どこ出身かと問われた時「山口県」と答えると、9割方「どこ?」という天真爛漫な顔が返ってくるのだが、実はこれが「正解」である。

「山口と言えばフグですね」など、唯一の山口知識を披露するなど不正解を超えて減点であり、私のような話を合わせることを知らない中部モノから「それは下関だけのものであって山口県の名物ではない」と言われる罰ゲームを食らうことになる。

そういう私も最近県の名産を問われたら堂々と「ビッグモーターです」と答えるが、あれも「岩国」のものである。

つまり、世間一般が辛うじて知っている山口名物というのは大体西部と東部のものなのである、ちなみに萩焼などは北部だ。

そのどれにも属さない巨大な虚無空間の住人である中部モノに山口名物の話をしても「あれは県の一部だけのものですね」など嫌なリアクションが返ってくるだけなので、ベストアンサーは「悪霊退散!」である。

しかし、これは山口県に限らず「なまはげは秋田の一部の伝統であり秋田県全体のものではない」「はぐれメタルはリムルダール地域に出現するものでありアレフガルド全土に出ると思われたら困る」など、一部の名物が全体の名物だと誤解されているもの、そもそも名物じゃないのに外部から名物と誤解されているものはどこにでもあるのだろう。

東京って、うぇーい、ハロウィーーーン! でしょ?

  • 渋谷名物のはずが、もはや災害警報扱いになった今年の「ハロウィン」

    そういえば、川崎市あたりがハロウィンの聖地を自称してたような気が。あれはどうなったんでしょう?

多くの場合、外部モノから「あれが名物だよね」と言われてモヤっとくる程度の被害であり、こちらも「あれは県の名物とは言えない」と言い返してイラっとさせる相打ちに持ち込めるが、間違った名物が広がりすぎて大損害を被っている場所もある。

「〇〇の名物と言えば××だよね」という言葉は、都会モノから田舎モノに発せられて、田舎モノが「それは違う」と腹の立つ顔で言うパターンが多い。

だが最近、珍しく逆パターンに遭遇した。

それが「ハロウィン」である。

東京住みの人間に「こっちは東京と違って、『これからハロウィンに繰り出す』みたいなパーティに遭遇したことは一度もない」と言ったところ、「あれは渋谷のものであり東京全体がそういうわけではない」という返答が返ってきた。

私的には東京全土各地でハロウィンパーティが開かれ、渋谷で特に盛り上がっているというイメージだったが、東京にとってハロウィンはフグ、もしくはビッグモーター的存在ということなのだろう。

では渋谷区民たちが「当方ハロウィンに自信地域」と、日本のハロウィンメッカであることを誇っているかというと、周辺住民は「ハロウィンの日は早めに用を済ませ夕方以降外に出ない」など、ハロウィンを災害と捉えている者もいるようである。

実際、ハロウィンには大量の人間が集結するため、人ごみで危険であり、過去には興奮した参加者たちが車を横転させて逮捕されるなどの事件も起きており、ハロウィン後に残される大量のゴミも問題視されてきた。

そしてついに今年は渋谷区長が「渋谷はハロウィンの街ではないので来ないでくれ」と会見を開く異例の事態となった

特に今年は外国人観光客が戻ってきているため例年以上の人出が予想される。また前年に韓国ではハロウィンに死亡者を出す大事故まで起きている。

このままでは渋谷でも取り返しのつかない事故が起こるという危惧もあって、異例の注意喚起となったのだろう。

つまり渋谷区自体が「我が区はハロウィンのイベント会場ですよ」と言ったことはなく、何故か「ここが会場と聞いて」とパリピが集結し、災害級にまで発展してしまったということだ。

渋谷区からしたら「ここで金が発掘できる」という噂が立って人が大量に押し寄せ、そこら中を掘り返して帰っていくようになった状態なのだ。

この、ハロウィン=渋谷集結の構図が何故出来上がったかは諸説あるようだが、サッカーの日本代表戦のように、「集団が一体となって騒ぐ場所」と言えば、渋谷のスクランブル交差点というイメージがあるため、ハロウィンでグルーヴしたい勢がおびき寄せられるように渋谷に集結してしまったのかもしれない。

ハロウィンに渋谷に来るな会見を開いた理由は、周辺への迷惑ももちろんあるだろうが、一番の理由は「危険」だと思われるので、自衛のためにもわざわざ渋谷に繰り出す行為は慎んだ方が良いのではないだろうか。

台風銀座とか洪水ハザードマップみたいな扱いに

しかし、多くの地方が「こんな良いものがあるからおいでよ」と、名物をエサに人を呼ぼうとしている中「ハロウィンは名物じゃねえから来るな」という逆町おこしができるのは「さすが渋谷はんドスねんでヤンスな」という感じだが、そういう嫌味を含めて渋谷と言えばハロウィンと思われるのは渋谷区にとって避けたいことなのかもしれない。

やはり名物の話は、外部の人間が「〇〇の名物と言えば××ですね」と率先していうものではなく「名物はなんですか?」と聞いて地元の人間に言わせた方が間違いがない。

しかし、多くの地方民がその問いに対し「ないです」と、何故か誇らしげに言って話が終わるパターンも多いし「故郷は焼いた」と言い出すオタクもいる。

もはや「名物」は、野球、政治、宗教に並んで出すべきではない話題なのかもしれない。