サンスターが今年4月に発売した「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」。歯ブラシにBluetoothと加速度センサーを内蔵したシリコン製のアタッチメントを取り付けることでスマホと接続し、検知したデータをもとにアプリ上でブラッシングの採点やゲームなどが楽しめるというガジェットだ。

サンスター「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」。アタッチメントを装着することでマニュアルの歯ブラシに通信機能と位置情報を検知する機能をアドオンすることを可能にした

古くから存在している身近でアナログな製品をIoT(モノのインターネット)化することにより新たな価値を付与した代表的な例として、「2016年度グッドデザイン賞」をはじめ、「コードアワード2016」のベスト・イノベーション賞などに選出されている。

前回は同製品のプロダクト的な側面についてのエピソードが明かされたが、今回はゲームなどソフト面を中心に、経緯や狙いについて、商品開発担当者であるサンスターグループ オーラルケアカンパニー 日本ブロックマーケティング部の松富信治氏に話を訊いた。

歯磨きを"やらなくちゃ"から"やりたい"へ

そしてG・U・M PLAYのコンセプトとして掲げられたのが「"やらなくちゃ"から"やりたい"へ」。歯磨きというのは、虫歯や歯周病などの病気の予防を目的に"義務感"で行わなければならない生活習慣として認識されているが、それを"楽しい""進んでやりたくなる"ものへと価値観を変えるために、エンターテイメントの要素が取り入れられた。

そしてそのための手段として、Bluetoothで歯ブラシがスマートフォンと接続し、アプリと連動して楽しみながら歯磨きができるという方式が採り入れられた。

歯ブラシを押し込むとLEDが点灯。スマートフォンとの接続はその間にアプリを操作して行うというシンプルな方法が採用されている

「電動歯ブラシの場合、うまく使いこなせれば非常に有効なのですが、適切な使いこなしをしなければどうしても磨き残しができてしまうんです。それに、G・U・M PLAYは歯ブラシがゲームのコントローラーのようになるツールですが、電動歯ブラシだと使う側の動きはあまりありません。あくまで体験ベースとしての新しい形の歯磨きを提案したいということもあったので、"マニュアル"の歯ブラシを採用したという理由もあるんですよ」と松富氏。

「MOUTH NEWS」。下側のタイマーとガイドを参照しながら歯磨きを行う。歯磨き中はニュースや天気予報、占いなどが表示される

そこで用意されたのがアプリだが、歯ブラシの動きでモンスターを退治する子ども向けの「MOUTH MONSTER(マウスモンスター)」、ブラッシングに合わせて楽器を演奏することができる「MOUTH BAND(マウスバンド)」、ブラッシング中にニュースや天気予報、占いなどを表示し音声で読み上げてくれる「MOUTH NEWS(マウスニュース)」の3種類がある。

「MOUTH MONSTER」。歯ブラシの動きや位置を検知し、画面に表示される"モンスター"をやっつけながら歯磨きが行える子ども向けのアプリだ

松富氏によると、他にもさまざまなコンテンツが検討されたが、「あくまでもオーラルケアメーカーとして提供するもの。楽しいだけではなく、入り口はゲームでもちゃんと磨けるもの、幅広い層が楽しめるように」ということで、まずはこの3つに絞り込まれたという。また、「開発中はコンテンツについて、様々な議論があったが、真面目過ぎてもおもしろさが失われてしまうのでバランスを取るのが非常に難しかったです」と明かす。

「MOUTH BAND」。歯ブラシの動きで楽器を演奏するアプリ。曲に合わせながら歯磨きにより演奏し、高スコアを目指すモードもある

「正しい歯磨き」のデータ化に四苦八苦

その他、各アプリには共通の基本機能として、歯科衛生士が推奨するブラッシング方法に近いほど高得点が得られる「MOUTH CHECK(マウスチェック)」と、ブラッシングデータの記録と分析を行う「MOUTH LOG(マウスログ)」の2つも用意されている。松富氏によると、ソフト面で特に難しかったのがこれを実現するための基準となる正しい磨き方の実装だ。

歯科衛生士が推奨する適切なブラッシングの速さを習得するための「マウスチェック」機能

というのも、これまで正しい歯磨き方法というのは感覚値としてはあったが、データとしての基準が存在していなかったからだ。そのため、開発にあたっては社内の複数の歯科衛生士に体験をしてもらってログを取ることから始め、そのデータを平均化していくという作業が何度も繰り返されたという。しかし、実際行ってみると歯科衛生士によってもバラつきがあり、年代によっても傾向が異なるなど一筋縄ではいかなかったそうだ。

また、G・U・M PLAYの歯磨きの位置情報の検知には加速度センサーが利用されている。「もともとはジャイロセンサーと3軸センサーを組み合わせでやろうとしていましたが、コストが高くなってしまうために実現できませんでした。そこで加速度センサーだけでどうやって動きを検知するかが課題で、独自のアルゴリズムをもとに再現できるようにしました」と松富氏。

ハード側がBluetoothの電波を出していてもソフト側が上手く受信できないといったトラブルや、3軸の向きや動きを解析したものをログとして表示する際、どのように標準化して表示するかなど、ハードウェアとソフトウェアの連携が思った以上のハードルだったと明かす。

「マウスログ」機能では、過去の歯磨きの記録を参照できる。毎回のブラッシングピッチやブラッシングエリアといった情報も参照できる

このように、歯磨きの新しいユーザーインターフェースデザインと言えるかたちで製品化されたG・U・M PLAYだが、歯磨きのデータを活用した行動変容に向けたインフラツールとして、歯科業界はじめ様々な業界から期待が寄せられているという。医療費の削減という社会的課題を解決する仕組みづくりとして、健康保険組合からも大いに注目されているとのことだ。

今後はその他のヘルスケアアプリとの連携など、新しいサービスの仕組みなども検討中。まずは、マウスバンドとマウスモンスターの英語と中国語版をリリース予定。新しいアプリも構想中で「早い段階で届けられるようにしたい」と展望も明らかにされた。

新しいかたちの歯磨きのユーザーインターフェースによって、人々の意識と常識を大きく変えたG・U・M PLAY。次期バージョンではどのような仕掛けが用意されているのか楽しみに待ちたい。