スープストックトーキョー(以下、スープストック)が一部店舗で行っていた「離乳食無料」を全店舗で行うと発表したことにより、一部ユーザーが激怒。そこから子供反対派独身女性VS子あり家庭所属者VS属性不詳男性の乱闘が発生。さらに「スープストックは女の吉野家説」が登場、懐かしの吉野家コピペスープストックver.が投下され、元ネタを知らずにマジレスする若に昔を懐かしむ老がマジギレという場外乱闘も起こったようだ。

つまり地獄であり、心の自衛意識が高い人は、オマール海老のビスクと牛を甘辛く煮たやつの匂いが混じりだした時点で逃げ出したと思われる。

私も子持ちでもなければ、外で働く女性でもない。そんな無関係のチー牛が「まあ皆さん落ち着いて、小生の意見としましては」と、何か深イイ風なことを言っても良いことなど何もない。

その理屈でいうとコラムのテーマが「社会」な時点で「貴様には無関係だろ」と口をまつり縫いされてもおかしくないのだが、一つ当事者としてお気持ちを述べられるとしたら「スープストックは女の吉野家」という説に関してである。

おそらく「仕事帰りに1人で入店でき、手軽に欲望を満たし癒しが得られる施設」という意味なのだろうが、スープストックに気軽に入店できるのはごく一部の人間なのだ。

私がスープストックのドレスコードすら満たせていない、というのもあるが、そもそも吉野家が1,000店舗以上あるのに対し、スープストックは50店舗前後。そのほとんどが東京他都心に集中し、我が県にないのはもちろん「中国地方」全体にすら未上陸である。

スープストックの店舗検索には「現在地から最寄りの店舗を探す」機能があるのだが、私の現在地に最寄りの店舗など存在しないため、検索中の部分が永遠にクルクルしていた。

つまり、スープストックは女の吉野家と言われても、多くの地方住みの女はピンと来ていない。

私がスープストックに入るとしたら「滋養を短時間でかきこむため」ではなく「ちょっとした観光気分」なのだが、今回の件で私が「今朝スープストックに入っちゃいましてね」と言っても、都心住みからしたら「なぜこいつはいちいち吉野家に入ったことを報告してくるのか」と思われるだけと判明してしまった。

東京ローカル店という意味では「スープストックは俺たちのジョイフル」と言われたほうがまだ意味としては正しい気がする。

つまり「全店舗で離乳食無料」と言っても、吉野家で「150円引き」の垂れ幕が下がるのとは規模がまるで違うのだが、この件はスープストックだけの問題ではなく「子連れ」に対する世間の意識を争点として論争が広がっていったのである。

「タダ離乳食に大挙する子連れ」という「仮想敵」

  • 往年の吉野家コピペ、改変版とはいえ今読むとなかなか過激なので、時代は着実に流れていると感じます

子供の貧困などが問題視される現在、「離乳食無料」は良い施策のように思える。なぜそれに一部ユーザーが激怒したかというと、これのせいで店にベビーカーの子連れが押し寄せ、自分たちの安らぎの場が破壊されることを危惧したからである。

(※編集注:4月26日、一連の騒動を受けてスープストックが声明を発表。「私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません」として、全店で離乳食無料を始めた理由を説明しています)

吉野家コピペ改変が生まれたのも「店の打ち出したキャンペーンにより今まで来なかったファミリー層が来て激混み&雰囲気ぶち壊し」という状況に対する怒りが共通しているためだろう。

ただ、反対意見の一部が「モデルの赤ちゃんも口元が汚いし一重まぶただし、赤ちゃんは生理的に無理」や「ベビーカーの乞食ママだらけになる」など、表現として過激すぎたため、離乳食無料に反対する独身女性への批判が起こるなど、論争が拡大していったようである。

確かに「乞食ママ」など我々が原稿に書いたら真っ先に赤が入る文言であり「いただきママ」とかに変えられるやつだ。

部外者から見れば、子育て支援は良いことではないかと思うが、スタバでストローが紙になった時も、店側の社会貢献してるっす施策のために今まで他チェーンより割高なスタバをわざわざ利用してきたユーザーが「便所紙の芯を嚙まされている」などのオシャレとは真逆の不利益を被らなければいけないことに批判が集まった。

スープストックも今まで女性が一人でも入れる店というコンセプトで運営され、その層に支持されてきたので、一人客が居づらくなりそうな方針を出すことに批判が出るのは仕方ないのかもしれない。

しかし、批判されるとしたら方針を出した店側なのに、その矛先が「ベビーカーで大挙する赤子連れのやつら」という仮想敵にまで向けられたとしたら不幸である。

この件で一部の過激派とはいえ「ベビーカーや赤子連れに対する厳しすぎる視線」が可視化されてしまった。この「ベビーカーや子連れを異常に憎んでいる勢」も仮想敵なのかもしれないが、子連れにとって、そういう人がいるかもと思うだけでも負担である。

少子化はライフスタイルの多様化が後押ししているところもあるだろうが、日本の「子供作ってもろくなことなさそう感」が拍車をかけていると思われる。

子供を作っても外に出れば迷惑がられ、提供されたサービスを利用しようとすれば乞食と呼ばれるとわかったら、子供は作らない方が吉という判断になってしまうだろう。

ちなみに、この離乳食無料により、本当にスープストックに赤子連れが押し寄せ「よーしママ全粒粉パンも食べちゃうぞー」状態になるかというと、リアル子連れ勢からすれば「スープストックは店内の作りからして子連れに適してない店が多いので杞憂に終わるのではないか」との見解である。

女の吉野家と言われるだけあり、1人でサッと食べて帰ることを想定された店舗は激狭であり、長居をさせないように大人でも足がつかないハイチェアを使っているところも多い。さらにそういう都心の店舗はオフィス街やしゃれた街にあり、住宅地からは離れている。郊外や広めの店舗ならまだしも、タダ離乳食のためにそんな高難易度ステージに挑むような子連れはなかなかいないだろう、とのことだ。

つまり子育て世帯にとっては行く気もないのに「奴らが来るぞ!」と竹やりを向けられるというもらい事故である。(※編集注:スープストックは4月26日の声明で「狭い店内ではサービスが行き届かずご不便をおかけすることもあるかもしれませんが、心を込めてお迎えさせていただきます。どうぞ気兼ねなくご利用ください」とコメントしていました)

そもそも離乳食無料だったとしても、大人が普通に頼めば、スープストックは量の割に割高な店なのでそこまで得ではないのではないか。(※編集注:スープストックの無料離乳食は大人が有料の注文をしたときにもらえます)

もし、大人は全粒粉パン単品のみでタダ離乳食だけ注文というガッツを発揮しなければいけないほど困窮している家庭だとすれば、そこに手を差し伸べるべきはスープストックではなく福祉だろう。