ソフトバンクは2月10日、2025年3月期第3四半期の決算を発表した。同日に開催された決算説明会では、代表取締役社長 執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏が登壇して決算内容の説明にあたった後、記者/アナリストからの質問に対応した。質疑応答では、先日発表されたソフトバンクグループとOpenAIとの連携について、多くの質問が寄せられた。

  • 宮川潤一氏

    決算説明会に登壇した代表取締役社長 執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏(提供:ソフトバンク)

第3四半期までの累計の業績は、売上が前年同期比7%増の4兆8,115億円。営業利益は同じく12%増の8,219億円で増収増益という結果になった。セグメント別にみても、全セグメントが増収増益となっている。純利益は4,366億円で、やはり7%の増益だ。

  • 第3四半期の連結業績のまとめ

    第3四半期の連結業績のまとめ

  • セグメント別売上

    全セグメントが売上増

  • セグメント別営業利益

    セグメント別の営業利益も全セグメントで増益

2024年度通期の業績予想に対しても、営業利益が進捗率87%、純利益では86%と、余裕をもって達成できそうな見通し。とくにファイナンスセグメントでは11月に上方修正済みの通期予想に対しても130%と大幅達成となっている。

  • 通期業績予想に対する進捗

    通期業績予想に対する進捗。なお2024年度の通期業績予想は業績好調を受けて11月に引き上げられている

  • セグメント別の営業利益予想に対する進捗率

    セグメント別の営業利益予想に対する進捗率

コンシューマ事業

コンシューマ事業の累計売上は、3%増収の2兆1,810億円。モバイル売上は256億円の増加で、2023年度後半からの増収傾向が定着した格好だ。また、通信以外の領域を広げていくという「ビヨンドキャリア戦略」が実を結び、物販等の売上が384億円の増加となっており、「強い企業構造になってきた」と宮川社長は胸を張った。営業利益は4%増益の4,405億円。

  • コンシューマ事業の売上高

    コンシューマ事業の売上高

  • モバイル売上高

    モバイル売上高

  • コンシューマ事業の営業利益

    コンシューマ事業の営業利益

スマートフォンの契約数は、全ブランド合算で前年同期比4%増の3,127万件。「ソフトバンク」「ワイモバイル」の両ブランド間の移行の収支も、第2四半期に続いてソフトバンクへの移行がワイモバイルへの移行を上回っており、通期でも同様の結果を見込んでいるとのこと。全ブランドでの契約純増による顧客基盤の拡大だけでなく、付加価値の高いソフトバンクブランドへの移行が進むことで、ARPUの改善にも努めていく考えだ。

  • スマートフォン累計契約数

    スマートフォン累計契約数

  • 「ソフトバンク」「ワイモバイル」両ブランドの移行収支

    「ソフトバンク」「ワイモバイル」両ブランドの移行収支

質疑応答の中では、ブランド移行について、「移行は、将棋で歩を打って“と金”に成っていくようなもの。ワイモバイルはお客さまを集めやすくて、その中にはペイトクがきっかけで“と金”になるお客様が出てきます」と、まずは自社の顧客として確保することが優先で、そこから高付加価値サービスをつなげる高単価ユーザーに育てるという戦略を示した。

これに関連して「ほかのものが値上げをする中、通信業界だけが常に値下げの議論をしている。我々も取引先(下請け先)からの値上げ要望に対しては『許容できない』となってしまう。好循環になるように正常化してほしいと思っています」という発言もあった。別の質問を受け、電気代のコスト上昇、人件費のベースアップ、取引先/取引先従業員との関係維持などを迫られる中、5G/6Gへの投資が抑制されて技術面の優位が失われつつある現状に警鐘を鳴らし、「物価に合わせた値上げはどこかでやらなければならないが、ソフトバンクが先陣を切るのは勇気がいる。すぐには動くつもりはないが、声を上げるつもりではいる」と語っており、現在の料金を維持するのにも限界があるという考えのようだ。

エンタープライズ事業

エンタープライズ事業の売上はモバイルが微増、固定通信が微減という中、ソリューションが順調で全体としては10%の増収。営業利益は9%増の1,404億円。

  • エンタープライズ事業の売上高

    エンタープライズ事業の売上高

  • エンタープライズ事業の営業利益

    エンタープライズ事業の営業利益

メディア・EC事業

LINEヤフーなどのメディア・EC事業は、メディア/コマース/戦略・その他のそれぞれが増収となり、売上高は4%増収の1兆2,523億円。「利益率の高いメディア領域がコロナ禍のあとに復調してきたのが業績に貢献してきている」と宮川社長。その言葉どおり、営業利益は33%と大幅な増益で2,181億円に達した。このうち432億円分はコロナ禍による一過性のものだというが、前年度・今年度の営業利益から一過性要因を除いたとしても、17%と大きな増益になっているという。

  • メディア・EC事業の売上高

    メディア・EC事業の売上高

  • メディア・EC事業の売上高の営業利益

    メディア・EC事業の売上高の営業利益

ファイナンス事業

ファイナンス事業は、累計売上高が19%増の2,036億円。営業利益は前年度のマイナス35億円から295億円の改善で260億円。第1四半期に初めて達成したPayPayの黒字化が定着したことが寄与しているという。

  • ファイナンス事業の売上高

    ファイナンス事業の売上高

  • ファイナンス事業の売上高の営業利益

    ファイナンス事業の売上高の営業利益

PayPayは、連結売上高が前年同期比18%増、連結決済取扱高が前年同期比23%増、連結EBITDAでは2年連続黒字、営業利益は3四半期連続黒字と好調。さらに2024年12月にはPayPayによるPayPay銀行の子会社化、またこの第3四半期決算発表の同日にはPayPayによるPayPay証券の子会社化を発表している。ソフトバンクグループの金融サービスをPayPayに集約することで、資本関係をシンプルにし、複数のブランドの重複を解消することで、この分野での成長を加速させたいという。

なお、質疑応答では記者の質問に答え、「この銀行・証券の子会社化で大枠の再編は終えた」という認識を示した。今後も保険の扱いなどについては議論するとのことだが、それは再編というよりM&Aなどによる拡大を踏まえた検討になるとした。IPOについては、「黒字になったので、よく聞かれる」としながらも、「まだ1合目か2合目なので、山頂までやりたいことをやりきったうえで親離れしてほしい」と近々では検討していないとのことだった。

  • 金融サービスをPayPayに集約する再編

    金融サービスをPayPayに集約する再編

  • 金融サービス再編の狙い

    再編により、PayPay主導で銀行・証券サービスを強化することを狙いとする

次世代社会インフラの構築

次世代社会インフラの構築については、2024年11月に発表したAI-RANの統合ソリューション「AITRAS」を紹介。ソフトバンクは現在のモバイルネットワークを分散型の小型AIデータセンター網へ進化させ、無線アクセスネットワーク(RAN)とAIを同一基盤で実行させるAI-RANを実装することにより、AIによる基地局処理のパフォーマンス向上、余剰計算資源の外販による収益化を見込んでいるようだ。

  • AI-RANの意義

    AI-RANの意義。このうち①と③は直接的にソフトバンクの事業に関わる部分だ

データセンター関連ではもうひとつ、こちらも2024年12月に発表済みではあるが、シャープ堺工場跡地のAIデータセンター構築についても進捗を報告した。ソフトバンクとしては堺工場跡地の広大な敷地をいかし、同社のAIデータセンターだけでなく、このエリア内でさまざまな企業が保有するデータをAI処理し、技術・知的財産の流出リスクを最小限に抑制したうえであらゆる産業をAIで活性化する産業集積地とする構想があると説明。堺だけでなく、現在準備中の北海道苫小牧AIデータセンターなど数カ所を同様の産業集積地にする考えだ。

  • シャープ堺工場跡地へのAIデータセンター構築の進捗

    シャープ堺工場跡地へのAIデータセンター構築の進捗

  • AIデータセンターを中心とした産業集積地の構想

    AIデータセンターを中心とした産業集積地の構想

また、先日発表されたOpenAIとのパートナーシップについてもあらためて説明された。すでに発表されているとおり、ソフトバンク/ソフトバンクグループが出資する中間持株会社が50%、そしてOpenAIが50%を出資する新会社「SB OpenAI Japan」が日本の主要企業向けに企業内AI「クリスタル・インテリジェンス」を販売するという枠組み。ソフトバンクグループでの「クリスタル・インテリジェンス」の導入は、来期を想定しているとのことだった。

「クリスタル・インテリジェンス」は最初にソフトバンクグループへの導入を目指すということで、その開発・運用にソフトバンクは年間30億ドル(約4,500億円)を支払う契約とされていた。提携発表後、これがソフトバンクにとって大きな負担となるのではないかという声もあったが、宮川社長はその支払いが「Pay for Use、従量制で利用する契約」と明言。また、後述の質疑応答でも支払いの大半がソフトバンク株式会社の負担になるわけではないと話しており、いまだ不透明な部分はあるものの、4,500億円という金額は確定したものではなく、その負担はあるていどグループ内で分散されるということのようだ。

  • OpenAIとのパートナーシップ

    OpenAIとのパートナーシップ

なお、AIについてはソフトバンク自身も国産LLMの開発を進めており、マイクロソフトやGoogleとも協業を行っている。そういったものも含めたマルチモデルの展開は今後も継続するとのことで、OpenAIとのパートナーシップは今後のAI戦略において大きな意味をもつものの、そこに一点賭けするというわけではないという。

最後にESG関連でさまざまな表彰を受けていることなどを紹介し、宮川社長によるプレゼンテーションは終了。このあとは記者・アナリストとの質疑応答となった。

質疑応答ではOpenAIとのパートナーシップについて質問が集中

孫氏がOpenAIとのパートナーシップを発表したイベントでは質疑応答の時間が設けられなかったこともあってか、質疑応答の多くはOpenAIとのパートナーシップについてのものだった。

OpenAIと組む意義などについては、「ソフトバンクグループの決算発表が12日にあるので、そこで聞いてくださいと本当は言いたい」といいつつ、現在もっとも進んでいるOpenAIの技術を日本の企業が優先的に利用できるようにすることで、日本の企業がそれを導入して強くなれば未来が明るいと強調。ただ、前述のとおり、OpenAIとの提携はあくまでもいろいろな取り組みのひとつだとした。

  • ソフトバンクの目指す姿

    OpenAIとの提携が大きく報道されており、金額も大きいものだが、ソフトバンクとしてはさまざまなAIへの取り組みのひとつだという

前述の費用負担については、「ソフトバンクグループ全体で広く負担しようという話もあったが、ソフトバンク株式会社は復活しつつあるといっても営業利益が1兆円に満たない会社。純利益5,000億円のうち4,000億円が配当に消えている。4,500億円のほとんどを負担したら配当が出せない」「親のすねかじりと孫さんから言われた」と話しており、ソフトバンクグループとの間では激しい交渉があったようだ。とはいえ「我々がPay for Useで支払いをする以上、それ以上の収益が紐づいての支払いになる。我々としては得るものがあっても失うものはない関係」と、ソフトバンク株式会社が一方的な負担を抱えるという形ではないようだ。「ソフトバンク株式会社のキャッシュフローに悪影響はないか」と念を押されると、「信じてください。私は経営者なのでソフトバンク株式会社に悪影響が出る契約はしない」と断言していた。

「4,500億円」の費用の動きはまだ未確定の部分もあるようだが、「ソフトバンクグループが4,500億円を合弁会社のSB OpenAI Japanに支払う」「その4,500億円でSB OpenAI Japanが開発を行い、開発にかかった費用との差分がOpenAIに流れる」という説明だった。

こういった負担をしてまでOpenAIとの提携に踏み切った背景として、「OpenAIは千数百人の会社。世の中はそのリソースの取り合いになっている」として、思い切った契約により、OpenAIの中でソフトバンクとの協業の優先度を上げる必要があったと説明している。「クリスタル・インテリジェンス」の導入先として「まず大企業から」としているのも、リソースが限られていることからあれもこれもというわけにはいかないので、収益の中心になる顧客から取り組む――との説明だった。

今後、ソフトバンクグループ以外の企業への販売については、時期は「出来栄えしだいなので、まったく未定」という。SB OpenAI Japanの設立は「半年以内には」としており、スタートダッシュをしたいので1,000人程度の人員をSB OpenAI Japanに割り当てるとのこと。その人員は、「クリスタル・インテリジェンス」を導入することになるグループ企業300社の各社からの人員と、外販を行うための営業スタッフが想定されているとのこと。なお、すでに各社・各部門が持つデータの整理にはすでに着手しているという。

  • 「SB OpenAI Japan」の位置付け

    「SB OpenAI Japan」の位置付け

「クリスタル・インテリジェンス」の著作権はOpenAIが持つことになるため、このSB OpenAI Japanは、それを日本国内で独占販売する会社ということになる。この点については「販売代理店なのかと言われればそのとおりだが、『独占』というところにこだわった」としており、さらに日本国外での展開についてもこの会社で手掛けたいという考えがあるようだ。

  • 第3四半期決算のまとめ

    第3四半期決算のまとめ