「ただし魔法はケツから出る」

往年の名作漫画「魔法陣グルグル」を代表する名セリフの一つだ。

習得に半年はかかる魔法を一か月で覚えることもできるが、ただし魔法はケツからでる、という話である。

これは一見ギャグだが「高い効果を短期間で得ようとすれば何かしらの代償がある」ということを示した深いシーンでもある。

この度、それを体現したような肥満改善薬の製造が承認されたという。

その薬は大正製薬の「アライ」というもので、飲むと油の吸収を阻害する効果がある。薬局で薬剤師の指導さえ受ければ、処方箋なしで購入できるそうだ。

このアライはクソの数ほどあるダイエットサプリとは異なり「医薬品」なため、高い効果が期待できる。

しかし、前述のとおり薬という安易な方法で高い効果を得ようすればそこには代償がある。

「ただしケツから油がでる」

油を体内に吸収しないということはそのまま外に出すしかない、ケツから油が出るというのはもはや必然である。

効果の高いやせ薬が薬局で買えるようになるのは良いが、それに対する「ケツから油がでる」というでかすぎる代償ゆえに大きな話題になったようだが、私に言わせれば「今更」である。

何故なら私はこのケツから油がでる薬を何年も前に使ったことがあるからだ。

いち早く話題の薬を体験していた筆者の実感は?

  • 魔法のような効能の薬の「反作用」が見事に表せる構文です

何故日本で認可されていない薬を使ったことがあるのか、脱法油をケツから出していたのかというとそうではなく、海外で売られている同じような薬を個人輸入で入手することができたのだ。

私の現在の年で下手なダイエットをすると骨が折れるか毛が抜けるのでもう痩せようという気すらないが、当時はいろいろなダイエットに手を出しており、その一つとしてこのケツから油が出る薬も試してみたことがあるのだ。

ちなみに薬の副作用欄に「ケツから油が出る」と書かれているわけではなく、実際は「油を伴う放屁」と表現されているようだ、ある意味ケツから油より強い言葉である。

この副作用は事実である。何せ油なため滑りが良く屁の勢いで出てしまうのだ。そして服用中は屁が出やすくなっていたような気がする。

つまり、この薬を飲むなら肛門に厳戒態勢を敷いておかないと社会的死亡事故が起こる。

ただし、美味な代わりに食べ過ぎるとケツから油が出ることで有名な魚「バラムツ」のように、肛門包囲網を突破して自然に漏れ出てしまう、ということは少なくとも私はなかったので、服用中はオムツァーにならないといけないわけではなかった。

出てくる油はTwitterなどで「ラー油」と形容されているが、大体合っている。そして「臭い」、普通の便臭とは違う独特の油臭がする。

さらに、普通ならば便器にはつかないはずの「油汚れ」が付くので、出すたびに軽く掃除の必要がある。

そして肝心の効果だが「よくわからない」というのが正直なところだ。個人輸入品なので「そんなに痩せないし、ケツから油が出る」という損しかない商品だったのかもしれないが、それを飲んで激やせしたという記憶はない。

欧米では薬とかしゃらくせえと痩せるために胃を切る手術などをしたりもするが、それでも医者が患者に「運動と食事制限はしなければだめだ」と言っていたので、この薬もダイエットを補助する薬であり、少なくとも「暴飲暴食しても痩せる薬」ではないと思われる。

それを考えると「ケツから油が出る」という副作用は正しい等価交換なのか、錬金術師も長考である。

ただ、この薬は今の世の中に合致しているともいえる。

飲むと誤爆の恐れがあり、誤爆すると周囲にニュータイプの悪臭が漂ってしまうため、これを飲んで会社に行くというのはスリルがないと生を実感できないタイプ以外は難しい。

しかし今はリモートワークの人間も多い、自宅ならたとえ誤爆してもパンツを捨てるか洗って続投させるか悩むだけで済む。

むしろケツから油を出すなら今しかない、この時期にこの薬が承認されたのは英断と言えるだろう。

ちなみにこの薬が処方されるのは、腹囲が男性90センチ、女性80センチ以上の18歳以上だそうだ。測ってみたが、よほどの百貫デブでなければ処方されないというわけではないようだ。

人生一度くらいはケツから油を出してみたかったがそんなに腹囲がないという人も十分目指せる数字だと思うので、ぜひあきらめずにトライしてみてほしい。