市場動向調査会社の英IHS Markitが1月30~31日にかけて開催した、ディスプレイ業界関係者向けカンファレンス「第38回 ディスプレイ産業フォーラム」において、同社ディスプレイ部門シニアディレクターのDavid Hsieh(謝勤益)氏が基調講演として「2020年 FPD産業のキーポイント」と題した業界動向に関する説明を行った。

注:本連載はあくまで2020年1月30日時点のIHSによる予測であり、2月に入り本格的に猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は考慮されたものではないことに注意していただきたい。

  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    ディスプレイ産業フォーラム会場の様子 (著者撮影)

2020年のデイスプレイ産業はどう変化していくのか?

同氏は、2020年のディスプレイ産業が2019年からどのように変化するのかについて以下のように説明した。

  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクターのDavid Hsieh(謝勤益)氏 (画像提供:IHS Markit)

  • フラットパネルの需要成長率(面積ベース)と生産能力成長率の関係に変化が見られる。2019年は、需要成長率が2%に対して生産能力の伸びが9%で、供給過剰状態であったが、2020年は需要が7%伸びるのに対して、古い液晶生産ラインの閉鎖や転用で生産能力の伸びは3%にとどまるため、供給過剰が解消し、価格が反転する見込みである。
  • テレビ用パネルの需給バランスについては、2019年は供給過剰だったが、2020年は韓国勢の液晶パネル製造ラインの相次ぐ閉鎖により一転して供給不足に陥る。その結果、テレビ用パネルの価格は、2019年は前年比3~4割の下落であったが、2020年は1~2割の低下に留まるだろう。ただしパネルメーカーの収益性は多少改善するが、十分に改善するまでには至らないだろう。
  • IT機器向けパネルの需給バランスについては、2019年は均衡していたが、2020年はG8(第8世代)パネルへの移行や新規参入により、均衡から供給過剰に移行するだろう。
  • スマートフォン用有機EL(OLED)パネルの出荷枚数は、2019年の4億7500万枚から6億9000万枚へ増加する見通し。有機EL製造上の課題は、2019年はパネルの製造歩留まり向上であったが、2020年はそのめどがついたのでモジュール、カバーグラス、タッチなどの製造が重要になってくる。
  • 2019年は実装用CoF(Chip-on-Film)の不足が問題となったが、2020年はドライバICを受託生産してくれるファウンドリがタイトになる。なぜなら、ファウンドリは、ドライバICより利益率の高い5G、IT、自動車向けチップを製造で多忙を極めるからである。
  • 8K テレビ向けディスプレイの年間生産数量は2019年の31万5000枚から53万枚へ増加するが、8K対応のコンテンツが少なく、ハイエンド品のみにとどまるので成長は鈍い。
  • 2019年に採用が始まったミニLEDバックライトを採用した液晶は、2020年にはゲーミングや車載向けに成長していく。
  • 2019年はSamsungだけが量産していたマイクロLEDディスプレイについては、高価のままで民生用ではなく商用に限られ、主にサイネージ市場へ拡販されていくと予想される。
  • Samsungが仕掛ける量子ドット(QD)技術を用いたQLED (実態は液晶+QDバックライト)に関しては、2019年の550万枚から800万枚に増加するほか、2020年後半にはQD OLEDの試作生産も始まるとみられる。
  • 有機ELテレビの生産量は、2019年は300万台(55インチおよび65インチ)だったが、2020年には500万台(新たに48インチと77インチを含む)となる見通し。また、ポータブル有機ELテレビも登場すると思われ、そうしたテレビ用有機ELの多くが中国で量産されるようになるとみられる。
  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    フラットパネルディスプレイ市場の2019年~2020年にかけての概況 (出所:IHS Markit)

  • 第38回 ディスプレイ産業フォーラム

    ディスプレイパネルの生産面積推移予測 (単位:百万平方メートル) (出所IHS Markit)

2020年に注目すべきFPD産業の10大テーマ

また同氏は、2020年のFPD産業におけるキーポイントについて次の10テーマを挙げている。

1.ディスプレイの面積成長が継続

ディスプレイの面積成長率は、引き続き予測を上回っており、 2017年から2026年までの年平均成長率は4%とみられる。テレビサイズと有機ELの面積拡大がカギを握っている。G8.5~10.5へと世代の進化に伴い、より大きなサイズのテレビに焦点を合わせるためにガラス基板から切りだせるテレビ画面サイズ・ミックスが大型化してきている。

2.中国の新しいディスプレイファブへの投資がスローダウン

2020年~2021年にかけて新規設備投資の減速が進み、2021年以降の新しい大面積ディスプレイファブの計画は今のところ聞こえていない。これまで新規ファブの投資をけん引してきた中国の有機ELメーカーの2020年の課題は歩留り向上と信頼性の向上である。

3.韓国での古い液晶製造ラインの閉鎖と再編

韓国では、第7世代および第8世代の液晶テレビ用パネルラインの大規模な再編が行われるため、2020年〜2021年の需給バランスに影響を与えることが予想される。

韓国製の液晶テレビ用パネルの生産数が大幅に削減される一方で、中国のテレビパネルメーカー、特にHKCやCECのような新規参入企業は積極的に進める姿勢を見せている。液晶テレビ用パネルのサプライチェーンは、Samsung DisplayおよびLG Displayからの供給の減少により、2020年、大手テレビサプライヤは中国パネルメーカーからの購入量を増やすなど、変化がみられることとなる。

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    生産国別のFPDパネル生産能力推移予測。左がTFT-LCD、中央がAMOLED(QD-OLEDを含む)、右がTFT-LCD + AMOLED。TFT-LCDについては中国がシェア7割に向かって急成長する一方で韓国が急減少。AMOLEDは韓国が急落、中国が急成長の後、2020年代は中韓で6:4の比率で均衡へ。全体では中国がシェア7割の確保へ向かい、他国は凋落傾向 (出所:IHS Markit)

4.液晶テレビ用パネル価格が上昇

古い液晶ラインは、2019年から2020年にかけてシャットダウン/再構築が進められており、これに伴い2020年の年間生産能力の増加は低く抑えられる見通し。これにより、2020年は供給不足に陥り、テレビ用パネル価格の上昇が見込まれるが、2021年には需給バランスは均衡するとみられる。

5.IT機器向けパネルの供給過剰と多様化

パソコンやタブレットなどのIT機器に向けて生産能力のシフトが進んでおり、2020年は供給過剰になる可能性が高い。そのため、価格の下落を防ごうと、付加価値を高めるさまざまな形態や機能を搭載したディスプレイが続々登場すると思われる。

6.新しいディスプレイ技術が続々と登場

ミニLEDバックライト、QD OLED、デュアルセル、フレキシブルOLEDなどが登場するが、各テクノロジーごとに長所と短所がある。コスト面では、ミニLEDバックライトは有機ELよりも高価であるし、マイクロLEDディスプレイは、商用/公共のディスプレイアプリケーション向けであり、まだ家庭用テレビには対応できないなどである。

7.スマートフォンディスプレイの主流は有機EL

メジャーなスマートフォンメーカー各社は有機EL搭載機種を増加させる傾向にある。特に5Gモデルでは中国の有機ELメーカーからの供給量が増加することもあり、有機EL搭載が主流になりつつある。

8.中国の有機ELメーカーの隆盛

中国の有機ELメーカーの数が増加傾向にあり、またそれに併せて歩留まりと信頼性の改善も進んでいる。中国メーカーによる有機ELの供給量は、2019年の年間5400万枚から2020年は同1億2800万枚に増加すると予想される。

9. AMOLED技術の急速な進化

アクティブマトリックス型の有機EL(AMOLED)の技術が急速に発展しており、さまざまな形態をした最終商品が中国メーカー各社から発表されている。特に折り畳み方式に関しては技術の改善が進み、最終市場で評価を受けるまでに至っているが、折り畳み式ディスプレイを採用したパソコンには疑問符(?)がつく。

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    中国製のさまざまな形態の有機ELディスプレイを搭載した最終製品群 (出所:IHS Markit)

10.生き残りをかけた新戦略を各社が策定

Samsung DisplayとLG Displayは有機ELに注力していく姿勢を打ち出している一方で、中国メーカーの多くは、新機能や高性能化を進めて液晶パネル市場での事業規模拡大をねらう。台湾勢のAUO、Innoluxはニッチ市場に焦点を当てるなど、各国のFPDメーカーが生き残りをかけて他国勢と差異化できる新たな戦略を策定したものの、日本勢は迷走中で戦略が定まらない状況となっている。