野原: 建設RXコンソーシアムの設立は、建設産業に山積する課題を解決するための取り組みのひとつであると感じます。数ある課題の中で、村上会長が今一番優先して解決すべきと考える建設産業の課題とは何でしょうか?

村上: 日本の人口が減少傾向にある以上、人が減るのは仕方ないことです。しかし、他の産業よりも建設産業の就業者の減少が激しいことは問題だと思います。

建設産業は長く3K(キツイ・キタナイ・キケン)や5K(3K+臭い・暗い)の職場だと言われてきました。われわれもそのイメージを払拭する努力を怠ってきた。建設の楽しみや喜びを社会に訴えることができていなかったのです。

その結果、建設産業を志望する若い方が減り、急激な就労人口の減少が起きていると考えています。

野原: そうした状況に、今は対策を打てているのでしょうか。

村上: 最近ようやく、ですね。各社が積極的に楽しさを訴えるようなCMを流すようになりました。

以前は「こういう空港を作った」とか、「どこそこの超高層ビルを建てている素晴らしい会社です」といったアピールをしていましたが、若い人から見れば自分たちとは関係がない世界の話だったと思います。建設産業の楽しみや喜びを伝えるCMが多くなっているのだと思います。

野原: 村上会長がおっしゃる建設産業の楽しみや喜びとは、どの辺りにあるとお考えでしょうか?

村上: 先ほど「建築物は一品生産品である」とお話ししましたが、まさにそこに建設の楽しみがあると思っています。

多くの関係者と力を合わせて作り上げた建物は、世の中にひとつしかないんです。その作り上げた住まいや商業施設などの建物は、利用する方々の生活を支えていきます。そうした誰かの人生の一部になるものを作り上げられる喜びは、なかなか他では味わえないのではないかと思いますね。

一つの建築には本当にいろいろな人たちが関わって作り上げられます。一人で何かを成し遂げるのではなく、チームで一丸となる。完成したときには自然とみんなからガッツポーズが出ますよ。

ところが、建設産業はこうした楽しさや喜びを自分たちだけで抱え込んでしまい、社会に伝えてこなかったのではないでしょうか。その結果が今の人手不足につながってきたのでしょう。それに気づき、最近は大手ゼネコンが先導して、建設産業で働く楽しみや喜びをアピールするようになりました。

野原: おっしゃる通り、近年の建設産業のCMは社会一般に共感を呼びかけるものが増えているように思います。

村上: こうした打ち出し方、伝え方を変えるという行動は、就業者の確保だけでなくいろいろな方面でいい結果を呼び寄せると考えています。

建設RXコンソーシアムの活動を始めてから、いろいろな方面からお声がけいただくようになりました。建設産業からだけでなく、他産業の方からも「話を聞きたい」「相談に乗ってほしい」という引き合いが増えました。

こうして注目していただけるようになることで、われわれの建設産業を変えたいという姿勢が若い人にも伝わっていくのではと期待しています。一方で、ステークホルダー(利害関係者)の多さがデジタル化を阻んでいた要因のひとつではありますが、だからこその喜びもあるんですよね。

野原: 一品生産だからこその喜びがあるというお話でしたが、一方でDXを阻む要因のひとつでもあるという点は悩ましいところかと思います。もちろん言いわけにするのは違うとは思いますが……。デジタル化を進めるためには標準化、モジュール化(※3)は避けて通れないと考えられますが、どのように共存すべきだと思われますか?

※3 モジュール化:互換性のある部品・要素(モジュール)によって、異なるシステム間でも問題なく機能を維持すること

村上: 自動車工場のラインに同じ車がズラッと並ぶような、同じものを同じラインで作る標準化の仕組みを建設産業にも当てはめられないかという検討は、長く繰り返されてきました。

今では建築に使う部材を3Dデータ化してPC上で再現するデジタルツイン(※4)の活用が進んでいます。設計に関する全てのデータを3Dデータ化すれば、一品生産であっても工場で作れます。部材をどこまで標準化するかは検討の余地がありますが、もしどうしても全て標準化するのが難しい建物があるなら、そこの部分は諦めればいいのですよ。おそらくは1割程度の建物では、固有の要求と条件に対応する必要があるため標準化した部材を使うのは難しいでしょう。反対に1割程度は標準化した部材だけで建築できるかもしれません。

※4 デジタルツイン:現実空間をデジタルデータによりサイバー空間に再現する技術。「デジタルの双子」の意味を込めてデジタルツインと呼ばれる

そして、残りの8割はその組み合わせで、できるところだけ標準化した部材を活用するように、現地現物の一品生産とうまく組み合わせていければいいと思います。

野原: 建設産業は長らく一品生産を前提とした建設が求められ続けてきましたので、発注者側に対する訴求もできていなかったのではないでしょうか。

これからはデジタルツインやBIM/CIMといった形でデータを活用した建設が進むようになり、PC上で建設に関するデータの全てが見えるようになると、発注者に対するアピールもしやすくなるはずです。

村上: 属性を付与されたデータを使った設計は、実はもう20~30年前から始まっていたんですよ。

2DのCADデータに一生懸命データを入れるような取り組みは当時の大手ゼネコンもそれぞれチャレンジしていましたが、当時はうまくいかなかったんです。今はテクノロジーが進化しデータの質も向上しましたので、当時とは状況が異なります。今度は失敗しないと思いますよ。