Playstation 5(PS5)、Xbox Series X|S、PC(Steam)向けに3月28日に発売されたハードコアアクションRPG『The First Berserker: Khazan』は、老舗オンラインゲーム『アラド戦記』から派生した完全新規タイトル。NEXONとNeopleが開発を手がける。
世界観は共通するものの、本作は『アラド戦記』とは全く異なる硬派なアクション。シリーズに馴染みのないプレイヤーでも楽しめるつくりだ。
今回、レビューコードをいただいたので、クリアレビューをお届け。難易度はノーマルで、プレイ時間は55時間。いわゆる“死にゲー”だがストレスなく中毒性のあるアクションに集中できる、魅力的な一作だった。
敵のターン……と見せかけて俺のターン!
主人公は『アラド戦記』世界に語り継がれる鬼剣士の祖・カザン。なぜ鬼剣士の祖なのか。その経緯の一端が描かれる。ストーリーについてはあとで触れるが、筆者のように『アラド戦記』をまったく知らないプレイヤーでも問題ない。シリーズファンしかわからないようなキャラクターや用語はほとんどなく、本作で完結する1本として楽しめる。
システムの大枠はいわゆる“ソウルライク”の高難易度アクション。デストラップや底意地の悪い敵の配置が特徴的なステージを突き進み、敵から得た「ラクリーマ」と呼ばれる経験値を糧に自己強化しながら、歯ごたえ抜群のボスに立ち向かう。
最大の魅力はなんといってもアクションの手触り。移動も攻撃も“もっさり感”ゼロで、本記事のスクリーンショットのために動画をコマ送りしても、残像とブレのエフェクトだらけで使える画像を探すのが大変だった。それぐらいスピード感がある。
特にボス戦が楽しい。何度も死ぬ難しさはあるが、ヒリつく緊張感より動かしていて「気持ちいい!」が前に出る。なぜなら敵の猛攻をしのぎながらかすかなリターンを少しずつ積み重ねて……というアクションではなく、敵の行動すらも常にこちらのリターンだからだ。どういうことか。
主人公が攻撃・回避・防御といった主要なアクションを行う際には気力(スタミナ)を消費する。このスタミナ、敵にも設定されていて、カザンも敵もスタミナが切れるタイミングで攻撃を当てられると「脱力状態」となる。
脱力状態では被ダメージ量が上がるのに加えて、一定時間動けなくなる。つまり、生命力(HP)だけではなく、スタミナの奪い合いもまた勝負のカギを握る。
ただし、敵には性質が異なる2種類のスタミナが設定されている。人型タイプの多くは、カザンと同じ性質のスタミナ。カザンと同じように攻撃を仕掛けながらスタミナを消費する。相手の連撃をしのげれば反転攻勢。あっさり脱力状態を狙える。ただし、カザン同様に時間経過で回復してしまうので、うまくタイミングをつけなければスタミナを尽きさせるのは難しい。
一方、大型の怪物などには気力ではなく“怪力”というスタミナが設定されている。こちらはなんらかのアクションをとっても消費されることがない。その代わりに自然回復することもない。怪力を削るには腰を据えた立ち回りが求められる。
どちらも肝となるのは、カザンのスタミナを維持しながら相手のスタミナをどう奪うか、という点。ここに幅広い攻略が用意されているのが本作の魅力だ。もちろん攻撃を当てることでもスタミナは奪えるが、それ以上に防御面のリターンの豊富さが、戦闘の楽しさをブーストしてくれる。
本作の防御手段は種類が多い。基本の防御はガード、回避の2種類。敵の攻撃にタイミングよく合わせることでジャストガード、ジャスト回避が発生する。さらにリフレクション(パリィ)と、カウンターアタックという返し技もある。名前を並べただけではなんのことやらだが、それぞれ異なる役割がある。
軸になるのはジャストガード、ジャスト回避。通常のガードや回避と異なり気力を消費せず、条件によっては相手へのダメージや闘志ゲージの回復といった追加のリターンが得られる。
そう、ジャストガードやジャスト回避を決めているだけで、相手は勝手に消耗していく。相手の攻撃行動中も常にリターンを狙えるのだ。
さらに大きなリターンを狙える“攻めの防御”がカウンターアタックとリフレクション。カウンターアタックは敵の大技「バーストアタック」のみ返せるアクションで、スタミナを全回復(!)しながら相手にダメージを与えられる。リフレクションはいわゆるジャストパリィで、カウンターアタックよりも多様な攻撃を返すことができ、相手のスタミナをごっそり削る。
つまり本作では敵の行動パターンを覚えるためにひたすらコロリン回避を続ける攻略は必要ない。巨大モンスターの股ぐらに潜り込んでケツをしばき続ける行動が最適解になることもない。なぜなら敵の攻撃と真剣に向き合って、何らかのジャスト行動で対応するほうが、プレイヤーに有利になるように設計されているからだ。
ジャストガードで対処していた攻撃を回避に変えるだけで別ゲーのように楽になる、ということもよくある。この使い分けの判断を、手数の激しいボス戦では高速で処理する。楽しいんだ、これが。
もちろん攻撃の爽快さも本作の魅力を語るうえでは欠かせない。カザンは闘志ゲージを消費することで様々なスキルを撃てる。複数のスキルをつなぎながらコンボのように攻撃を組み合わせることも可能だ。
また、敵を脱力状態に追い込むと、ブルータルアタック(致命の一撃)という特殊演出の入る攻撃を決めることができる。敵を脱力させたご褒美にもらえる、フィニッシュムーブのような位置づけだ。
ブルータルアタックそのもののダメージはあまり大きくない。だがそれがいい。相手のスタミナが回復するまでに、ダメージ重視か、その後の状況重視か、スキルやコンボ選択の余地が生まれる。ここでも攻略の幅が生まれるのだ。
武器は刀斧、大剣、槍の3種類。手数は刀斧、一撃なら大剣、スタミナ削りや回避重視なら槍といったように、どの武器も強みがはっきりしているが、本領が発揮されるのはスキルツリーを解放してからだ。
スキルツリーでは、ポイントを振って武器ごとの様々な追加アクションやスキル、パッシブ能力を入手可能。能力を解放していくと、「大剣は意外と手数を増やせる」とか、「刀斧は初期装備とは思えないゴリ押し力がある」とか、それぞれの武器に第一印象とは別の強みが見えてくる。数は3種類と控えめながら、ツリーの組み合わせがあるため、飽きが来ることはない。
進めていくと、ボスと武器の相性も多少あることに気づく。愛で決めた1種類で押し切ってもいいが、ぜひいろいろな武器を試してみてほしい。
なぜなら、スキルポイントやレベルアップによる能力値はいくらでも振り直しできるから。能力値に関してはアイテムを消費する必要があるが、スキルに関してはノーコストかつ自由なタイミングで振り直しが可能だ。
この仕様のおかげで、序盤で槍一本と決めた筆者は、とあるボスに行き詰まったタイミングで大剣に目覚め、終盤には刀斧のことしか考えられなくなった。なお、本作はトレーニングモードが用意されている。初めて持つ武器の練習にうってつけだ。
あるいは一度倒したボスに再戦を挑んでもいい。本作は同じボスと気軽に何度でも戦える仕様。最初に攻略した武器と異なる武器種で挑むと、また違ったおもしろさが発見できる。
心折らないステージ、鍛冶素材の収集……。アクションを引き立たせるおもてなし設計
探索ダンジョンはステージ制。道中で死んでしまうと集めた経験値は死亡地点にドロップしてしまい、リスポーン地点からやり直し。経験値を回収する前に再び死亡すると経験値をロストする、ジャンルファンにはなじみのある仕様。だが、道中での心折れ率は低めだ。
もちろんモブ敵はどれも油断できない強さを持っている。しかしステージ全体でみると、本気でプレイヤーを怒らせるようになっていないと感じた。
たとえば、初見ではほぼ確実に引っかかるデストラップはいくつかある。しかし、それらのほとんどはリスポーン地点からあまり離れていない。“死にゲーのお作法”を踏襲しながら、プレイヤーの気持ちを萎えさせないような“接待”を受けているような不思議な感覚を得る(しっかり殺されるが……)。
また、ステージには壺の精霊や鬼石といった収集要素が散りばめられ、集めるとカザンの能力上昇や協力な装備といったご褒美が用意されている。探索は単なる自己満足ではなく、次の戦いを楽にする投資でもある。
このあたりも親切で、収集要素を拾いながらしっかり探索すると険しい道のりになるが、寄り道せずに正解ルートをまっすぐ進めばあっさり突破できる。なので死に戻りの憂き目にあっても、「またあの場所を進むのか……」といった気の重くなるような感覚はあまりない。
収集要素とは別に、ダンジョンでは装備品が頻繁にドロップする。武器・防具ともに数値としての強さのほかに、「ダメージ量倍率アップ」「闘志獲得量アップ」などの特性がついている。また、同じ二つ名を持つ装備で統一すれば、セット効果として特別な特性も得られる。ドロップ装備は数値、特性ともにランダムのため、ちょっとした“ハクスラ”感もある。
ただ、そうはいっても射幸心をあおるほどの沼があるわけではない。各ステージのハブとなる拠点には、鍛冶屋と錬金術師が控えていて、装備の強化や特性の付け替えなどができるからだ。お目当ての逸品が見つからなければ自分で作るという一手もある。
ストーリー終盤では能力の伸びが鈍くなる分、装備の特性はカザンの強さを大きく左右する。セット装備の素材やレシピの多くはボスが持っているので、こだわろうとすると目当ての素材を持つボスとの再戦が必要になる。再戦場所へは拠点から手軽にアクセスできるので、素材を集めながら、延々とボス戦を遊べる。ボス戦で楽をするためにボス戦で沼る。幸福なマッチポンプだ。
ビジュアルは渋くおしゃれ、ストーリーは暗すぎず、あっさり
最後にビジュアルとストーリーについて触れたい。美麗な3Dセルルックアニメーションは本作のバトル演出にマッチしている。色数を抑えながら世界に溶け込んだデザインで、ド派手なエフェクトであるにもかかわらず不思議と視認性がよく、何が起きているかわかりやすいのもいい。
ちなみに、お気に入りのエフェクトは大剣スキルの「内なる怒り」。吹き出した闘気が敵にダメ―ジを与えるというスキルで、全然“内なる”じゃない。これがもしも怒りではなく便意だったら漏れてますどころの騒ぎではないのだが、闘気が「ドッドッドッ」と敵を小刻みにしばく挙動が気持ちいい。
ストーリーはシンプル。謀反の濡れ衣を着せられ帝国を追放された大将軍カザンの復讐劇だ。
裏切りから始まる暗いストーリーだが、気分が重くなるほどではない。正直なところ、ストーリー描写の比重は全体のプレイ時間の中でそれほど多くなく、キャラクターの心情描写もあっさりしている。
とはいえ、「カザンが復讐する」という基本線はしっかりおさえながら物語は進むので、説明不足でモヤモヤするようなことはない。
ただ、カザンとの関係性が薄い登場キャラが多いのが気になった。カザンもよく知らない人物の知らん過去が明かされるイベントシーンに尺を割くぐらいなら、ラスボスとの関係性などをもっと掘り下げてほしかった……。
好感が持てるキャラは、物語冒頭からカザンにとりつき鬼神の力を貸してくれる「ブレードファントム」。人間を見下しているが、なんだかんだカザンを激励したり、好物のラクリーマを前にすると歌いだしたり、茶目っ気がある良き人外バディだ。
対して、肝心の主人公であるカザンは、最後までキャラクターがつかめなかった。「The First Berserker」と言うぐらいなので、敵・味方を見境なくなぎ倒すぐらい熱い男を想像していたが、実際にはただただ真面目な男という印象を受ける。
なので、プレイヤーとしてそこまでカザンの復讐心に同調できなかったが……。問題ない。なぜなら目の前の敵が復讐対象かどうかなんて関係ないこと。戦闘がおもしろいのでオールオッケーです。
まとめ
ストイックなほどアクションに魅力を振り切った本作。高難易度ではあるもののリトライは快適で、メインディッシュのボスバトルを心ゆくまで楽しめる設計だ。
なお、難易度はイージーも用意されている。難しいから楽しい、という側面もあるが、それよりもいかにカザンを気持ちよく動かせるかといった部分が本作のキモなので、イージーモードでも楽しさの本質は変わらないように思う。
一方でスキル構成を考えたり、完璧なジャストパリィを狙ったり、上級者向けに魅せプレイの追及もできる懐の広さも備えている。アクション狂いにおすすめです。