前回は電子帳簿保存法の令和3年度改正における、スキャナ保存制度の主な変更点について説明しました。最終回となる今回は、PDFファイルで受領する請求書など、電子取引の際に受領する電磁的記録に関する改正内容及び注意点について、詳しく説明します。

電子取引における電磁的記録の書面への出力での保存が廃止になった

まず今回の改正で一番影響が大きいものとしては、電子取引の際に受領する電磁的記録を、書面への出力で保存することが廃止になったことです。

第1回にも簡単に書きましたが、つまりこれはわかりやすく言うと、「PDFファイルの請求書のような、電磁的記録として受領するものについて、印刷して紙の状態で保存することが禁じられる。」ということになります。

電磁的記録として受領するケースは、すでに多くに企業において行われているのではないでしょうか。特に、新型コロナウイルスの影響で、リモートワークなど、勤務形態に劇的な変化があった企業においては、極力出社せずに業務を処理する方法を模索されていたかもしれません。

その中の一つとして前述のように、請求書を郵送ではなく、PDFファイルにてメール等で受領する方法に、積極的に切り替えた企業も多いようです。

それらの電磁的記録について、システム上ではPDFファイルなどのままで処理し、最終的には印刷をして、紙の状態で保存するやり方を取っていたかもしれません。これまでの電子帳簿保存法においてはその方法での保存も認められていましたが、それが令和4年1月1日以降、PDFファイルなどのままでの保存が必須となります。

ではそれら電子取引における電磁的記録を、電子帳簿保存法の要件に従ってそのまま保存するためには、どうすればよいのでしょうか?PDFファイルの請求書を例にとり説明します。

改正後の要件に従って電磁的記録を保存するためには

まず電子取引における電磁的記録を保存するためには、電子帳簿保存法の要件を満たした保存環境を用意する必要があります。

その要件とは、①電磁的記録にタイムスタンプを付与して保存する、②電磁的記録の訂正削除履歴が残るかもしくは訂正削除ができないシステムで保存する、③正当な理由がない訂正削除を防止して保存する規程を策定しそれに基づいて保存する、のいずれかになります。

①の要件の場合、スキャナ保存のタイムスタンプの要件を満たしているシステムと同じものであれば、電子取引における電磁的記録の保存要件も満たします。

ただし今回の改正で、タイムスタンプを付与する日数の制限が追加になりました。従来の電子帳簿保存法では、このタイムスタンプの付与については「当該取引情報の授受後遅滞なく付与」という程度の規程でしたが、改正後は、当該取引情報の授受後、最長で2か月+おおむね7営業日以内に付与する必要があるので、注意が必要です。(社内での事務処理フロー等を定めている場合に限る。定めていない場合は、おおむね7営業日以内に付与が必要。)

②の要件を満たす製品もありますが、どのように訂正削除履歴が残るのか、どのタイミングから訂正削除ができなくなるのかなど、システムの仕様を詳しく調べる必要があります。 ③の要件が最も手軽に実現できると言えます。つまり、この社内規程を用意し、その規程に沿って運用することで、要件を満たすことができます。さらにこの社内規程は、電子帳簿保存法の一問一答(電子取引関係)の問24にサンプルがありますので、策定はそれほど難しくありません。

それらの保存環境を用意した上で、次に検索要件を満たす必要があります。この検索要件は、前回のスキャナ保存について説明したものと同じあり、今回の改正により変更になっております。詳しくは第2回の説明をご覧ください。

最低でも、請求書の日付、金額、支払先名の3つの値にて検索ができる必要があります。

つまり、前者の保存環境と、後者の検索要件の両方を満たす必要があるので、PDFファイルで請求書を受領し、印刷せずにPDFファイルのまま保存するといっても、単にファイルサーバー上に保存しておくだけでは要件を満たさないということになります。

要件を満たした製品の利用以外での検索要件を満たす方法

昨今の電子帳簿保存法対応の製品を利用すれば、検索要件もおのずと満たされます。前述の通り、スキャナ保存の要件を満たす製品であれば、検索要件に沿った検索機能を搭載していますので、スキャナ保存による電磁的記録と一緒に保存可能です。

日常の経理業務を考えると、このような製品を利用することが最も利便性が高く、業務も円滑に回り、安心して電子帳簿保存法の運用を行うことができます。しかし、製品導入が難しい、令和4年1月1日がもう間近のため間に合わない、という企業あるでしょう。

その場合は、電子帳簿保存法の一問一答(電子取引関係)の問12に、要件を満たす方法が書かれています。

一つ目は、PDFファイル名自体に、日付、金額、支払先名を書き込むというものです。 例えば、2022年1月15日に、株式会社コンカーから受領した55,000円の請求書の場合は、以下のようなファイル名にするやり方が書かれています。

20220115コンカー55000.pdf

その上で、支払先名や受領月などのフォルダに分け、PDFファイルを保存するという方法です。

二つ名は、Excelにてファイルの索引簿を作成する方法です。 上記のようにファイル名に直接日付、金額、支払先名を書くのではなく、Excelにてこれらが書かれた表を作成し、索引簿として利用することになります。 それにより、PDFファイル自体はファイルサーバー等に保存が可能になります、

具体的な索引簿のサンプルは、一問一答と同じく、国税庁のWebサイトに掲載がありますので、参照してください。

ただしこれらの方法で検索要件を満たす場合、保存環境としては前述の、③正当な理由がない訂正削除を防止して保存する規程を策定しそれに基づいて保存する、に対応が必要になりますので、この規程を策定した上で保存してください。

3回に渡り、令和3年度の電子帳簿保存法の改正について説明してきました。 スキャナ保存の運用を開始するための要件も下がり、いよいよ「デジタルで保存する」ことが当たり前になる土壌ができたと思います。 確かにこれまでは、電子化の日数制限が短いなど、企業にとって高いハードルとなっていたものもありましたが、今回の改正でそれらのハードルが下がり、企業における電子帳簿保存法の運用方針の選択肢の幅が大きく広がりました。

自社に合った運用ルールを策定し、このチャンスをぜひ生かして、貴社における電子化、ペーパーレス化を促進してください。

電子帳簿保存法 領収書・請求書電子化完全ガイドのご紹介

弊社で毎年発行している、電子帳簿保存法による領収書と請求書の電子化について詳しく解説している、「領収書・請求書電子化完全ガイド」の、令和3年度改正対応版が令和3(2021)年10月に公開されました。こちらも合わせてご活用ください。

船越 洋明(ふなこし ひろあき)

株式会社コンカー 戦略事業推進室 室長 フェロー

1995年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。以後約10年に渡り、通信業界において通信サービスの営業、製品・サービス企画に従事。2005年にトレンドマイクロ、2010年に野村総合研究所に入社し、製品の事業責任者、プロダクトマーケティングを担当。

2014年よりコンカーの製品統括部 部長として製品戦略を担当。2017年より戦略事業推進室 室長として、e文書法やその他戦略事業の推進を統括。関連省庁・団体等へのロビー活動も担当。中小企業診断士。(2021年10月現在)