インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は2月24日、同社の個人向けMVNO事業「IIJmio」において、自由度が高い新しい音声通話付きプラン「IIJmioモバイルサービス ギガプラン」を4月1日に開始すると発表した。料金は2Gプランが月額780円から利用可能で、5Gの利用も無料オプションとして提供される。

  • IIJの新プラン「IIJmioモバイルサービス ギガプラン」

同社役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏は、ギガプラン導入の背景として、2020年度のIIJのモバイル事業において、全体としては好調なものの、法人需要が伸びる一方で、新型コロナウイルスの影響による外国人向け回線事業の大幅減など、個人向け事業であるIIJmioが低迷したことを挙げ、ギガプランの導入により個人向け事業を活性化し、法人向けとの両輪で更なる成長を目指すとした。

  • IIJ役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏

続いて、IIJのMVNO事業部コンシューマサービス部長である亀井正浩氏より、ギガプランの概要について説明が行われた。料金プランの詳細については別記事を参照していただきたいが、IIJmioのステートメントである「自分たちが使いたいと思うサービス」「シンプルであること」「自由度が高いこと」を重視して開発したサービスであるという。結果として、音声付き、SMS+データ通信、データ通信のみ、eSIM(データ通信のみ)と4種類の回線種別向けに、それぞれ2GB/4GB/8GB/15GB/20GBと5段階の容量が設定されている。データ容量を使い切った場合は1GBあたり200円で購入できるほか、そのままでも通信速度300kbpsで利用を続けられる。

  • 「自分たちが使いたくなるサービスの提供にこだわった」と語る亀井氏

通話定額はオプションとなるが、20GBの音声付きプランで1,880円(税別)と、三大キャリアのプランと比べて約30%以上安くなる。また、通話定額オプション(通話10分かけ放題)を組み合わせても2,793円(税込)と、こちらもキャリアを下回る価格を実現している。さらに6月からは、余ったデータ容量は翌月に繰り越せる「翌月繰り越し」や、同一契約内で回線の容量を合計して共有できる「データシェア」、5G回線の利用(対応端末のみ)などが可能になる。

  • 複数の回線種別でも組み合わせてデータシェアが行える。特にeSIMがデータシェア対象になったのが特徴のひとつといえる

既存のIIJmioユーザーは、「ミニマムスタートプラン」「ファミリーシェア」「ライトスタート」「ケータイ」「6ギガ eSIMベータ版(ライトスタートプラン)」からギガプランへ、手数料無料でプラン変更が可能(4月1日に申し込んだ場合、最短で5月1日から変更)。

また、家族割りや複数回線割引といった複雑な割引設定がなく、期間限定の割引もなし。MNP転出料や複数年縛り、契約解除金もないという、キャリアと比べていつでも契約しやすく、解約もしやすいという点も一つの売りと言えるだろう。

  • シンプルに徹した契約でわかりやすさを重視している

果たしてMVNOの将来は大丈夫なのか?

IIJmioのギガプラン自体は、キャリアと比べても低コストであると同時に、サービスの組み合わせ方などの柔軟性が高く、非常に魅力的なサービスに仕上がっている。MNOの2,980円プランが基本的にネット契約専門であるのに対し、ギガプランではビックカメラなど、大手量販店の店頭で契約できるのも、初心者向けの大きなウリになるだろう。

MVNO最大手であるIIJmioからキャリアに対抗するに十分な魅力を持った低価格プランが登場し、いよいよ通信料金の低廉化も第二ステージに入ったという感が強いのだが、個人的にはこの現状があまり健全なものに見えてこない。

安倍前政権での官房長官在任時から、菅総理大臣は携帯電話料金の低減を三大キャリアに強く要求し続けてきた。結果としてドコモの「ahamo」をはじめとする「20GB・2,980円」を基準とする低価格プランが登場するに至った。いちユーザーとして見た場合、通信コストの低減は歓迎できるのだが、長年この業界に関わってきたライターとしては、低価格化という結果ばかりを追いかけて、政策としては拙速だったのでは、という印象が拭えないのだ。

というのも、本来、IIJmioをはじめとするMVNOは、MNOキャリアがカバーしにくい形態の事業や、低価格でのサービスを可能とするものとして登場したはずだった。ならば、特に5Gへの移行で設備投資が必要なキャリアの値下げはキャリアの裁量に任せ、低価格路線のサービスはMVNOに任せたほうが、政策の継続性という意味でも筋が通るはずだ。

しかし、ここしばらくの政府や総務省の動きを見ていると、MNOが2,980円サービスを発表した後に、MVNO事業者が作る業界団体であるテレコムサービス協会の要望書に応えるかたちで、MNOのデータ接続量/音声卸料金の低廉化や、イコールフッティング(条件の同一化)を指示したのが、ようやく今年2月に入ってから。これではキャリアの値下げにばかり力を入れ、MVNOの役割を軽視しているように見える。

実際、ギガプラン発表会での質疑応答では、従来プランからの値下げの原資についての質問が出たが、MNOからの卸価格が下がった結果ではなく、さまざまな情報収集をする中で、将来についてある程度予見できる範囲での価格設定になったということだった。もちろん根拠はあるのだろうが、不要なリスクを負うことになっており、健全とは言い難い気がする。

数字目標も大事だが、仕組みの部分から丁寧に動かしていかないと、どこかで取り返しのつかない歪みが出てきてしまいかねない。政府や総務省には、そのあたりをしっかりと理解した上で政策を練っていただきたい。そうでなければ、結果として一番振り回されるのは立場の弱いMVNOとそのユーザーということになってしまうからだ。