Crayもサポートしていない先進機能を搭載
F230-75 APUの浮動小数点乗算器のWallace Treeの部分には多数のキャリーセーブアダーが必要であるので、この部分を小型化するためにNTLの100ゲートのLSIを開発して使用した。
しかし、信号振幅がECLの半分の400mV程度と小さく、明確なしきい値を持たないNTLはノイズマージンを確保するのが難しかったため、その後の製品に使われることはなかった。
ちなみにF230-75 CPUとAPUはメインメモリを共有するヘテロマルチプロセサシステムを構成していた。
APUを接続したF230-75システムではCPUはF230-75をそのまま使い、それにメモリ制御装置MCU IIを介してAPUを接続する構造となっている。APU付きのシステムでは、APUに大量のデータを高速に供給する必要があるので、メモリは32Wayのインタリーブが施されていた。
F230-75は36bitを1語とするマシンで、APUの浮動小数点数は36bitであり、語長は現在の32bitの単精度浮動小数点数より少し長かった。また、APUでは、倍精度、4倍精度の高精度の演算もサポートされていた。
F230-75 APUは8語の命令バッファと1792語のベクタレジスタを持ち、CPUからベクタレジスタに書き込まれたデータを使って、命令バッファに書き込まれた命令を順次実行する。
F230-75APUは、連続アドレスに格納されたベクタの処理だけでなく、一定のストライドを持つベクタのアクセスや、ランダムなアドレスに格納されたベクタのスキャッタ、ギャザー処理を行う機能をもっていた。これらの機能は、今日のベクタ処理では一般的になっているが、1977年当時は、Crayもサポートしていない先進的な機能であった。
ソフトウェアとしては、F230-75のオペレーティングシステム「MONITOR VII」にAPUモニタと呼ばれる機能が追加され、ヘテロマルチシステムを運用できるようにした。また、「AP-FORTRAN」というFORTRAN拡張コンパイラを開発し、ベクタ演算を記述する機能をもたせた。
FACOM 230-75 APUは2台製造され、1台は共同開発を行った航空技術研究所、もう1台は、日本原子力研究所 東海研究所で運用された。
FACOM230-75 APUはCray-1から1年という短い遅れで市場に出た。また、富士通としての初めてのスパコンであり、Crayとは経験値の差が大きいので、やむを得ないところであるが、その性能は22MFlopsとCray-1の160MFlopsと比べると見劣りする。とは言え、F230-75 CPUで計算するのと比べると5~10倍速く、科学技術計算には威力を発揮した。
(次回は3月29日の掲載予定です)