熊本市と日本マイクロソフトが共同記者会見を開催し、デジタルトランスフォーメーションによる市職員と教職員約12,500名の働き方改革推進で連携することを表明した。「クラウドソリューションを活用した働き方改革基盤構築プロジェクト」を開始、具体的にはMicrosoft 365の導入により熊本地震からの復興を加速し「新しい熊本市」の創造に取り組むという。

  • 会見には熊本市のイメージキャラクター、ひごまるも登場した

熊本地震で避難所と役所の情報連携をサポート

2016年4月に発生した熊本地震の際、日本マイクロソフトは当時250カ所以上あった避難所と、物資拠点のために、Office 365とSurfaceを熊本市に提供することで、職員と役所の間の円滑な情報連携をサポートした。パートナー企業やNPOとの協力のもと、「くまもとRねっと」(Restoration[復旧] & Reconstruction[復興])を構築し、東日本震災で培ったノウハウを熊本市に紹介するという支援を行ったのだが、それが今回の連携のきっかけともいえる。

熊本市長の大西一史氏は、「どうせやらなければならないことは、とにかく早く取り組むのがいい。それを決断するかどうかはトップの判断力にかかっている。早い方がいいというのは震災のときに痛感した」という。

大西市長は、震災時を振り返り、当時、避難所や役所との連絡がどうしてもうまくいかなかったときに、日本マイクロソフトからクラウドサービスとデバイスを支援してもらったことで、身をもって震災のクラウドによる復旧を体験できたという。

  • 日本マイクロソフトの平野拓也社長と握手を交わす熊本市長の大西一史氏

うまい具合に、来年は、庁内システム再構築のタイミングでもあったことで、Microsoft 365をフル装備し、自治体での働き方も大きく変えていくことを決断できたという。AIを使った個々人への働き方のアドバイス、行動分析など、エビデンスに基づいてレポートするなど、その効果に期待する。行政の生産性を向上させながら被災者の役に立ちたいと、大西市長は興奮を隠さない。

仕組みも意識も、ハードルが高い大変革

今回の連携で、インフラやハコ的な要素としての道具立てが決まった。だが、それをフル活用するためには、アプリケーションソフトウェアを用意し、さらには、市職員そして教職員の意識の改革が必要になる。もちろん、仕事の仕組みも変える必要があるだろう。

あらゆるものを電子化し、AIを含む最新技術の活用を前提にし、さらにはビッグデータで労働状況を可視化していくという、先端企業でも難しいチャレンジに、行政組織が取り組もうとしているというのだから半信半疑になってしまう。それに自治体におけるネットワーク分離の問題もからんでくるだろう。

住民の問い合わせにSkypeのTV会議で回答する市職員というのはどうにも想像しにくいわけだ。それは教職員も同じで、紛失にビクビクしながらUSBメモリを自宅に持ち帰って通知表に点数を記入している教職員が、クラウド利用でいつでもどこでも仕事ができるというのも想像が難しい。

今後5年で導入へ。大きな前例になるかどうか

約50億円の投資となる今回の連携だが、大西市長はほぼ5年で今描いている構想を本番環境として動くようにすると宣言する。動き始めれば早いと大西市長はいうが、そうカンタンにコトが運ぶのだろうか。それでも大西市長は楽観的だ。被災からの復興はスピードが命であることを体で理解しているからだという。

マイクロソフトが全面的に支援することで熊本市の技術的な負担が軽減されるとはいえ、生半可なことでは実現できない構想だ。全国の自治体に先駆けてこうした構想を現実のものにできるのなら、それは大きな前例となるだろう。「前例がない」という常套句が言い訳にならないようにするためにも、がんばってほしいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)