野原: 学生の興味関心のひとつとして挙げていただきました環境問題ですが、建設産業にとって環境問題への取り組みはDXと並ぶ最重要課題のひとつです。
建設産業が生み出すCO2の排出量は世界の排出量の3割を占めると言われています。日本は2050年カーボンニュートラルの実現(※4)を宣言してCO2削減に向けて動き続けていますが、この取り組みは日本にとってチャンスになり得るものなのでしょうか。
※4 2050年カーボンニュートラルの実現:2020年10月に菅義偉総理大臣(当時)が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。 すなわちカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言
岸: 本来、CO2削減はビジネスチャンスのはずなんですよ。温室効果ガスへの対応に伴う新たなビジネスや投資のチャンスが生まれるはずなので。
しかし、残念ながら日本は政府、自治体、企業全ての取り組みがワンテンポ遅いんです。
なぜかと言えば、日本ではいまだにCO2削減がコストと捉えられているため、後手後手に回りやすくなっているからです。一方のヨーロッパは自分たちがCO2削減のリーダーシップをとって新たな雇用を作ろうという姿勢で取り組んでいるため、日本よりも積極的で速いペースで進んでいます。
これは日本にとって決していい状況とは言えません。CO2削減の捉え方、そして国が掲げた目標を考えると、全産業がCO2削減の取り組みを真剣に考えつつ、自分たちのビジネスチャンスにつなげていくというアクションが大きな意味を持つことになると考えています。
野原: 温室効果ガスの削減がビジネスチャンスにつながるというお話をいただきましたが、それを建設産業に落とし込むと、どんなアクションが考えられますか?
岸: 例えば、恐らくはCO2削減への対応が進むにつれて、エネルギーネットワークが大きく変化していくことになります。今までは、例えば福島の原発で作った電力を大需要地である東京に運ぶためのネットワークが必要でしたが、今後CO2削減が突き詰められていくと、再生可能エネルギーで作った電力が地産地消されるような、地域単位で完結するエネルギーネットワークが主流になっていくでしょう。
このエネルギーの地産地消化は、CO2削減のためだけに行われるものではありません。今後日本の人口が減少するに伴い、地方都市はコンパクトシティ的な方向に向かっていくことになるでしょう。エネルギーの供給方法を含めた地域の構造が変わり、街の在り方を変容させていくためには、建設産業が新たな建物やインフラを作る必要があります。建設産業には、人口減少に対応した街作りという大きな仕事が待っていると思いますよ。
野原: 今後、新たな国づくりに向けて、これまでと異なる建設の需要が増えていくと見立てていただきましたが、そのためにも具体的にDXを進めて生産性を向上させないといけませんね。