【コラム】

JAXA相模原キャンパス特別公開2017

1 地上に現れた異世界「宇宙探査実験棟」、四つん這いになる月探査機「SLIM」

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)は2017年8月25日と26日に2日間にわたり、ISAS相模原キャンパスの施設公開イベント「相模原キャンパス特別公開2017」を開催した。毎年恒例のお祭にして、最先端の宇宙科学について、直接研究者とふれあいながら学べるこの催しは、今年も大勢の人々で賑わった。

今回は、星の数ほどあった特別公開の展示や解説の中から、とくに気になったものを厳選し、3回に分けて紹介していきたい。

第1回では今回が初公開となった、月や惑星の表面を模擬した実験場「宇宙探査実験棟」、「宇宙探査フィールド」と、月面で四つん這いになるちょっと変わった探査機、小型月着陸機「SLIM」について紹介したい。

地上に現れた月・惑星の異世界環境「宇宙探査実験棟」

月面で四つん這いになる探査機「SLIM」

初公開となった「宇宙探査実験棟」

今回の特別公開では、今年の2月に完成したばかりの「宇宙探査実験棟」が初めて公開された。

宇宙探査実験棟は、月や惑星の表面を模擬した実験場「宇宙探査フィールド」をもつ建物で、月・惑星探査車や着陸機の性能・機能確認や運用試験などができるようになっている。

なんといっても圧巻なのはその広さで、実に400mもあり、同様の施設では世界でも3本の指に入るほどの大きさだという。その中には硅砂(けいさ)という砂が約400トンも敷き詰められ、月や惑星にあるような平地や山地といった地形が形作られている。さらに、月・惑星の昼や夜の環境を模擬するために、部屋全体が暗室のようになっており、4つの強力なライトを使った人工太陽装置なども備えられている。

ここで試験される探査車は、隣接する2つのコントロール・ルームから運用できるようになっており、地上からの運用はもちろん、宇宙船内と月・惑星上の中継局との3地点を結んだ複雑な運用も模擬できるようになっているという。

JAXAは2015年に、民間企業や大学、JAXA以外の研究機関と、将来の月、火星探査に必要な技術の開発や、そうした技術を地上でも活用(スピンオフ)し、生活を大きく変えるイノベーションを起こすための共同研究を行うことを目指した「宇宙探査イノベーションハブ」を立ち上げており、この実験棟はそのイノベーション創出の拠点として利用される。

すでに5月から探査車などの試験を始めており、10月以降から本格的に試験が始まるという。今回の公開時には、JAXA/ISASが開発中の小型月着陸機「SLIM」の試験機のほか、宇宙探査イノベーションハブの事業の一環として、JAXAと民間企業、大学などが共同開発した探査車などが置かれていた。

宇宙探査フィールドには見学者用の通路が整備されており(ただし窓は隠せるようになっており、非公開にもできる)、今後も何かの機会に公開されることになろう。

また、宇宙探査実験棟の隣には「宇宙科学探査交流棟」も建設されており、現在の宇宙研展示室(「はやぶさ」の実物大模型などでおなじみの部屋)に代わる施設として、また宇宙探査イノベーションハブの交流拠点として、JAXAや大学、研究機関、民間企業による意見交換やプレゼンなどが開かれる場所としても活用されることになっている。こちらの完成は2018年初めごろの予定とのことだった。

宇宙探査実験棟の中にある、月や惑星の表面を模擬した実験場「宇宙探査フィールド」。まるで月面を上空から眺めているような世界が広がっている

JAXAと民間企業、大学などと共同開発した探査車

実際に探査車が走る様子も展示された

JAXAが開発中の小型月着陸機「SLIM」の試験モデル

着陸後、四つん這いになる小型月着陸機「SLIM」

宇宙探査フィールドにも試験モデルが置かれていた小型月着陸機「SLIM」(スリム)は、将来の月・惑星探査に必要となる、狙ったところに着陸できる「ピンポイント着陸」の技術の開発と、実際に小型探査機を使い、その技術を月面で実証することを目指したプロジェクトである。

SLIMという名前は、Smart Lander for Investigating Moon(月の探査のための高性能な着陸機)の頭文字から取られており、SLIMとSmartは小型を意味するが、同時にSmartは賢いという意味もある。その名のとおり、SLIMはこれまでの月に着陸する探査機とは大きく異なる特長をもっている。

従来の月・惑星探査機は、広い平地などを目指した「降りやすいところに降りる」着陸をしていた。そのため、当初狙ったところから大きくずれることもあり、また科学的に魅力的な場所を狙った着地もできなかった。しかしSLIMでは「降りたいところに降りられる」着陸を目指しており、着陸誘導制御技術や画像処理技術などの新しい技術を駆使して、着陸地点に向けて正確かつ自律的に降りることを目指している。

また、システム全体も小さく軽く(まさにスリムに)まとめられており、この技術を将来の探査機に活用すれば、軽い分観測機器を増やしたり、サンプル・リターンができる余裕ができたり、あるいは月よりも条件が厳しい天体にも着陸できるようになったりといったことが可能になると考えられている。

SLIMは昨年までの特別公開でも展示が行われていたが、今回の展示では、着陸時の機体の姿勢が大きく変わったことが大きな目玉となった。

従来の検討案では、アポロ計画の月着陸船のように、月面に向けてまっすぐ降りてきて、そのまま探査機の下部にある着陸脚で着陸する計画だった。しかし検討の結果、着陸時の安定性などを考慮した結果、まず2本の着陸脚が月面に接地した後、機体を倒し、側面にある4本の着陸脚によって四つん這いの姿勢で安定させる、「二段階着陸方式」が考え出されたという(ただしまだ検討中で、正式決定ではないとのこと)。このように倒れ込むようにして月に着陸する探査機は過去に例がないが、「いかに安定して着陸させるかを考えた結果」だという。

さらに、薄くて軽い薄膜太陽電池や、小型軽量な電池、金星探査機「あかつき」でも採用されたセラミック・スラスターを改良したエンジンなど、小さく軽く、高性能な探査機を実現するためさまざまな最新技術が投入されている。

現時点でSLIMは、公式には2019年度に「イプシロン」ロケットによる打ち上げが予定されているが、先日一部報道で、X線天文衛星「ひとみ」代替機といっしょに打ち上げることでコストダウンを図るという検討が行われていることが報じられた。その場合、2020年度以降にH-IIAロケットで打ち上げられることになるという。ただ仮にそれが実現したとしても、「(ロケットが変わることによる)大きな設計変更などは発生しないだろう」とのことだった。

打ち上げまであと3~4年となり、これからいよいよ本格的に探査機が形作られていく段階となる。はたして来年の特別公開ではどんな姿が明らかになるのか、楽しみにしたい。

SLIMの模型

SLIMの模型。ちょっと昆虫のようにも見える

着陸接地実験用の模型。これはすでに月面に横倒しになっている状態で、右下の脚が最初に月面に接地し、写真奥方向に倒れ込むことでこの姿勢に落ち着く

最初に月面に接地する脚には、ポーラス(多孔)金属と呼ばれる金属を利用した、衝撃吸収装置が取り付けられる。もともとはザルのようなお椀型をしているが、接地時にこの形に自らつぶれることで、確実に衝撃を吸収できるようになっている

SLIMの展示パネル

SLIMの着陸方法を示した展示パネル

参考

JAXA|宇宙探査イノベーションハブ
JAXAの新しい取り組み 宇宙探査イノベーションハブ
SLIM
月探査新時代-小型月着陸機SLIM
小型月着陸実証機SLIM(スリム)とは?

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info

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インデックス

連載目次
第3回 「再使用観測ロケット」開発の最新情報、小型ながら高性能なレーダー衛星
第2回 月を目指す、わずか14kgの超小型探査機「OMOTENASHI」と「EQUULEUS」
第1回 地上に現れた異世界「宇宙探査実験棟」、四つん這いになる月探査機「SLIM」
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