Xperia」ブランドで知られる、ソニーモバイルコミュニケーションズの戦略について解説しよう。

  • ソニーモバイルの「Xperia」シリーズの最新機種「Xperia XZ2」(国内発売は未定)。4K HDR撮影ができるカメラと3Dガラスを用いた新しいデザインが特徴だ

ソニーモバイルがスマートフォンで最も力を入れているポイントはカメラである。ソニーモバイルの親会社であるソニーは、デジタルカメラやビデオカメラで高いシェアを持ち、なおかつスマートフォンなどデジタルカメラに欠かすことのできない、イメージセンサーの世界最大手であることから、Xperiaシリーズはそうしたソニーグループの強みを生かし、最先端のイメージセンサーとソニーのカメラ技術をふんだんに取り入れ、他社にはないカメラ機能を実現しているのだ。

ここ最近のXperiaシリーズのスマートフォンを見ても、その傾向は顕著だ。例えば最近発表された「Xperia XZ2 Premium」(国内発売は未定)を見ると、Xperiaシリーズのハイエンドモデルとして初めて、モノクロとカラーの2つのイメージセンサーを用いた、デュアルカメラ機構を採用しているが、単に背景をぼかした撮影をするために、デュアルカメラを搭載した訳ではない。

実際Xperia XZ2 Premiumでは、モノクロのセンサーで取得した輝度情報に、カラーセンサーの色情報を、「AUBE」と呼ばれる独自の画像処理プロセッサーでリアルタイムに合成。それによってISO感度が静止画撮影時に51200、動画撮影時も12800と、非常に高い感度を実現しているのである。

ISO感度が高いということは、それだけ暗い場所でも明るく撮影でき、手ブレの影響も受けにくいことになる。静止画撮影時であればこれを上回る機種も出てきているものの、動画撮影時のISO感度がこれほど高い機種は他にない。そうした意味でも、Xperia XZ2 Premiumのカメラ性能がいかに高いかを見て取ることができるだろう。

  • 「Xperia XZ2 Premium」と同じカメラと画像処理プロセッサーを用いた端末で、暗所で動画撮影をしている所。静止画だけでなく、動画撮影時にここまで明るく映し出せるのは驚きだ

ハイエンドに注力もスピード感の遅さが大きな課題

そしてもう1つ、ソニーモバイルの戦略として特徴的なのは、付加価値が高い高性能モデルのみを投入していることだ。国内ではXperiaシリーズのハイエンドモデル「XZ」シリーズのみが投入されているが、海外で投入されているXperiaシリーズのミドルクラスのモデル「XA」シリーズも、カメラを中心として比較的高い性能を備える「スーパーミドルレンジ」と位置づけられている。

  • 海外で販売されているXperiaシリーズのミドルクラスのモデル「Xperia XA1」。ミドルハイクラスの性能を持ち、2300万画素のカメラを搭載する

そうした戦略を取るに至ったのには、2014年に携帯電話事業で巨額の赤字を計上し、ソニーの経営をも大きく揺るがしたことが大きく影響している。この時期は、中国メーカーが新興国市場を中心に、低価格を武器としてスマートフォン市場で急速に台頭した時期でもあり、当時低価格モデルの販売を伸ばそうとしていたソニーモバイルは、その影響をもろに受けて販売不振に陥ったのだ。

そこでソニーモバイルは低価格モデルの提供を止め、自社技術で勝負しやすい高付加価値モデルに注力、数を追わない方針を打ち出し、現在に至っている。だがその影響は決して小さいものではなく、同社のスマートフォン出荷台数は年々減少。2015年には3000万台近い出荷台数を誇っていたのが、2017年には1370万台と半分以下にまで落ちており、世界的に見ても存在感を大きく失ってしまっているのが実情だ。

だがそれでもなお、ソニーモバイルは販売伸び悩みの傾向が止まっておらず、それだけ課題を多く抱えているというのが正直な所だ。中でも大きいのは市場トレンドを的確に捉え、柔軟に対応するスピード感に欠けることである。

実際、他社が1、2年前に実現しているデュアルカメラ機構や縦長ディスプレイなどをキャッチアップしたのは、Xperia XZ2シリーズでようやくといったところ。顧客のニーズに応えた製品をタイムリーに投入できず、ハイエンド市場でもユーザーの心を捉えられていないことが、非常に大きな課題として突き付けられているのだ。

  • 日本で現行の最新モデル「Xperia XZ1」。昨年末時点でも縦長・狭額縁ディスプレイやデュアルカメラなどのトレンドに追従できておらず、古臭さがあるとの評価も多かった

その傾向は日本市場の動向からも見えてくる。最近はMVNOやサブブランドなどの台頭によってミドルクラスのスマートフォンの販売が急速に伸びているが、ソニーモバイルはハイエンドモデル重視の姿勢にこだわるあまり、急進するミドルクラスへの対応が明らかに手薄となっている。そのため「AQUOS sense」でこの分野に力を入れ始めたシャープに、国内メーカーとして出荷台数トップの座を明け渡すに至っているのだ。

ソニーモバイルはソニー譲りの技術面で多くの強みを持っているものの、それが消費者の購買へとつなげられなければ意味がない。国内だけでなく、ブランド力が決して強いとは言えない海外での販売を回復させるためにも、市場トレンドをいち早く取り入れるスピード感こそが、ソニーモバイルにいま強く求められている。