YouTubeが東映株式会社とパートナーシップを結び「YouTube Space時代劇 with 東映太秦映画村」プログラムを開始した。六本木にあるYou Tube クリエイター向けの無料スタジオに時代劇の撮影ができる特別セットを公開提供するというもので、通常セットと同様に無料で提供される。また、時代劇撮影に関するワークショップなども開催され、東映が培ってきたノウハウが披露されるとのこと。提供は2015年5月末までだ。

発表会の様子

YouTubeは今年で10周年を迎えるが、Googleのサービスの中でもモバイルからのアクセスが多いサービスで、これは特に日本において顕著であるという。昨今は、モバイルキャリアのネットワーク高速化などの影響もあるのだろう、視聴時間は昨年比で50%も増加しているそうだ。日本のモバイルネットワークはとにかく速い。だからこうしたプラットフォームがストレスなく楽しめる。

YouTube Spaceは、コンテンツを制作するクリエイターがこのプラットフォームを使って収益をあげられるようにと提供されるもので、同様の施設がニューヨーク、ロスアンゼルス、ロンドンなどにもある。

ここでは、クリエイターに対するさまざまな支援が行われ、この2月には来場者が2.5万人を突破した。ただの無償スペースではない。場所を提供するだけではなく、作品作りのノウハウやクリエイター間のコラボレーションの機会を提供する試みとして機能している。

東映株式会社京都撮影所所長の竹村寧人氏は、同撮影所が他社も利用する時代劇のメッカであることをアピール、これまで培ってきた数々のノウハウを伝えたいという。その中で、新しいかたちの時代劇が生まれ、日本の文化や伝統を時代劇というかたちで世界に発信することができるはずと断言した。

「今回のコラボレーションはYouTubeのパワーと東映のノウハウの融合であり、時代劇コンテンツの幅を拡げる足がかりとなる」(竹村氏)。

新セットは、京都のスタッフが監修企画施工したスタジオセットであり、ワークショップとあわせて提供される。

ふすま一枚向こうには小道具がギッシリ。これらを使って和室のシチュエーションを作る

Googleの広報担当者も着物姿で説明

全体を学習、交流、創造というみっつのキーワードで構成し、殺陣のワークショップから、着付け、かつらの実習、小道具の使い方、セットの使い方などが、東映側のスタッフからクリエーター諸氏に伝授されることになっている。

セットそのものは、2つの和室にすぎないが、居間、廊下、寝室、庭園があり、4種類の撮影アングルが得られる。そして、小道具次第で、御姫、揚屋(花魁)、町屋、殿様というシュチュエーションに変化、6畳の和室がふたつだけという小規模なものながら、建具や小道具でセット自体を替えることでバリエーションを確保する。

つまり、限られたステージセットでいくつものシーンが作れるというわけで、それが長年培われてきた東映のノウハウでもある。

さらに、照明によって朝、昼、夕方、夜を演出でき、4セット×4シチュエーション×4時刻で、64通りのバリエーションが表現できる。ネックは、六本木ヒルズという普通のオフィスビルの中に設けられていることから一般的なスタジオに比べて天井が低いことだという。

このスタジオを使えるのは選ばれたクリエーターのみとなるが、それだけで500万人の登録チャンネルユーザーにリーチできるということだ。

花魁姿に着付けした人気YouTuber 佐々木あさひさん セルフメイク動画で人気だが、今回は東映のスタッフが時代劇用にメイク、着付けてもらった。カツラは劇重で翌日の筋肉痛が心配だとか

人気YouTuberが勢揃い。撮影コンサルタントとして参加する映画監督の李闘士男氏とともに記念撮影

TVはマスメディアとしてその頂点に君臨している。平均視聴時間は減る一方であるとしても、今なおその影響力は絶大だ。だが、YouTubeのようなサービスによるコンテンツが質、量ともに充実していくことで、そのピラミッドは少しずつイビツなものになりつつあるのではないか。YouTube Spaceが狙っているのはそこだ。だからこそ、巨額の投資で設備を作りそれを無償で提供してまで人材を育て、魅力のあるコンテンツを提供できるように仕向けている。そして、そのメディアとしての価値を高めることで、広告メディアのピラミッドに変革を起こそうとしているのではないか。

この取り組みから生まれる新たなコンテンツに期待したい。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)