総務省情報通信審議会の地上デジタル放送推進に関する検討委員会第49回に提出された「米国アナログ放送終了調査報告」から、前回は人種によって地デジ対応にばらつきがあることを紹介した。しかし、地デジ対応にばらつきがあるのは人種だけではない。年齢によっても大きな差があるのだ。

若者世代のテレビ離れ傾向が明らかに

ニールセンの調査によると、35歳以下の世帯では現在でも1.4%が地デジに未対応のままだ。米国全体の平均が0.6%、前回ご紹介したアフリカ系米国人1.0%、ヒスパニック系米国人1.3%と比べても高い。一方で、65歳以上の世帯では0.2%となっており、極めて小さな数字だ。この世代による地デジ対応の違いは、日本でももっとクローズアップされるべきだ。日本では「機械に弱いお年寄りが地デジ難民になりがちだ」とあちこちでいわれるが、現実はかなり違うように思う。一般的なお年寄りは、資産ももっていて年金も十分ではないかもしれないが、生活の不安があるほどでもない。しかも、テレビは生活の中で大きな楽しみのひとつとなっているで、意外に早く地デジ化をすませている。確かに機械やデジタルは苦手な人は多いが、それだけにアンテナ改修から配線までを業者に頼んでしまうので、逆に設定などの問題が起きづらい。

若い世代が地デジに無関心な理由は明らかだろう。インターネットだ。日本ではYouTubeばかりが取りあげられ、YouTubeを楽しむ人たちも多いと思うが、テレビにとって直接のライバルである画像共有サイトはHulu.comだ。アクセス数はYouTubeに続く第2位だが、NBC、FOX、ABCの合弁で立ちあげられたサイトで、動画はテレビ局や映画会社が提供している。今年の春にはウォルト・ディズニーがHuluに参加する表明をして大きな話題となっている。

どんなサイトかといえば、一言でいえば、テレビで放送されたドラマなどの番組や映画をオンデマンドで見られるサイトだ。しかも無料だ。日本のGyaoと同じように広告で収益をあげている。Gyaoは映像を集めるのになかなか苦労があるようで、アジアドラマやアニメ番組といったいわばニッチな市場を狙って成功しているが、Hulu.comの方は主立ったテレビ局が運営しているので、王道の番組がずらりと並んでいる。日本で放送されているような有名な海外ドラマはほとんど見られるようになっているのだ。各エピソードが再生できる他、名場面集や制作者インタビューなどもあり、当然、利用者がレビューを書き込んだり議論したりできる掲示板も用意されている。Hulu.comを知ってしまうと、テレビなどいらないと考えるのも自然なことのように思えてくる。

さらに、ラジオや音楽もインターネット経由なら無料で楽しめることは読者のみなさんもよくご存知だろう。米国のほとんどのラジオ局はインターネットでもオンデマンド放送をしているし、Last.fmでは、自分の好きな音楽が無料で再生できる。インターネットなら、映画もテレビも無料で手軽に見ることができ、ラジオも音楽も無料で聴くことができる。それなのに、テレビしか見れないのに、なぜ高価なデジタルテレビを買い、アンテナを交換しなければならないのだろうか。投下する費用対効果が低すぎるのである。もちろん、Hulu.comでもリアルタイムで番組が見られるわけではないし、すべての番組が放映されているわけではない。しかし、朝から晩までテレビの前で寝転がっている人ならともかく、自分の見たい番組だけを見ればいい、1日2時間も見ればテレビはじゅうぶんと考える人にとってはHulu.comでじゅうぶんすぎるほどのコンテンツが揃っている。

日本では地デジ難民というと、お年寄り、低所得者などがすぐに頭に浮かぶが、実は若者の中の「見れないなら見れないでいいや」と考える人たちをどうテレビに引き込むかを考えないと、コンテンツビジネス自体が成り立っていかなくなるのではないだろうか。今の若者は非常に倹約家で、余計な消費をしないといわれている。テレビとは10代と20代が大のお客様で、テレビで紹介された若者向けグッズは飛ぶように売れるというのが本来の姿だったはずだ。節約家である若者も、携帯電話のパケット定額やインターネットの光回線料などには惜しげもなく料金を支払っている。もし、米国と同じように「若者の地デジ離れ」が日本のアナログ停波でも見られるようなら、さまざまなコンテンツビジネスと広告のあり方は根本から見直しを迫られることになる。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

米国ではもっとも地デジに対応していないのが35歳以下の世帯。一方で55歳以上はほぼ全世帯が地デジに対応したといってもいいほどだ。地デジ難民というとすぐに「高齢者」といわれるが、日本でもほんとうの地デジ難民は若者世代になるのではないだろうか

若者の地デジ未対応率は米国の平均(青線)に比べても非常に高い。若者世代のテレビ離れは確実に進んでいるようだ

Hulu.comのページ。日本でもおなじみのドラマが、CMつきだが無料でまるごと見られる。ただじ、残念なことに米国外からのアクセスでは、動画の再生ができないようになっている

Last.fmやMy Spaceなどの音楽系SNSもすっかり定着している。音楽を無料で楽しむことができ、もちろんCDで販売されているような曲はほとんど揃っている。インターネットに親しんでいる若い世代にとって、テレビ番組、映画、音楽、ラジオといったメディアは無料なのがあたり前になっているのだ。パソコンがあればOKで、わざわざテレビやラジオといった専用機器を買い、放送局の時間に合せなければならないことを不可解に感じていることだろう