5G(第5世代移動通信システム)の仕様の草案(3GPP Release 15)が完成したことで、ワイヤレス分野のリーダーらは大きなマイルストーンに到達することができました。

しかし、5Gを広範に普及させるためには、解決しなければならない課題が山積みです。そうした課題の1つとしては、世界中の各国/地域でどの周波数帯を使用するのかということが挙げられます。より正確に言えば、使用する周波数帯についてどのようにして世界中で協調を図るのかということです。

では、なぜそうした協調が重要なのでしょうか。それは、世界中で可能な限り共通の周波数帯を使えるようになれば、限られた開発リソースを特定の周波数帯に集中させ、開発を効率化できるとともに、規模の経済性がはたらき、5Gの迅速な普及が期待できるからです。周波数帯について国際的な協調が成されていれば、最小限のコストでさまざまな地域のネットワークに容易に接続できるようになります。国際ローミングについての負担を軽減しつつ、規模の経済を実現できるということです。すなわち、端末やサービスもより安価になり、企業や消費者にとって5Gがより身近なものになります。

国際電気通信連合(ITU)は世界無線通信会議(WRC)を主催し、通信に使用する周波数帯を含むさまざまな事柄に関する規制について国際協調が進むよう取り組んでいます。2015年に開かれたWRC「WRC-15」では、複数のミリ波帯が5Gに割り当てられました。興味深いことに、WRC-15では、米国、日本、韓国が5Gのトライアルで対象とした28GHz周辺の帯域が除外されました。元来、各国はそれぞれの法律や規制に基づいて周波数帯を割り当てる権利を有していますが、ITUが掲げる国際協調の枠組みから逸脱することにはリスクがあります。上記の米国、日本、韓国の場合、政府機関や企業は、極めて大きな機会獲得に向けて、少なくとも初期の段階では協調を待つことなく前進することを選択したのだろうと推測できます。このような選択には、リスクとメリットのトレードオフが伴います。

この種のネットワークサービスを「初めて」提供することには、大きなメリットがあります。そうした早期の実装は世界中に認知されるでしょう。そして、その国は技術リーダーとして認識され、その経済効果は国のGDPの成長というかたちで現れるはずです。米国、日本、韓国は、携帯電話の加入者数と無線ブロードバンドの普及率が非常に高い国です。そのため、限定的ではあるものの、規模の経済を実現することができます。その一方で、ミリ波を利用する移動通信についてはまだ解決されていない問題が残っており、リスクが存在する状態にあります。

5G NR(New Radio)において6GHz以下の周波数帯を使用するケースについては、ミリ波帯よりも楽観視されています。図1に示すように、使用する周波数帯については国際的な協調が働くことが、より現実的に期待できます。n77とn78の帯域は、かなり多くの国/地域で共通して使用されます。5Gの実装は、まず6GHz以下の帯域から行われることに間違いはありません。従来の4G/LTEの周波数帯から6GHz以下の5G NRへの移行は、徐々に進むと見られています。5Gの中でも、このレベルの技術であれば、半導体やインフラを含めた5Gのエコシステムによって、国際協調を進めつつ短期間で開発できるはずです。

NRで
使われる
周波数帯
アップリンク(UL)の周波数帯
基地局が受信
ユーザ端末が送信
FUL\_low~FUL_high
ダウンリンク(DL)の周波数帯
基地局が送信
ユーザ端末が受信
FDL\_low~FDL_high
双方向モード 地域
n1 1920MHz~1980MHz 2110MHz~2170MHz FDD 中国
n2 1850MHz~1910MHz 1930MHz~1990MHz FDD
n3 1710MHz~1785MHz 1805MHz~1880MHz FDD 中国
n5
n7
n8
824MHz~849MHz
2500MHz~2570MHz
880MHz~915
869MHz~894MHz
2620MHz~2690MHz
925MHz~960MHz
FDD
FDD
FDD

台湾
中国
n20 832MHz~862MHz 791MHz~821MHz FDD フランス
n28 703MHz~748MHz 758MHz~803MHz FDD 欧州
n38 2570MHz~2620MHz 2570MHz~2620MHz TDD
n41 2496MHz~2690MHz 2496MHz~2690MHz TDD 米国
中国
n50 1432MHz~1517MHz 1432MHz~1517MHz TDD
n51 1427MHz~1432MHz 1427MHz~1432MHz TDD UAE
n66 1710MHz~1780MHz 2110MHz~2200MHz FDD 米国
n70 1695MHz~1710MHz 1995MHz~2020MHz FDD
n71 663MHz~698MHz 617MHz~652MHz FDD
n74 1427MHz~1470MHz 1475MHz~1518MHz FDD
n75 N/A 1432MHz~1517MHz SDL
n76 N/A 1427MHz~1432MHz SDL
n77 3300MHz~4200MHz 3300MHz~4200MHz TDD 日本
中国
韓国
欧州
米国
n78 3300MHz~3800MHz 3300MHz~3800MHz TDD 欧州
米国
中国
韓国
n79 4400MHz~5000MHz 4400MHz~5000MHz TDD 日本
中国
n80 1710MHz~1785MHz N/A SUL 中国
n81 880MHz~915MHz N/A SUL 中国
n82 832MHz~862MHz N/A SUL フランス
n83 703MHz~748MHz N/A SUL 欧州
n84 1920MHz~1980MHz N/A SUL 中国
図1. 3GPP Release 15における6 GHz以下の対象周波数帯。画像で見る場合は「コチラ」

ミリ波は、無線通信に対して新たな課題をもたらします。図2を見ると、おそらく37GHz~40GHz帯へ収束させることが、国際協調の目標になると考えられます。一方、米国、日本、韓国によって行われた5G向けミリ波通信の試行実験に関する公開情報からは、28GHz帯での初期実装に向けて気運が高まっていることがうかがえます。それらの実装が実現されれば、世界中の注目が集まることは間違いないでしょう。

  • 3GPP Release 15における6GHz以上の対象周波数帯

    図2. 3GPP Release 15における6GHz以上の対象周波数帯。縦軸は、上から「3GPP:SIで議論」、「3GPP:定義済み」、「韓国」、「日本で議論されているreq.s」、「中国」、「米国FCC 5G」、「欧州5G Pion.」、「WRC-19に向けた展望」。横軸は「周波数(GHz)」

著者プロフィール

James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ

今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2018年2月20日に掲載)を邦訳したものです