火星の接近を人類はむかーしから見てきました

大きさの変化は望遠鏡がないと、まるでわかりません! が、明るさの変化は誰もがわかっていました。なにしろ100倍近く明るさが変わるんです。いや、数か月かかってですけど。

3000年前! のバビロニア(メソポタミア文明ですな)では「ネルガルが遠くにかすんでいれば、縁起がよく、輝いていれば縁起が悪い」と書かれた記録がでています。ネルガルというのは、死と病あと飢えの神様でございます。災厄の神ですな。え? ネルゲル? それはドラクエ。ネルガルです。世の中いい時も悪いときもある。それを少しでも予想できればなあと誰もが思うわけですが、それを火星に求めたのですな。つまりなんだ、星占いです。そりゃまあ、そうも見えますよね。

ちなみに、火星は古代のギリシャや古代ローマでは戦争の神様ともされていて、輝くときに戦争が起こると…これまた星占いですね。

まあ、しかし知らなければびっくりするのが火星の接近でございます。近代になった1877年9月にも火星の大接近があったのですが、おりしも西郷どんが、西南戦争をしていた時期。西郷隆盛が死んだ時期に重なったため、火星を西郷の星といった人たちがいたようでございます。

火星の観察から、太陽系の秘密を解き明かした人もいます。観察したのはデンマークのティコ・ブラーエ。秘密を解いたのはティコの弟子のドイツのヨハネス・ケプラーでした。

1609年にケプラーは、ティコが観察した火星の動きのデータを詳細に検討し、火星が太陽を焦点とする「楕円軌道」を描いてうごくことを見抜きます。それまで宇宙の動きは正しい円と考えられていたので、それが楕円という風に考えるのは飛躍だったのですなー。接近とそうでないときの差が激しい火星のデータがあったから、この事実に気が付いたわけなのでございます。この惑星の動きが楕円軌道を描くというのは、ケプラーの第一法則といって、いまでも天文学の教科書に載っています。まあ、惑星に限らないのですけれどね。

 さて、1609年にはイタリアのガリレオ(でました!有名科学者)が望遠鏡で初めて宇宙の観察をしたときです。ガリレオは木星の衛星や、月のクレーターを発見しています。ただ、ガリレオは火星を「完全な球じゃない」ということをいうにとどめただけでした。まだ、望遠鏡の性能が不足だったのです。

なおその後、オランダのホイヘンスが1659年に自分で作った改良望遠鏡で、火星の表面に黒い影のようなものがあるのを見つけるのですね。ホイヘンスはこの影をみていて、24時間ごとに現れることを発見します。つまり、これは火星が自転しているということ! 地球と同じように24時間の周期があることなのでございます。火星は地球とよく似た天体だという着想もでてくるわけですな。ちなみに火星の1日は24時間ではなく、24時間37分あまりであり、地球とはビミョーに違います。ま、そりゃそうですね。違う天体なんだから。なお、地球の一日はdayですが、火星の一日はsolと表して区別をします。

さらにイタリアのカッシーニは、1672年の大接近の時に火星の距離を測定します。ヨーロッパ(パリ)と南米(仏領ギアナ・カイエンヌ島)で同時に火星を観測し、その見える方向の違いから距離を算出、原理そのものは三角測量というヤツで、人間が2つの目で距離を知覚するのと同じ原理でございます。ちなみに角度の差は1000分の3度。10秒角ほどでございますな。うーむ、すごい小さい角度ですが、インターネットで海外と連携し、望遠鏡で完全に同時に写真を撮影すれば、わかるかもしれませんねー。

ところでイタリアのカッシーニは火星の端が白いことに気が付いていました。極冠(ポーラーキャップ・冠というより帽子ですけど)といわれる部分です。NASAが発表している宇宙望遠鏡による写真なんかが、わかりやすいですね

1784年にイギリスのハーシェルは、望遠鏡で観察し、この極冠が季節によって変化するらしいということに気が付くのでございます。ハーシェルはその様子から、火星は空気があり、地球と同じように海や大陸があると考えました。ま、実際には海はないのですけど、空気はありますし、雲がわいたり砂嵐が起こったりすることがわかっています。もっとも空気は地球の100分の1の濃さなので息はできません。ただ、超軽量の飛行機なら飛ばせるかもという研究がありますし、なにより大気の抵抗を使って燃料を使うことなく宇宙探査機のスピードを落とし、パラシュートで安全に着陸させるということも行われています。

1877年、西郷の星といわれた火星の大接近のときには、火星にアサフ・ホールによって2つの衛星フォボスとダイモスが発見されています。一方で、火星を詳細に研究していたイタリアの(またイタリア、結構でてきますな)スキャパレリは詳細に火星を観測し、火星に筋が多数あることを発見します。彼は「溝がある」と言っていて、実際、火星にはマリネリスという大地溝があるのがわかっているのですが、翻訳のさいに「人工的な運河」とされたために、火星人がいるという話になってしまいます。

余談ですが、スキャパレリといえばシャネルのライバルだったファッションデザイナーです。ちなみに火星の溝のスキャパレリはエルザの伯父さんだったりします。日本でもそういう人いるかな。

さて、火星人説は、SFにも取り上げられ、ウェルズの1898年発表の「宇宙戦争」で、タコ型宇宙人(大気が薄く、水が少なく、重力が小さく、賢いことからの必然だそうな)が登場します。これ、全部火星を見つめた結果でてきたのですが、まあ、火星を望遠鏡で見ても、さすがに宇宙人の基地の有無はわからないのですな。

その後、1964年にアメリカの探査機が火星に接近し、写真をとったら「なーんもないよ」となってしまったわけでございます。ただ、微生物が地下にいるかもというのはまだ消えていないのでございます。

さて、ちょいと書くつもりが長くなってしまいましたが、火星を見て、わかったこと。最後に勘違いしたことなどご紹介してまいりました。この夏から秋にかけて、火星はよく見えます「赤くてすごい明るい星」と覚えておくだけで大丈夫でございます。いまからぜひ準備をしておいてくださいませ。なお、望遠鏡は倍率100倍かけられるしっかりしたものがよいです。4~5万円くらいは予算がほしいところ。買うより見せてもらうほうがよいかもですね。

なお、火星はすでに夜中3時くらいの空に見えていて、距離は1.5億kmくらいです。国立天文台が見方のWebサイトをつくっています。むー、もうチョイかんたんなのがいいな。まあ、それはまた7月ごろにこちらでといたしましょー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。