サイエンスの醍醐味の1つは、日常生活ではまず登場しない、ナゾのカタカナ専門用語を知ることです。はたからみるとほぼ呪文。なんだかカッケー。知っているだけで優越感でございます。中身はないですが、それは言わない約束。今回は、天文系のカタカナ語をご紹介いたしましょー。なお、使用にあたっては、文字通り、羊頭狗肉なことを悟られたら、すぐ撤退が吉でございますよ。あ、本物の方はそれにあらずでございます。
ニュートン、ウータン、パリティ、オムニ。いずれも科学雑誌の名前でございます。休刊になったのもありますが、いずれも日本のですな。聞いたことがあるような、ないような、そんなカタカナ語がタイトルになっていて、どことなくカッケーような、まあ、すくなくとも、なんだろと思う効果はありますな。ということで、カタカナ語はワクワクさせる力があるのでございます。ま、カタカナ語にはうまく翻訳できなかったとか、最新でまだ定訳がないという不安定さがあるのですが、それまた魅力なのかもしれません。ともあれ、今回は、天文系のカタカナ語をいろいろ紹介しちゃいますよー。
メーザー
レーザーの電波(マイクロ波)版でございます。実はこっちが先に発明されました。レーザー同様、強力なマイクロ波を放出するのでございます。実は宇宙空間は、天然でメーザーが存在していて、メーザー天体とか言ったりいたします。
ライマンアルファの森(フォレスト)
水素にエネルギーを与えると、特定の色の光を出します。で、その1つが光がライマンアルファ線。研究者ライマンの名前がついているんですな。逆にその紫外線を水素は吸収するので、光源の手前に水素ガスの雲があると、ライマンアルファ線の色だけが、スコっと抜けます。さらにその水素ガスの雲が宇宙膨張にのって後退すると、その後退速度によって、いろいろな色が吸収されることになり、それらの吸収の分布が林立するので、森というのでございますな。
天文学者と話していると、フツーにライマンアルファフォレストが云々とかいわれて、目が点になるのでございます。なお、この特定の色の系列には、ライマン、バルマー、パッシェンというのがあって、これまたよくでてきます。バルマーはふつうの光(赤と緑)に現れるので、H(水素)アルファとかHベータとかいってよく登場します。
エバーシェッド流
これまた人の名前がついたカタカナ語です。太陽の黒点の周囲にある筋に沿った外向きの流れのことでございます。1909年にこれを発見したエバーシェッドさんは、インドの方でございます。
グロビュール
宇宙にある水素などが集まった雲、分子雲のうち、モヤーとひろがっていなくて、水滴のように丸っこくある切れ端のようなもの。切れ端といっても太陽10個ぶんくらいの物質が集まっております。だいたい丸っこいので、グローブ(球:globe)的なものといった言葉があてられておりますな。同じくグローブ(地球)から派生した言葉にグローバルがありますね。なんで野球のグローブ(手袋:glove)が関係しているんだと悩んでいたのは内緒です。
シンクロトロン放射
電子などの電気を帯びた粒子が、宇宙にある磁力線の周りをぐるぐる回りながら光速近い超高速で突っ走ると、光がでるのでございますが、その時の光をシンクロトロン放射といっております。この超高速の電子は、ブラックホールに落ちそこなって、すっ飛ばされることで超高速になっているらしく、名前だけでなく現象としてもなかなかカッケー感じです。
パルサー
中性子星のなかで強い磁場があり、回転しているもの。光などの電磁波の放射が磁極方向に集中するので、磁極がこっちを向いたときだけ明るくなる。回転しているので、パパパパと明滅するように光ることから、パルスを打つようなのでパルサーといっとりますな。
特に磁場が強いパルサーは、マグネターと言います。これもなんかカッケーですな。
ホットコア
星は星雲のガスが集まってできるのですが、その中でも特にデカイ星ができるところにある、高温(数百ケルビン)の星雲の固まりのこと。ホットコア(熱いコア)なので、いろいろ使えそうな言葉ですが、こういう風に使っているのでございます。
ラブルパイル
宇宙で巨大な岩石が集まってできる天体の構造。巨大な岩石があらい石垣みたいにあつまるので、空隙が多くなり、見かけより密度が低くなる。日本の小惑星探査機がたずねた、小惑星イトカワはラブルパイルであることがはっきりわかった天体。最初に聞いた時はなんじゃそりゃと思いました。
OBアソシエーション
OとかBというのは、星のタイプ名で、超高温の星のこと。超高温になるためには、重く、ものすごいエネルギーを出せないといけない。ヘビー級の星ですな。そうしたヘビー級の星が全体として統一した動きをしているのがOBアソシエーションでございます。まあ、あ、こりゃ、もともと一緒に生まれたんやなー、とわかるわけでございますな。さそり座やオリオン座、北斗七星など、明るい星が多いあたりはOBアソシエーションのメンバーの星が多かったりします。
ベッセル年
1年間は365日だったり、366日だったり変化して、単位として使いにくいので、これを太陽の周りを一周する時間として定義したもの。ベッセル年の初めは、太陽の赤経が280度で、だいたいこれはふつうに使っている1月1日に近い。かつてB1950とか星の地図に基準がかかれていたBは、このベッセル。ベッセルはドイツの天文学者で、これを最初に使った人。当人はベッセル年とは言ってなかったんだけど、みんなが言うようになったんですな。むかしの天文学の教科書には載っていましたが、最近はまあ使うことが少なくなりました。結局きっちり長さが同じにならないので。
ガンマ線バースト
宇宙の一点から、数秒間、急速にガンマ線が強くでて止む現象。ガンマ線は放射線で、原子爆弾からも出るので、核爆弾監視衛星VELAによって発見された。バーストはタイヤの破裂のことでもありますが、まあ、パッと明るくなる様子からですな。長らく、その正体は不明だったのですが、現在はIc型の超新星かキロノヴァ(中性子星同士、または中性子星とブラックホールの合体)によって起こることがほぼわかっております。
ビームパターン
アンテナが放射する電波、あるいは受ける電波の角度による強度の分布。理想的には点がいいんですけど、実際はそうはならないですな。ビームっていうとなんかかっこいいですな。
ウォルフ・ライエ星
これまた研究者の名前で、ウォルフさんとライエさんが発見した星の種類。非常に高温で明るい恒星。恒星の中で起こる核融合が強烈なため、恒星の身体をつくる水素が宇宙に広がってしまい、反応が起こった内部の生成物が表面にあらわれている状態。いうならば、服がはぎとられて、中身が見えちゃっている星。太陽くらいの穏やかな星では、そんなことにはなっておりません。
ウラノメトリア
1603年に出版された星図。バイエルさんが作ったのでバイエル星図とも言いますな。ラテン語のUrano(天空)とmetria(測定)の合成語。ラテン語は何かとカッケーのですが、その典型でございます。
さて、いかがでしょうか。このほか、定番のブラックホールとか、最近はやりのダークマターにダークエネルギーなぞもございますな。あとは、恒星の固有名や星座の名前なども、カタカナ語ですが、これはスパッと割愛しております。
さて、ところでそれぞれの説明、まあ、辞書だの教科書だの引き引きご紹介してまいりましたが、あれ、私、間違えて理解していたというのも結構あって、書いたもののちょっと自信がなくなっております。まあ、その辺もカタカナ語のおもしろいところではあるのですが。とりあえず、よい子はこれをそのままコピペしてレポートに使ったらだめだぞ! 見出しの言葉の響きのカッコよさをとりあえずは知っていただければと逃げを打ちながら退散いたします(でもまたたぶん別分野でやるでしょう。ははは)。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。