10月7日、米Intelの最高技術責任者(CTO)であるプシュカー・ラナーデ(Pushkar Ranade)氏が来日し、取材に応じた。AI半導体や量子コンピューティングをはじめとする同社の最新技術について話したほか、ここにきて注目される「AI開発を減速させるべき」という議論について、ラナーデ氏は「同意できない」という見解を示した。
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プシュカー・ラナーデ氏。トランジスタ開発のエンジニアからキャリアをスタートし、技術リーダーシップ職を歴任してきたベテランで、現在の肩書はChief Technology Officer and Chief of Staff to CEO。CEO直属として、Intelの技術開発の舵取りを担っている
AIが人類を滅ぼす? IntelはAI開発の推進を望む
昨今、AIの著名な研究者らが、「AI減速論」を訴えはじめ、これにAnthropicやOpenAIといったAI開発の世界的な中心企業のCEOまでもが同調したことで、国家戦略にも影響する規模での議論が巻き起こっている。AIの性能向上があまりにも急激に進んでおり、このままだと人類にとって未知の脅威を生み出しかねない、極端に言えば「AIが人類を滅ぼす」可能性すらあるという危機感が、この議論の背景にある。
この、AIの潜在的な危険性のために、AI開発を減速すべきだという意見について、ラナーデ氏は「同意しない」と述べた。
同氏はその言葉の意味について、「我々は、"責任あるAI"を強く支持している。つまり、AIプラットフォームを構築するすべての企業が、自ら作り出しているものに対して責任を負うべきということだ。だから、AIそのものを危険なものだと言うのは、少々公平ではないと考えている。AIというものは、人がそれをどう作り、どう使うのか次第だ。その意味で、結局のところAIは人のコントロール下にあると我々は考えている」と説明する。
Intelは、責任あるAIの考えのもと、AIの構築を継続し、AIを進化させるようなコンピューティング・プラットフォームを作り続けることを強く支持していると話した。
また、Intel社内でのAI活用についても言及した。今年7月、IntelはGoogleと提携し、AIで業務効率に変革を起こすとして、世界中のIntel従業員向けに生成AIプラットフォーム「Gemini Enterprise」を導入している。活用はまだ初期段階だというが、財務や法務などの管理部門の生産性向上に貢献があったとするほか、自社の半導体工場や製品開発へのAI適用も進めているところだという。
半導体工場の生産性向上では、今年6月に日立製作所と協業を発表しており、AIによる設備の予知保全で協力。フィジカルAIによるロボットの工場配置も進めているという。開発に関しても、チップ設計において、機械学習を活用したEDA(電子設計自動化)の使用を開始しており、開発期間の大幅な短縮に取り組んでいることを紹介した。機械学習を活用したチップ設計は、今後1~2年という近い将来のうちに、大幅に増やすことになるだろうという予想も示した。
既存の半導体製造技術で量子チップの量産目指す
ラナーデ氏は、現在Intelが取り組んでいる最新技術の開発状況や展望について、注目すべきいくつかの項目を紹介した。
Intelは量子コンピューティングに10年以上前から取り組んでおり、現在は主に既存の半導体製造技術を応用した「シリコンスピン方式」の量子コンピュータの研究開発を行っている。今年7月には、日本の産総研、日立製作所と連携して行う、半導体プロセス技術「Intel 18A」を使った100量子ビット・シリコン量子コンピュータ向けチップの研究開発が、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業に採択されている。ラナーデ氏は「Intelは、量子コンピューティングでより多くの日本企業と提携することを目指している」とも付け加えている。
ラナーデ氏は、既存の半導体量産プロセスを前提としたこのシリコン量子コンピュータのメリットとして、迅速な立ち上げと、大量生産への対応可能性がある点を挙げる。量子コンピュータのハードウェア方式には、超伝導、イオントラップ、フォトニクスなどいくつかの有力なアプローチがあるが、Intelのシリコンスピン方式は、既存のシリコン半導体の製造技術を活用できる唯一のアプローチだと説明する。
Intel 18Aは、現在Intelの主力となっている1.8nmクラスの先端半導体製造技術で、既に量産を開始しており、例えばパソコン向け半導体チップ「Core Ultra」などでも使われている。Intel 18Aとは製造設備に「ほんの2~3か所程度」の違いはあるというが、Intel 18Aの製造技術(と製造設備)をほぼ流用して、つまり現に工場が大規模稼働中であるところで製造できることから、「新たな設備、工場を必要としない」こと、「需要が発生した際に、量子チップの生産を迅速に拡大できる」ことが、この量子チップの強みとなる。
なおラナーデ氏は、量子コンピューティングが従来のコンピューティングに取って代わるものなのかと言うと、そうではなく、従来のコンピュータと量子コンピュータがさまざまな目的のために連携するハイブリッドなコンピューティングモデルを想定していると話している。
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量子コンピュータはまだ遠い未来のモノというイメージがあるが、Intelは、量子ビットなどの回路が構築された、Intel 18Aで製造したというシリコン量子チップのテスト製造ウェハを既に公開している(が、現時点ではウェハ実物の撮影は禁止であったので遠巻きから)
新技術の展望としては、AIや量子のほかにも、ニューロモーフィックコンピューティング、シリコンフォトニクス、ガラス基板やダイヤモンド半導体といった半導体の素材革新への言及もあった。
ニューロモーフィックコンピューティングとは、コンピュータチップの回路で、人間の脳の機能を模倣しようとするものだ。Intelでは、この取り組みでチップアーキテクチャとソフトウェアスタックを変更することで、チップの消費電力を劇的に削減することを目指しているという。どういうことかというと、従来のチップは固定されたクロックサイクルを持つ同期回路なのだが、必要な時にのみ要素がスイッチONされる非同期の脳のような動作をすることで、電力削減が可能になるというものだそうだ。ラナーデ氏は「データセンターの隣に発電所が必要になるように見える状況は、長期的には持続不可能」だとし、この技術に取り組んでいることを説明した。
シリコンフォトニクスはIntelが長年取り組んでいる開発テーマだ。チップ間およびラック間の接続を改善するためのソリューションを開発し続けており、現在、光トランシーバや光スイッチなどの光モジュールを製造している。ラナーデ氏は、直近ではチップ間の接続が、パッケージ内、ボード上、ラック間、データセンター間において大きなボトルネックになりつつあることを指摘し、チップのインターコネクトを銅から光技術へ移行させることに技術開発の焦点が移っていることを紹介した。同様のフィールドでは、NTTがIOWNで技術開発を進めており、またIntelとNTTは光半導体の共同研究で提携もしている。今後、シリコンフォトニクスも特に動向を注視すべき分野のひとつだろう。