名探偵コナンでは、まず毛利小五郎を気絶させ、その後ろで変声期により声を小五郎に変えたコナンが推理をして「小五郎が事件を解決した」と見せるのがお馴染みとなっている。

だがこれは、コナンが小五郎の声で行うのが「名推理」だから良いようなもので、同じ方法で盛大なヘイトスピーチをされたり、あゆみちゃんへの抑えきれない情欲を吐露されたら大変なことになってしまう。

本来「他人の声を使ってなりすます」というのは、そういった危険性のある行為なのである。

私の知る限り、コナンは他人の声を悪用することはなく「小五郎はそんなこと言わない」と強火の小五郎オタを激怒させたこともないようだが、最近ではコナンの方が「声を使われる側」になり、話題かつ、問題になってきているようだ。

「AIが人間の仕事を奪う」はまだマシ?

  • 「他人の声を使ってなりすます」ことの恐ろしさに人類は恐怖するのです。それは、ご神託なのです

    「他人の声を使ってなりすます」ことの恐ろしさに人類は恐怖するのです。それは、ご神託なのです

最近SNSなどで「#歌わせてみた」と言って、コナン他、有名人の声で歌を歌わせる動画が出回っているらしい。

これらは「浦沢脚本でコナンたちがさとうきび畑を輪唱する回があった」というのでなければ、声優や著名人本人の声ではなくほとんどAI生成された音声である。

AI生成と言えば数年前から画像生成が話題だが、現在では音声にも波及してきている。

こちらとしては「確定申告AI」など、やりたくないことをやってくれるAIの登場を待っているのだが、何故か絵や歌など、真っ先にこちらの仕事や娯楽を奪うAIばかりが作られているような気がしてならない。

画像生成AIが登場した時「このまま行けばイラストレーターや漫画家は仕事がなくなる」としきりに言われたが、同様に音声生成AIが声優など、声の仕事を奪う可能性もゼロではない。

しかし現在のpixivに投稿されているAI生成イラストを見ればわかるように、AIにキャラ単体の卑猥な絵を描かせることは可能だが、こちらが望むシチュエーションで推しカプの卑猥な絵を描かすのはまだ難しい段階のように見える

「卑猥な」を入れる必要は全くなかったが、ともかく人間の意図を完全に反映した絵を描けるようになるのはもう少し先のことだろう。

音声も同様に「好きな子が他の男と一緒にいることにヤキモキしつつも興奮が抑えきれない声」など、繊細な感情表現が必要な作品をすぐにAIのみで行えるようになるとは思えない。

しかし、直近の音声生成AIに対しても、声優業界は困惑が隠しきれないという。

AIを使った自分の偽音声に使って、言ってもいないことを言わせるなどの行為が可能だからである。

卑猥な言葉を言わせることも可能だし、某ニュース番組では企画として、AI生成した虎党の女性キャスターの偽音声に「私はタイガーズよりジャイアンツが好きです」と言わせる、羞恥プレイが堂々放送されていたという。

その声は本物そっくりであり、AIだと知らない虎派がその部分だけ聞いたら「裏切り者に裁きを」と、そのキャスターを襲撃する恐れすらある。

つまり、AI生成による偽声をつかったなりすまし行為や、著しくイメージを損なう発言を言ったことにされてしまう可能性がある、ということだ。

止まりそうもないAIの進化、願わくば有益な進歩を

画像生成AIは、何となく「特定絵師の画風再現はご法度」という流れとなり、様々なデータを吸収させた結果「AIっぽい絵」という、ある意味オリジナルな画風が生まれており、上手ければ誰かの絵に似ている必要はない、と考える人も多い。

対して、音声に関しては「大谷育江から玄田哲章まで、あらゆる有名声優の声を収集して生成した音声」と言われても、初耳時にはただ知らない人が歌っているようにしか聞こえず、いきなりそれで注目を浴びるのは難しい。

よって「コナンの声」や「有名声優の声」など、特定のキャラや人物を再現したAI音声が出回ってしまっていることが、画像生成AIとの違いである。

さらに、誰かの声には肖像権がないため、画像よりもさらに権利の主張が難しいことが懸念されている。

そもそも誰かの声をAIに学習させて音声を作るのは違法ではないのか、というと現行法では「AIに著作物を学習させること」は認められており、音声を作ること自体は違法ではないそうだ。

ただ、作るだけなら良いが、その音声をなりすましや振り込め詐欺などに使ったら詐欺罪で捕まるし、全く邪気がなくても「推し声優の声で作ったAI音声に俺が言って欲しいことを全部言わせて発表していたら普通に名誉棄損で訴えられた」など、別の法律に引っかかる可能性は十分にある。

一方で、故人や病気などで声を失った人の声をAIで再現する試みもされているようだ。

「ルールは悪い方に合わせて作られる」というように、一部の悪用のせいで、有用な使い方にも規制がかかってしまう恐れがあるし、AI技術の進歩の妨げになってしまうこともある。 AIの規制ではなく、悪事の方をどう取り締まるかを考えていくべきだろう。

もちろん「漫画家の仕事を奪う」と言われている以上、AIの進化は己の首を絞める結果になりそうな気がするので手放しに歓迎できないところもある。

だが、それでも「AIが自分の思い通りの推しカプ絵を描いてくれるようになる」と言われたら、「AIもっと進化してくれ」と思わざるを得ないのである。