ドコモがサービスイン前に新プランahamoの料金を税抜き2,980円から税込み2,970円に値下げした。結果として約1割の値下げだが、まだそんな余地があったのかと驚く。他社追随を先読みし、さらに4月からの総額表示の義務付けを前提に、あらかじめ仕組まれていたのかもしれないという見方もできる。

通話込みでは3キャリアで最安のドコモ

サービス内容についても、当初のものよりずいぶんと消費者寄りに変更されている。ドコモをしてここまでさせる。まさに、モバイルネットワーク戦国時代だ。ここまでの価格破壊が起こると、今まで支払ってきた料金は、一体何だったのだろうかと思ったりもする。

  • ahamoはドコモショップ店頭では受け付けないが、ahamoの先行相談会を行うドコモショップもあるようだ

    ahamoはドコモショップ店頭では受け付けないが、ahamoの先行相談会を行うドコモショップもあるようだ

でも、これは通信事業者ならではのデジタルトランスフォーメーションではないだろうか。加入回線数が頭打ちになることがわかった時点で、各社、通信事業は他のサービスを売るための手段にすぎないという方針をとってきた。その典型が各社のペイメントサービスだし、コンテンツサービスだ。いわゆるライフスタイル領域と呼ばれるカテゴリーだ。

つまり、金融と出版/放送的な事業を柱とする転換に努めながら現在に至っている。早い話が、やっていることは、郊外のショッピングセンターに最寄り駅から無料シャトルバスを走らせるようなサービスとあまり変わらない。

MVNOも破壊力のあるプランで対抗

MNOであるドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが低価格を追求する中で、価格の安さをセールスポイントにしてきたMVNOの方向性が懸念されてきたが、IIJmioが新しいプランを発表した。MNO各社の格安サービスと同等の音声付きの20GBプランの場合は2,068円(税込)だ。

ただしこの価格には無料音声通話などが含まれない。KDDIの同等サービスともいえるpovoが無料音声通話を含まずに2,728円(税込)なので、それと比較すると差額は約700円となる。25%引きは大きいかもしれないが、700円の差額で、昼間の混雑時に起こるパケ詰まりをガマンするくらいならMNOにしておこうという気持ちになりそうな金額だ。

もっともこれは、各MNOの新サービスが、既存サービスと本当に同等の品質であることが前提であり、こればかりは本当にサービスが始まったあと試してみないとわからない。

結局、MNOは政府に振り回され、MVNOはMNOに振り回され、消費者はその渦中で混乱に陥る。もしかしたら通信事業面での投資が削減されることで、各社の研究開発費もあおりを受けて、10年後に得られるはずだったモバイルネットワーク体験が、陳腐なものになってしまう可能性だってあるかもしれないのだ。

さらに、この騒ぎをまったく知らない消費者も存在する。当たり前のように高額な通話料金を支払い続けている層もいるはずだ。その層は、通話の料金が基本的には30秒あたり20円もかかるのだということを知らないかもしれない。

リアルな物をDXするのは難しい

そしてみずほ銀行のATMは障害を起こし、この原稿を書いている3月1日午前中現在でも、まだ完全な復旧には至っていない。ステータスは「ほぼ復旧」であり、商業施設などのATMが未稼働の状態が続いている。2月28日が月末で日曜日だったために、3月1日の月曜日は月末日と月初日を兼ねる。その究極の処理を担うタイミングということで社会的にも大混乱だ。

このデジタルの時代に、現金を扱うATM障害というのが皮肉だ。かたや20GBもの個人のデータ伝送に関わる騒ぎであり、かたやカネというリアルな物体のトランザクション処理に関わる騒ぎである。

銀行もまた、リアルなカネをどうデジタルトランスフォーメーションするかを懸命に考えているわけだが、どうしてもそこから逃れることはできない。同様に、通信会社が、かつて音声伝送をデータ伝送にトランスフォーメーションしたときのように、リアルなデータ伝送事業をフェードアウトさせて、まったく新しい業態にトランスフォーメーションするのも難しい。

多デバイスで使えるサービスの安心感

もうすぐ3月11日がやってくる。ちょうど10年前に東日本大震災があった日だ。その当時、現在の4G LTE通信サービスは、前年暮れに始まったばかりでエリアは虫食いも同然で、2011年3月時点でのエリアは人口カバー率が1割にも満たなかった状況だった。個人的に愛用のスマホもまだLTE対応ではなかった。

震災のあった3月11日の午後、ちょうど新宿駅周辺で買い物を終えて帰途につこうとしていたときにあの地震が起こった。電話をかけようにもまったくつながらない。でもTwitterは普通に使えて情報収集に役立ったし、IP電話サービスもすんなり使えた。当時思ったのは、端末や電話番号に依存しないコミュニケーションサービスの重要さだ。端末のバッテリーが切れても、たとえ壊れても別の端末でコミュニケーションを継続できることの素晴らしさは何よりも安心だ。

今、コロナ禍で、緊急事態宣言下では日本への新規入国が停止されているが、解除されても日本に入国するにはLINEアプリをスマホにインストールすることが必須とされているそうだ。ご存じの通り、LINEは端末に依存し、併行して複数端末で利用したり、機種変更時のデータ移行が著しく困難だ。あれから10年もたつのに、そんなことさえできないアプリに頼らなくてはならない政府。その政府にふりまわされる通信事業者。本当に、この国は大丈夫なんだろうか。