OpenAIとソフトバンクグループが提携し、企業用の最先端AIを開発・販売することに合意した

クリスタル・インテリジェンスと呼ばれるプロジェクトの発表を兼ねたイベントが東京で開催され、日本国内の名うての企業が集まり、ソフトバンクグループの孫正義氏(代表取締役 会長兼社長執行役員)とOpenAI CEOのSam Altman氏が登壇するステージに魅入った。あわせれば日本の時価総額の半分を超えるというトップ企業500社超がこのイベント会場に集まった。

  • 「Cristal」の発表に合わせ、Crystal(水晶)を手にするソフトバンクグループの孫正義氏(代表取締役 会長兼社長執行役員)

古いソースコード全部読む。AIが最新言語でバージョンアップ

クリスタル・インテリジェンスは企業を丸ごとデータ化するチャレンジだ。

最近は「日本発」のトピックがなかなかないが、今回は世界が注目するAIを日本から始めることができると孫氏。OpenAIとソフトバンクグループ、ソフトバンクが設立する中間持株会社が50%ずつを出資して合弁会社SB OpenAI Japanを設立、日本企業向けにカスタマイズされたクリスタル・インテリジェンスの展開を加速するという。

  • OpenAI CEOのSam Altman氏。氏はこの日、時間はかかるがより深いレベルで検討された詳細な回答を返す「Deep research」を会場でデモンストレーションした

このAIは各企業システムのソースコードを全部読む。数10年前に誰かが作ったソースコードをクリスタルが全読みするのだ。そしてそれを最新の言語体系でバージョンアップすることまで請け負う。

人間のプログラマーがプログラムする時代は終わったと孫氏。これから行われるすべての会議にはクリスタルが参加し、叡智を社員と会議で共有する。他社との交渉の際にもクリスタルが同席する。もちろん問い合わせなどを受けるコールセンターもクリスタルが代行する。

企業内にあるすべての資料、メール、エンジニアリングならすべての仕様書、設計図など、いっさいがっさいの既存企業データを全部読んで学習する。

孫氏は長期記憶が大事だという。クリスタルではプロンプトエンジニアリングの必要はなく、今、何を聞きたいかを詳細にいう必要がない。「あの件なんだっけ」でいいそうだ。大事なことは企業の長期記憶を消失させないということだ。それをもとにクリスタルは、すべてをふまえて正しいこたえをだす。

年間4,500億円を支払いソフトバンクが世界初の導入企業へ

まず、ソフトバンクグループ株式会社がこのソリューションを全グループ会社に展開するために年間30億ドルを支払って世界初の大規模導入企業となる。日本円にして約4,500億円。すごい数字だ。

孫氏は10年前にリワードに基づく強化学習の特許を取得しているという。2015年3月17日付けで、長期記憶の感情に基づく重み付け、そして、長期記憶のインデックス化などの三大基本特許を取得しているのだ。自分の発明が人類初だったと孫氏は興奮気味に語った。特許の存続期間は20年で、これからの10年が非常に重要だと孫氏は考える。

これは現代の人類がもっとも関心のあるであろう最先端の技術で、まずは一業種一社くらいから始めることになるようだ。そのあと、医療、教育、政府、交通などあらゆる分野へ拡大していく。知恵の再利用はないし、学習結果は外部に漏れない、もちろん外国にもわたらない。それぞれのクリスタルが生まれ、各企業の経営に貢献する。

  • 孫氏とSam Altman氏の対談も実現。終始冷静にデモンストレーションや孫氏との対談を進めていた

ひとつの企業にある圧倒的大量データでクリスタルが完成

なぜ一業種一社、つまり大企業のスタートなのか。個人の世界は千差万別で、理屈でいえない感情の世界だからだと孫氏はいう。個別の例外がたくさんあって、それを世界中の人々の中で万能の知恵として確立するのはたいへんだ。だから大企業なのだ。

ひとつの企業に限定すればすでに圧倒的大量のデータが現実に存在する。汎用AIを完成させるには限られた世界のデータがあることが重要だ。深くて広くてリアルタイムで特有の個別データがふんだんにあり、それをもとにいろんなトレーニングをして推論をしていくことができる。

だからこそ大企業で革命が最初に起こる。もちろんカネもかかるし努力も必要だ。それを払えるだけの財力がある大企業が最初のチャレンジャーとなる。

AIの利活用についてはまだまだ黎明期で模索の時代だという認識もある。そんな中で、自社を丸ごとAIとしてしまうチャレンジにより、孫氏のような型破りな経営者が生まれなくなってしまうのか、あるいは最終的にAIが企業を経営するようになってしまうかもといった怖い想像もしてしまう。