宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)は2017年8月25日と26日に2日間にわたり、ISAS相模原キャンパスの施設公開イベント「相模原キャンパス特別公開2017」を開催した。毎年恒例のお祭にして、最先端の宇宙科学について、直接研究者とふれあいながら学べるこの催しは、今年も大勢の人々で賑わった。

今回は特別公開の展示や解説の中から、とくに気になったものを厳選し、3回に分けて紹介していきたい(第1回はこちら)。

第2回では、月面着陸を目指す超小型探査機「OMOTENASHI」と、月のラグランジュ点を目指す超小型探査機「EQUULEUS」について紹介したい。

月面着陸を目指す超小型探査機「OMOTENASHI」の実物大模型

月のラグランジュ点を目指す超小型探査機「EQUULEUS」の実物大模型

月面着陸を目指す超小型探査機「OMOTENASHI」

「OMOTENASHI」(おもてなし)は、超小型ながら月に着陸することを目指した月探査機である。

OMOTENASHIの大きさは12cm×24cm×36cm、質量はわずか14kgで、いわゆる「6Uサイズ」と呼ばれる抱えて持てるくらいのサイズしかない。もちろん月に着陸する探査機としては、現時点で世界最小である。その小ささから、着陸する仕組みなどはかなり割り切ったものになっている。

SLSによる打ち上げ後、OMOTENASHIはまず月に衝突する軌道に乗る。この間、探査機本体の放射線計測器によって放射線環境を測り、将来の有人月飛行に役立つデータを取得する。

そして打ち上げから4~5日後の着陸の直前に、搭載している固体ロケット・モーターに点火。同時に探査機本体から着陸機(表面プローブ)が分離する。そして表面プローブは、固体ロケットの噴射によって月との相対速度をほぼゼロにし、その後月の重力に引かれて落下。月面に秒速30m(時速100km)ほどの速さで着陸――というよりは衝突に近い降り方をする。

その衝撃に耐えるために、通信機器などを積んだ表面プローブの本体部分はクラッシャブル材(自ら潰れることで衝撃のエネルギーを吸収する部材)によって守られており、さらにエアバッグもふくらませ、衝撃を吸収できるようになっている。さらに減速に使ったロケット・モーターの本体(殻)も、衝撃を吸収する部品として機能する。

無事に着陸できれば、表面プローブは着陸時の加速度データを地球に送信する。内部バッテリーで稼働し、運用可能時間は2~3時間ほどだという。

ちなみにOMOTENASHIとは、Outstanding MOon exploration TEchnologies demonstrated by NAno Semi-Hard Impactor(直訳で「超小型の硬着陸機による優れた月探査技術の実証機」)から取られている。ちなみに数年前に流行語にもなった「おもてなし」ともかかっているものの、語呂を合わせたのにはとくに深い理由はないという。開発者は「月に衝突するわけですから、とても"おもてなし"とは言えませんし、月の表側に降りますから、表無し(おもてなし)とも言えませんし……」と冗談を飛ばす。

OMOTENASHIの打ち上げは、NASAが2019年に打ち上げを予定している巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)に、無人の「オライオン」(Orion)宇宙船に相乗りする形で行われる予定となっている。

月面着陸を目指す超小型探査機「OMOTENASHI」の実物大模型

OMOTENASHIのエアバッグ

OMOTENASHIのクラッシャブル材

エアバッグとクラッシャブル材を組み合わせた状態の、ヘリ落下試験モデル

OMOTENASHIの固体ロケット・モーター。ミサイルなど、小型の固体ロケット技術を得意とする川崎重工業が開発、製造するという

OMOTENASHIの展示ポスター

OMOTENASHIの展示ポスター

月のラグランジュ点を目指す超小型探査機「EQUULEUS」

「EQUULEUS」(エクレウス)は、地球・月間の第2ラグランジュ点(EML2)へ飛行する超小型探査機で、OMOTENASHIと同じく、SLSの初飛行に相乗りして打ち上げられる。大きさもほぼ同じ、10cm×20cm×30cm、質量14kgの6Uサイズしかない(ただし太陽電池が開くので宇宙空間でのサイズは大きくなる)。

EQUULEUSという名前はEQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft(直訳で「月・地球間の平衡点の6Uサイズ宇宙機」)から取られており、EQUULEUSは「こうま座」という意味ももつ。

EQUULEUSは、この規模の小さな探査機による軌道制御や深宇宙飛行技術の実証を目指している。とくに目新しい点として、「AQUARIUS」(アクエリアス、みずがめ座)と名づけられた、水を加熱して発生させた水蒸気を噴射するエンジンを搭載しているところがある。このエンジンは、水を気化させるために多くのエネルギーが必要だったり、性能が悪かったり(比推力は70秒ほど)といった欠点はあるものの、水なので完全に無毒な上に、液体での貯蔵が可能といった特長がある。また、水は地球上はもちろん他の天体でも入手が比較的容易で、月にもいくらか眠っている可能性があり、将来の深宇宙探査機のエンジンに応用ができる可能性もあるという。

また、技術実証だけでなく理学観測も目指しており、直径が数cm~mほどの微小天体(メテオロイド)が超高速で月面に衝突した際に発生する閃光「月面衝突閃光」を観測することを目指した、「DELPHINUS」(デルフィヌス、いるか座)という特殊なカメラを搭載している。

月面衝突閃光そのものは地球からでも観測できるものの、閃光が発生する時間はわずか0.01~0.1秒ほどと短く、また月明かりより暗いため月の夜側でしか観測できないため時間的な制約があり、さらに地球の大気や、太陽光が地球に当たった反射光が月を照らす「地球照」と呼ばれる現象が観測の邪魔をする。さらに、そもそも月は表の面しか地球に向けていないこともあり、その観測は非常に難しい上に多くの制約がある。

そこで宇宙空間から観測すれば、長時間の連続観測ができる上に、地球照の影響をほとんど受けることはない。さらに、EQUULEUSが投入される地球・月間のラグランジュ第2点は、常に月の裏側に位置するため、地球からは見られない月の裏側のデータが取れるというメリットもある。とくにメテオロイドは地球の重力に引かれ、吸い寄せられるようにやってくるため、月の表側より裏側のほうに衝突する頻度が高いという。

ちなみに、カメラは同型のものを2台搭載する。これは誤検出をできるかぎり取り除くためだという。月面衝突閃光はとても小さく・細かくしか写らないので、カメラのセンサのノイズと紛れてしまう。一方で、2台のカメラに同時に同じノイズが乗ることはまずありえない。

そこで、2台のカメラで同時に観測し、それぞれが撮影した画像を比べることで、写っている閃光らしきものが本当に月面衝突閃光なのか、それともノイズなのかを判断することができる。ちなみに本物の閃光とノイズの比率はおよそ1:100、つまりノイズのほうが圧倒的に多くなるだろうと考えられているという。

また、地球磁気圏を観測するカメラの「PHOENIX」(フェニックス、ほうおう座)、地球・月間の宇宙塵を観測するセンサの「CLOTH」(クロス、漫画『聖闘士星矢』の聖衣からという噂)という観測機器も搭載している。

OMOTENASHIもEQUULEUSも、順調にいけば2019年にSLSで、他の超小型衛星、探査機とともに打ち上げられることになる。もっとも、肝心のSLSの将来がやや不透明なため、延期や、あるいは中止の可能性がないわけではない。しかし、超小型衛星による宇宙利用や宇宙探査の時代はまちがいなく訪れており、これからさらに活発になっていくことになろう。

そこにおいて、OMOTENASHIやEQUULEUSの存在、またその中で開発される超小型探査機の実現にとって必要となる技術は、今後もさらに別の超小型衛星など、さまざまな場面で役に立つことになるだろう。

EQUULEUSの実物大模型(太陽電池を開いた状態)

EQUULEUSに搭載される水スラスターAQUARIUSの試験機

月の裏面に隕石が衝突する様子を観測するカメラDELPHINUS。2台のカメラからなる

EQUULEUSの展示ポスター

EQUULEUSのミッション概要の展示ポスター

EQUULEUSに搭載される水スラスターAQUARIUSの展示ポスター

(第3回に続く)

参考

目指せ月面! 超小型探査機OMOTENASHI
OMOTENASHI Project
(注:2017年9月13日時点ではリンク切れとなっています)
EQUULEUS - From Japan to EML2
月のラグランジュ点を目指す超小型探査機EQUULEUS
小型月着陸実証機SLIM(スリム)とは?

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info