ふと思い立って一番明るい星を調べてみました。星にちょっと詳しい人だと、シリウスあるいは金星となるのですが。調べるといや、いろいろでした。ご笑覧あれ。

最強!。いい言葉ですね。対戦もののアニメや漫画では、常に最強の敵キャラが登場し、主人公が乗り越えていく、それが王道ですなー。

一方、星の場合は、地球を主人公にしたところで、ある日、地球が太陽を越えることはございません。厳然とした強さがあるんですな。ただ、一番だと思っていた星が新発見で首位陥落になったり、新しいジャンルでは、目立たなかったあの星が一番に、ということもあるのでございます。今回は「理系の時刻表(違)」理科年表をながめつつ、最強の星をチェックしてみました。

人間が見る一番明るい星 - シリウス

「シリウス」は、おおいぬ座の星です。オリオン座の左下にちょっと離れて明るく輝くのがそれでございます。3月中旬ですと、7時半~8時の南の空に、一番明るい星がそうでございますよ。

星の明るさは伝統的に「等級」で表しますが、シリウスは-1.5等級。これは並みの1等星の10倍の明るさになります。ちなみに2位のカノープスは-0.7等級で、シリウスの半分の明るさ、しかも本州では非常に低空に見えるため、明るさも低空の大気で減衰して本領を発揮できません。

これ、太陽が夕日だとまぶしさが減るのと同じですね。ということで、シリウスの圧勝という感じですな。

  • 望遠鏡で撮影したシリウス

    望遠鏡で撮影したシリウス

シリウス以上に明るい星 - 金星

といっていてなんですが、シリウスより明るい-4.4等級にもなる星があります。それは金星です。シリウスのさらに10倍以上という輝きですな。

  • 三日月の左で光っているのが、金星です

    三日月の左で光っているのが、金星です。こちらは恒星のシリウスとは違い「惑星」ですが

また、木星も-2.8等級、火星も-3.0等級、水星も-2.4等級になることもあります。「なることもある」というのは、金星、水星、火星、木星はいずれも地球と一緒に太陽をめぐる惑星で、遠さが結構変わるからなんですね。遠いときは"暗い"となります。 とはいうものの、木星や金星は暗くてもシリウスより明るいわけです。しかも、「オリオン座の左下」とか場所が決まっていない。昔の人はこれらの星を神(木星は大神ジュピター)とか仏(金星は虚空蔵菩薩)と考えたのも無理からぬことですな。

さらに、金星より明るいのは、月(満月で-12.6等級)と太陽(-26.8等級)なのですが、さすがに星というのはつらそうな気がいたしますなー。

金星より明るくなる星 - ベテルギウスが超新星化した場合

ただ、実は金星より明るく輝く星がかつてあり、またこれから見える可能性がございます。それは、太陽より重い星が大爆発を起こして消し飛ぶ、超新星爆発のさいの輝きです。

爆発といっても、一瞬の閃光で終わりではなく、明るい状態は2~3か月は続きます。特に明るくなるのはI型の超新星で、その明るさは太陽の10億~100億倍にも達します。そして近くで起こるものほど明るく見えるのでございます。

で、いま超新星爆発を起こしそうで近いのは、距離600光年程度のベテルギウス(オリオン座)とアンタレス(さそり座)でございます。これらが爆発した場合は-12等級程度、つまりは満月くらいの明るさになろうかと考えられています。将来の5万年以内には超新星になるとみられています。

  • アルマ望遠鏡がとらえたオリオン座の一等星、ベテルギウス

    アルマ望遠鏡がとらえたオリオン座の一等星、ベテルギウス。この星は現在、星の一生の終末期である赤色超巨星の段階にあり、そのサイズは太陽の約1400倍にまで膨らんでいるそうです(2015年撮影) (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) /E. O’Gorman/P. Kervella

本当に明るい星 - 超新星やLBV

距離などはおいておいて、本当に明るい星は、やはり超新星でございます。星というか、爆発をして消えていってしまう様子ではございますが。観測記録では太陽の6000億倍の明るさの超新星がありました。ASASSN-15lhというこの超新星の距離は28億光年なので、もちろん肉眼では見えませんでした。

一方、持続的に輝く恒星で一番明るいのは、LBVといわれる星たちです。これは太陽の10万倍以上もの明るさを持つ、明るい(Luminous)、青い(Blue)、変光星(Variable Star)でございます。生まれつき巨大に生まれ、巨大なためにモーレツに発光し、しかも不安定なので明るさが変化し、さらに表面がバシバシはがれて、周辺の宇宙空間にガスや塵がちらばりまくっているという星です。で、このガスや塵のために、せっかく明るいのに「雲隠れ」してしまい急に暗くなってしまうこともあるんですなー。

LBVのなかで天文学者がよく調べているのが、エータ・カリーナという星です。明るさは太陽の40万倍。2つの星が回りあっていますが、両方ともLBVです。距離は7500光年とシリウスの8.6光年の1000倍も遠くにありますが、19世紀末にはカノープスを越える-0.8等級になったことがあります。エータ・カリーナを単純にシリウスとならべると-15~6等級になります。

現在は、ガスや塵にまみれて6等級(下図のような姿)なのですが、それでもシリウスと並べると-10等級程度となります。すさまじいですな。

EtaCarinae

なお、LBVにはもっと明るい星があるともされていて、有名なのはいて座にあるピストル星です。距離は2万5000光年。太陽の160万倍の明るさがあります。

また、やはりいて座のLBV 1806-20という星がより明るいという話もあり太陽の200~4000万倍という推定がされています。距離は4万5000光年で、これくらい遠いと、そこまでの間にあるガスや塵で暗くなるので、本当の明るさがよくわからなくなっているんだそうですなー。

ガンマ線で明るい星 - パルサー

ガンマ線は放射線の一種ですが、光→紫外線→エックス線→ガンマ線という感じに、とっても短波長な光でもあります。このガンマ線を強烈に出す星は、やっぱり超新星ですが、安定的に強く出している星はパルサーという種類のものです。

パルサーは超新星爆発のあとに、星の中心部が猛烈に圧縮されてできる中性子星で、超高速回転を起こすために電磁波を点滅させて発光しているものです。パルサーは多数発見されていますが、そのなかで一番ガンマ線が強いのは、ほ座パルサーでガンマ線の強さは834、次いでふたご座のゲミンガの353、おうし座のかにパルサーの226.となっております。ただ、さっぱりわかりませんなー。

赤外線で明るい星

赤外線は目では見えませんが、光の一種ですな。ヘビなどには赤外線センサーを持っているものもあり、赤外線センサーで明るい星はなにかということになります。

で、一番はオリオン座のベテルギウスだったりします。超新星爆発を起こしそうな星で登場しましたね。人間がふつうにみても、0.4等級とまあシリウスの10分の1くらいの明るさですが。赤外線だと波長2.2μmで-4.1等級、10μmで-5.2等級となります。また、10μmでは、これまたLBVで登場したエータ・カリーナが-7.9等級と、無理にシリウスに並べなくても、空のなかで、赤外線での輝きが一番の星になります。

ということで、いろいろ一番明るい星を並べてまいりましたが、ちょっと残念なのは、強烈な天体が南に偏っていることですね。エータ・カリーナもほ座パルサーも日本では観測しにくい南天にあります。シリウスも南より。LBVのピストル星も南の方です。赤道より北で明るいものといえば、おりおん座のベテルギウス、かにパルサー、ゲミンガパルサーくらいですかね。南半球には、南アフリカ、オーストラリア、チリなどに強力な天文台が作られていますが、なんだかわかるような気がいたします。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。

南に旅行するなら見ておきたい星は?

南へ旅行すると、南十字星など本州では見えない南半球の星や天体が観察できます。そこで、南へ旅行するならぜひ見ておきたい星や天体についてまとめてみました。

【合わせて読みたい】南への旅行で見るべき星