ソニーグループが8月7日に発表した2024年度第1四半期(2024年4月~6月)の連結業績は、売上高および金融ビジネス収入が前年同期比1.6%増の3兆116億円、営業利益は同10.3%増の2791億円、調整後OIBDAは同14.8%増の4546億円、調整後EBITDAは同13.5%増の4612億円、税引前利益が同14.8%増の3168億円、当期純利益が同6.5%増の2316億円となった。

金融分野を除く連結業績は、売上高は前年同期比12%増の2兆5674億円、営業利益は同25%増の2491億円と大幅な成長となっている。

一方、2024年度通期(2024年4月~2025年3月)業績見通しは上方修正を行い、売上高および金融ビジネス収入は、期初公表値に比べて3000億円増加の前年比3.2%減の12兆6100億円、営業利益は350億円増加の同8.4%増の1兆3100億円、調整後OIBDAは500億円増加の同9.0%増の1兆9900億円、調整後EBITDAは600億円増加の同9.5%増の1兆9900億円、税引前利益が800億円増加の同5.2%増の1兆3350億円、当期純利益は550億円増加の同1.0%増の9800億円とした。

最終減益の計画を見直し、増益とするなど、第1四半期終了時点で早々と上方修正するといった動きは、同社の好調ぶりを裏づけるものになる。

  • 【決算深読み】ソニーの2024年Q1決算はゲームと映像が好調牽引、通期計画も早々の上方修正

    ソニーグループ 2025年3月期(2024年度)の業績計画。前回5月時点から最初の四半期で早々に上方修正し、好調ぶり裏づける決算になった

  • ソニーグループ 2025年3月期 第1四半期(2024年4月~6月)の業績

ソニーグループ 代表執行役社長 COO兼CFOの十時裕樹氏は、「金融分野を除く連結ベースで、2026年度までの営業利益年平均成長率で10%以上、3年間累計営業利益率で10%以上を目標としているが、2024年度第1四半期の実績は順調であったといえる」と総括。また、昨今の為替や株式市場の急激な変動を捉えながら、「市場の不安定さは、業績の先行きを読みづらくしている。米国経済の消費動向の見通しも難しい。第5次中期経営計画では、環境変化へのレジリエンスを高めていく方針を掲げており、真価が問われる局面にある。当社は、エンタテインメント分野が最大規模となっているが、これはマクロエクノミスの影響を受けにくいという色彩はある。だが、リスクを勘案し、市況の変化を注意深く見守り、細心の注意により、事業運営をしていく」と慎重な姿勢をみせた。

  • ソニーグループ 代表執行役社長 COO兼CFOの十時裕樹氏

ゲーム事業はハード減収もソフトが販売増

2024年度の第1四半期のセグメント別業績と、2024年度の通期計画を見てみよう。

  • ソニーグループ 2025年3月期 第1四半期(2024年4月~6月)のセグメント別業績

ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の売上高は前年同期比12%増の8649億円、営業利益は33%増の652億円、調整後OIBDAは26%増の957億円となった。

ソニーグループ 執行役員 経営企画管理担当の松岡直美氏は、「G&NSでは新体制のもと、アクティブユーザー数とユーザーエンゲージメントの着実な維持、拡大を重視する施策を展開している。PS(プレイステーション)プラットフォームのさらなる強化と、安定した収益基盤の確立を進めている。また、ヒット作の安定的、継続的なリリースに向け、開発スケジュール管理の強化や、開発プロジェクトの最適化を推進している」と述べた。

  • ソニーグループ 執行役員 経営企画管理担当の松岡直美氏

第1四半期は、ハードウェアの減収はあったものの、ファーストパーティソフトウェアの販売増加、プレイステーションプラスを中心としたネットワークサービスの増収などが貢献。大幅な増収増益になった。

ライブサービスゲーム「HELLDIVERS 2」が、5月時点の想定を上回る勢いで推移しているほか、PC版の「Ghost of Tsushima」や、拡張版の「Destiny 2 : The Final Shape」が収益に貢献。8月には、ライブサービスゲームの「Concord」のほか、9月には「ASTRO BOT」や「God of War Ragnarök」を発売する予定であり、事業拡大に弾みをつける考えだ。さらに、プレイステーションプラスでは上位サービスへの利用シフトが進展していることも収益に貢献しているという。

  • ライブサービスゲーム「HELLDIVERS 2」が想定を上回る勢い。PC版の「Ghost of Tsushima」もヒット

ネットワークサービスは、前年同期比13%増(ドルベース)という成長を達成。2024年6⽉のプレイステーション全体の月間アクティブユーザー数は、前年同期比7%増の1億1600万アカウントなり、6月としては過去最高となった。総プレイ時間も前年同期比8%増となっている。

「拡大したPS5のインストールベースと、堅調なフランチャイズソフトウェアの貢献などにより、大型タイトルの発売が無くても高い水準を維持した」と振り返った。

  • プレイステーション全体の月間アクティブユーザー数が、6月としては過去最高を記録

PS5の販売台数は240万台となり、前年同期の330万台からは大きく減少している。

2024年度通期見通しは、売上高は前回公表値から1200億円増加し、前年比1%増の4兆3200億円とし、増益予想に修正。営業利益は100億円増加し、同10%増の3200億円、調整後OIBDAは200億円増加の同8%増の4400億円とした。

  • ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の業績と見通し

音楽分野の売上高は前年同期比23%増の4420億円、営業利益は17%増の859億円、調整後OIBDAは30%増の1077億円となった。為替のプラス影響や音楽制作におけるライブ興行収入の増加、ストリーミングサービスの売上増加が貢献した。

ストリーミングサービスの売上高は、音楽制作が前年同期比5%増(円ベースでは19%増)、音楽出版が20%増(同35%増)の伸びを記録。ストリーミングサービス市場における有料会員の増加、新興国での市場拡大、音楽配信業者による価格改定の影響もあり、市場全体が拡大していることが追い風となり、事業成長しているという。

  • ストリーミングサービスの売上高。場全体が拡大していることが追い風となっている

松岡執行役員は、「The Orchardを通じたインディーズ市場の拡大を捉えたエコシステムの構築に戦略的に取り組んできた成果や、新興国においても世界50カ所のThe Orchardの拠点により、楽曲のデジタル配信や、最新テクノロジーを活用したデータ分析サービスを提供して、事業を拡大している。新興国での戦略投資を積極的に進めてきたことで、南米、インド、アフリカで確固たるプレゼンスを確立できた」と自己評価した。

また、ソニー・ミュージックエンタテインメントに所属するYOASOBIが海外市場で成功した例のように、The Orchardが、国や地域を超えたヒットを創出することに貢献している点も強調した。

  • YOASOBIが海外市場で成功した例のように、The Orchardが、国や地域を超えたヒットを創出することに貢献

2024年度通期見通しは、売上高では前回公表値から500億円増加し、前年比7%増の1兆7400億円、営業利益は150億円増加し、前年比9%増の3300億円、調整後OIBDAは、200億円増加の前年比14%増の4200億円とした。

  • 音楽分野の業績と見通し

映画分野の売上高は前年同期比5%増の3373億円、営業利益は29%減の113億円。調整後OIBDAは2%減の278億円となった。「テレビ番組制作における納品作品数の減少や、劇場公開作品数の減少などにより、ドルベースでは減収だったが、為替がプラスに影響して増収になった」という。

2024年前半の米国における現状興行収入は、ストライキの影響によって、前年同期比で2割程度低くなっているという。だが、2024年6月以降、主要スタジオから、大型作品の公開が増加しており、徐々に改善が進むと予測。同社においても、「バッドボーイズ RIDE OR DIE」、「The Garfield Movie」がヒット。8月9日から公開予定の「IT ENDS WITH US」はトレーラー公開から24時間の視聴回数が約1億3000万回を記録。「優れた原作の発掘と映画化という取り組み成果のひとつになると期待している」と述べた。

  • 「バッドボーイズ RIDE OR DIE」、「The Garfield Movie」がヒット。6月以降に改善が進む予測

また、Crunchyrollの有料会員数が増加したことも増収につながっている。Crunchyrollの有料会員数は、2024年7月に1500万人を突破。アニメ市場の急速な拡大を取り込んでいるという。「鬼滅の刃 柱稽古編、怪獣8号、僕のヒーローアカデミアなどの作品も貢献している。日本のアニメクリエーターとの強いパートナーシップにより、コンテンツを拡充している。価格的にも魅力的な水準で価値を提供できる。また、Amazon Prime channelとのグローバル配信契約を締結し、2023年10月の米国での配信に続き、2024年4月からブラジル、フランス、インドでも配信を開始している。多言語対応にも力を注ぐ」と述べた。さらに、北米とオーストラリアのみで展開していたCrunchyroll Storeを、欧州34カ国に拡大。アニメファンとのエンゲージメント強化を図るという。

  • Crunchyrollの有料会員数は1,500万人を突破。アニメ市場の急速な拡大を取り込んでいる

加えて、全米41カ所の劇場で食事を楽しみながら鑑賞できる「プレミアム・ダイン・イン・シアター」を展開する米Alamo Drafthouse Cinemaを買収し、約400万人の会員との接点を生かして、映画、ゲーム、音楽、アニメなどのコンテンツとのシナジー、AlamoとCrunchyrollとの連携も進めることになる。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント内に、ソニー・ピクチャーズ・エクスペリエンスを新設し、Alamoを中心とした体験型ライブエンタテインメント事業を強化していく考えだ。

映画事業の2024年度通期見通しは、売上高は前回公表値から400億円増加し、前年比2%増の1兆5200億円、営業利益は50億円増加の同6%増の1250億円、調整後OIBDAは50億円増加の同2%増の1750億円とした。

  • 映画分野の業績と見通し

テレビとカメラは中国市場の動向を注視

エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の売上高は前年同期比5%増の6009億円、営業利益は15%増の641億円、調整後OIBDAは12%増の901億円となった。2024年度通期見通しは、売上高が前回公表値から500億円増加の前年比1%減の2兆4200億円、営業利益は据え置き、同1%増の1900億円。調整後OIBDAも据え置き前年並の2900億円とした。

ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏は、「テレビの減収はあったものの、為替のプラス影響があった。日本、欧州、北米では主要製品カテゴリーでは想定通りに推移したが、中国ではテレビ市場の大幅な縮小と、ソリューションを含むデジタルカメラ市場の大きな伸長が見られた」という。

  • ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏

テレビ事業では、第1四半期に在庫コントロールの徹底と、コスト削減施策などにより、レジリエンスの高いオペレーションを実現できたとし、「家庭でのシネマ鑑賞体験をより豊かにする新製品として、BRAVIA 9シリーズを投入した。今後も高付加価値商品に注力していく」と述べた。

また、デジタルカメラでは、中国での需要動向には細心の注意を払う一方で、APS-Cミラーレス一眼カメラ「VLOGCAM ZV-E10 Ⅱ」の市場投入などにより、クリエイター層の多様化にも対応し、収益拡大を目指すという。

  • 家庭でのシネマ鑑賞体験をより豊かにする新製品として、BRAVIA 9シリーズを投入

  • 「VLOGCAM ZV-E10 Ⅱ」の市場投入などにより、クリエイター層の多様化にも対応し、収益拡大を目指す

さらに分野を横断した在庫コントロールに注力し、棚卸資産の削減を実現。収益安定化にも寄与しているという。だが、「今後起こりうる事業環境の変化に備え、事業運営は保守的な想定に基づいており、在庫と売掛金の管理にも力を注ぐ」と慎重な姿勢をみせた。

  • エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の業績と見通し

イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)の売上高は前年同期比21%増の3535億円、営業利益は188%増の366億円。調整後OIBDAは51%増の1058億円となった。2024年度通期見通しは、売上高は前回公表値から100億円増加の前年比15%増の1兆8500億円、営業利益は50億円増加の同42%増の2750億円、調整後OIBDAは50億円増加の同25%増の5500億円とした。

早川執行役員は、「モバイル向けイメージセンサーの増収効果があった。だが、ARやVR向けのMicro OLEDの大幅な需要減がある。スマホ向けは緩やかな需要回復にあり、中国市場では価格帯の二極化トレンドが継続しており、ソニーにとっては、大判化の需要につながっている」とし、「第2四半期以降は、超広角や望遠カメラ用センサーの大判化がもう一段進むと見ており、さらに、カメラの動画性能向上に向けたセンサーの高性能化が、モバイル向けセンサー市場の中期的な成長ドライバーになる」と予測した。

  • モバイル向けイメージセンサーは大判化の傾向

また、モバイル向けセンサーの歩留まり改善が計画通りに進展しており、2023年度中に正常な水準に戻ると見ている。

  • イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の業績と見通し

金融分野の金融ビジネス収入は前年同期比34%減の4486億円、営業利益は45%減の300億円、調整後OIBDAは40%減の368億円となった。2024年度通期見通しには変更がなく、金融ビジネス収入は前年比49%減の9100億円、営業利益は同16%減の1450億円、調整後OIBDAは同6%減の1700億円としている。

  • 金融分野の業績と見通し

ソニーフィナンシャルグループ 専務取締役兼CFOの山田和宏氏は、「市況変動の影響により、ソニー生命の金融ビジネス収入は大幅に減少した。だが、ソニー生命の2023年度の新規契約高は16%のシェアとなっており、2年連続で1位を継続した。人口減少のなかでも、シェアを拡大しており、十分な成長機会を有している」と述べた。

  • ソニーフィナンシャルグループ 専務取締役兼CFOの山田和宏氏

なお、今回の説明会において、十時社長 COO兼CFOは、パラマウント・グローバルへの買収提案を行わずに撤退する姿勢を明らかにした。

「パラマウントの買収は、我々の戦略にはフィットしないと判断した。我々は、優良なIP資産にフォーカスしており、適正な価格で買収できるという取引であれば、本格的に検討をする。だが、パラマウントは、大きな企業体であり、全体を買収するということはリスクの観点からも、経営資源の配分という観点からも、フィットしにくい」と説明した。