元寇の脅威に立ち向かう男の戦いを描くオープンワールド時代劇アクションゲーム『Ghost of Tsushima』。数々のゲームアワードに輝いたPlaystation 4(PS4)/Playstation 5(PS5)向けタイトルの名作に、待望のPC版が登場した。
今回移植された『Ghost of Tsushima Director’s Cut』は、発売後に追加された大型アップデートや、拡張コンテンツ「壹岐之譚」などを含む決定版。SteamとEpic Gamesで購入でき、いずれのプラットフォームでもすでに好評をもって迎えられている。
PC移植の目玉は、ウルトラワイドモニター対応やフレームレートの上限解放。グラフィックの設定項目も幅広く用意され、ポータブルデバイスから高性能PCまでプレイ環境に合った調整を柔軟に行える。また、最新の超解像技術を利用してグラフィック品質とフレームレートを両立できるのも特徴だ。
PC移植によってゲーム体験はどのように生まれ変わったのだろうか。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)から商品コードをいただいたので、プレイレポートをお届けする。
高画質&高フレームレートでよみがえる時代劇オープンワールドの傑作
アメリカの開発会社が手掛けた本格的な時代劇ゲームとして、リリース当時から話題を集めた『Ghost of Tsushima』。まずは改めての本作の魅力を振り返ろう。すでにプレイ済みでPC版との違いのみを知りたい人は読み飛ばしてOKだ。
物語の舞台は13世紀、九州と韓国の間に広がる海峡に浮かぶ島「対馬」。モンゴル帝国による日本侵攻、いわゆる「元寇」を題材に、蒙古の蹂躙を生き延びた主人公・境井仁が、復讐のため、対馬の民のために死闘を繰り広げる。
“誉れ”ある武士として生まれ育つも、敵を背後から襲う外道の戦法も利用しなければ蒙古には勝てないと悟る境井仁。ジレンマを抱えながら、伝説の武者「冥人(くろうど)」として立ち上がり、己の信念を貫くストーリーには心を揺さぶられる。本作のテーマを象徴する名台詞「誉れは浜で死にました」は、ミームにもなった。
システム面では、広大なオープンワールドとスタイリッシュな時代劇アクションが魅力。暗具を使った多彩な暗殺方法やチャンバラを駆使して蒙古の拠点を蹂躙するもよし、ひたすらに秘湯巡りをするもよし。風の流れや狐、黄金色の鳥といった小動物がクエストの目標地点に誘導してくれるなど、没入感を邪魔しない工夫が随所に光り、やめどきが見つからない。
何よりも本作の白眉は、ゲームプレイを彩る美麗グラフィックだろう。一面に広がる彼岸花、黄葉に染まる寺、白銀の山道……。移動の度に見つかる美しいロケーションは、開発陣が「対馬への恋文」だと語っているように、現実の対馬の再現ではなく、かつてあったかもしれない日本への憧憬が反映されている。フォトリアルでありながら、幻想絵画のような非現実的な光景は、しばしば目を奪われて蒙古への復讐を忘れさせるほどだ。
美しいのは自然だけではない。戦いの場面においても、美意識は徹底されている。黒澤明の映画『乱』や『七人の侍』をはじめとする時代劇へのオマージュとリスペクトが注ぎ込まれた画づくりは、まさに一編の映画のよう。カットシーンはもちろん、激しいアクションの操作中にも“画”になる場面が頻出する。
ディレクターズカット版で追加された拡張コンテンツ「壹岐之譚」は、メインストーリーの途中から開始できる。対馬と同様に蒙古の襲来を受けている壱岐島にわたり、抵抗を続ける浪人や女海賊といった島民と手を組み、幻術使い・オオタカに立ち向かうストーリーだ。
この拡張コンテンツ、単純なボリューム増ではなく、遊びの幅がしっかり拡張されている。カウンター攻撃が強化される鎧や、一撃必殺の「連殺」を遠距離の敵にも決められるようになる護符など、強力な装備の数々を入手でき、蒙古いじめがさらにはかどる。
また、射的タイムアタック「弓の修練」やタイマンバトル「刀競べ」といったミニゲームに、鹿、猫、猿といった動物たちとの触れ合いも追加され、本編を遊び尽くしたプレイヤーにとっても、まさに理想的な全部盛りのおかわりといった内容だ。
オンライン協力型マルチプレイモード「Legends/冥人奇譚」も忘れてはならない。ざっくりいえば「Ghost of Tsushimaのアクションでハクスラ」を楽しむコンテンツだ。
近接戦闘を得意とする「侍」や暗殺を得意とする「刺客」など、4つの「役目(キャラクタータイプ)」から操作キャラを選び、ステージを攻略して、経験値やレアドロップ装備を稼いでいく。本編とゲーム性がガラッと変わり、ひたすらにレアドロを狙うやりこみ要素がおもしろい。
なお、「Legends/冥人奇譚」をプレイする場合には、PlayStation Networkとの連携が必要。PS4/PS5/PCのクロスプレイに対応しているので(クロスプレイでのマッチングは現在、ベータ版として提供され、今後のアップデートにより正式実装される予定)、PS4、PS5版を所有するフレンドを招待して一緒に遊ぶことも可能だ。
選べる超解像技術のオプションと多彩なグラフィック設定。どう変わる?
本作の移植を手掛けたのはSIE傘下のNixxes Software。近年の実績では『Horizon Forbidden West Complete Edition』など、高品質な移植に定評がある。本作もリリース時から大きな話題となるようなバグはなく、品質面で懸念すべき点はない。
移植にあたって最も目玉となるのはグラフィック設定の追加だろう。これにより、コンシューマー機にはない高フレームレートでのプレイや、SteamDeck(※)のようなポータブルデバイスでのプレイが可能になった(※SteamDeckでは「Legends/冥人奇譚」モードが非対応)。また、ウルトラワイドモニター向けに最適化されており、21:9、32:9、48:9のアスペクト比に対応している。
とはいえ、追加された設定項目から、自環境にとってベストな設定を探すのは手間がかかるもの。ここでは、特にフレームレート向上に大きく関わる項目を紹介しよう。
まず試したいのが、超解像技術(Super-resolution)。ざっくりいうと、画質とフレームレートの向上を両立する技術のこと。本作ではNVIDIA DLSS、AMD FSR 3、Intel XeSSといった主要各社が提供する最新技術から、いずれかを適用できる。
NVIDIA DLSSは、NVIDIA製のグラボにのみ対応しており、AMD FSR、Intel XeSSは、他社のグラボにも対応しているという違いがある。基本は使用しているグラボに対応するメーカーの機能を適用するといいが、たとえばNVIDIA製のグラボでAMD FSRを適用しても問題ない。
また、本作ではフレーム生成機能を利用できる。これはAMD FSR 3に付随していた機能だったが、現在は独立した機能として提供されており、NVIDIA DLSSやIntel XeSSとも組み合わせることが可能だ。
具体的な設定方法は、まず「アップスケールメソッド」から、DLSS、AMD FSR 3、Intel XeSSのいずれかを選択。次に「アップスケール品質」か「動的解像度スケーリング」のどちらかを設定する。
「アップスケール品質」は超解像技術によって描画される画像の解像度品質。「動的解像度スケーリング」は、設定したFPSの維持を優先して解像度が調整される仕組み。性能に余裕があるならできるだけ「アップスケール品質」を上げるのがおすすめだ。
なお、超解像技術を適用しない場合に選べる「アンチエイリアス」は描画のギザギザ(ジャギー)をなめらかにする機能。超解像技術を使う場合はそれぞれに対応する技術が自動で適用されるが、超解像技術を使わない場合は、「SMAA」、「SMAA T2X」、「TAA」、「DLAA」、「AMD FSR 3 Native AA」、「Xess Native AA」といったオプションが用意されている。
今回、筆者はWQHD(2560×1440)、165Hzのゲーミングモニター、NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti(VRAM12GB)のグラボを使用してプレイ。グラフィックのプリセットを「非常に高い」に設定して、「超解像技術なし」「超解像技術あり」「超解像技術+フレーム生成あり」の3パターンでFPSを比べてみた。
結果、筆者の環境ではDLSS、AMD FSR 3、Intel XeSSの間で、グラフィック、パフォーマンスともに大きな違いは感じられなかった。一方で、フレーム生成を利用した場合、FPSは2倍近い数値を確認できた。
次にグラフィックオプションを見ていく。各設定項目は、GPU性能にかかわるもの、ビデオメモリにかかわるものなどがあるため、使用グラボによってパフォーマンスへの影響度合いは変わる。
そのため、あくまで目安ではあるものの、グラフィックとパフォーマンスの両立を目指すのであれば、「テクスチャ品質」はなるべく落とさず、FPSに与える影響がほかの項目と比べてやや大きい「ディテールレベル」の品質を落とすのが良さそうに感じられた。
プリセットのセッティングを落としても全体の印象を大きく損なうわけではないが、超解像技術と合わせて設定を調整すれば、できる限りの高画質を維持しながら快適なプレイができそうだ。
まとめると、フレームレートを上げたい場合にはグラボに合った超解像技術と、フレーム生成の併用がおすすめ。その上で性能が物足りないPC環境では、最高品質のプリセットをベースに各グラフィック設定を見直し、調整するのがいいかもしれない。
FPSの向上によって映像のズレ(ティアリング)が発生するような場合は、Vsyncの設定をオンにすると安定が期待できる(FPSがモニターのリフレッシュレートに同期され、60Hzのモニターなら60FPSが上限となる)。
なお、各種プリセットの推奨スペックは移植を手掛けたNixxes Softwareが公表している。購入前の参考や、自身の環境に対応するプリセットを選ぶ際の目安として確認しておこう。
ほかにもあるPC版ならではのメリット。連携機能でPlayStationユーザーも遊びやすく!
もう一つ、PC版をプレイするにあたっておさえておきたいのがPlaystation連携。本作はPC上でPlayStation Networkのフレンドリスト、トロフィー、設定、プロフィールなどを確認できる新機能「PlayStationオーバーレイ」を搭載した初のPlayStationタイトルなのだ。
連携することによって、PC版のプレイで、PS5版と同じトロフィーを獲得でき、PSNアカウントに反映される。反対に、PSNと接続したアカウントであれば、PS5版『Ghost of Tsushima Director’s Cut』のトロフィーを獲得した場合に、PC版で同じトロフィーを獲得済みとなる。もちろん、SteamもしくはEpic Games Storeの実績も解除される。
つまり、PlayStation版でトロフィーコンプリートの途中だったプレイヤーは、PC版と連携して、PC版をプレイすることでトロフィーコンプリートを果たすことができる、うれしい仕様。また、クロスプレイを行う際にPSNのフレンドを探すのにも便利だ。
PCならではのプレイ体験としては、キーボード、マウスを駆使したキーカスタマイズやさまざまなコントローラーへの対応も挙げられる。
コントローラーで遊ぶなら「DualSense ワイヤレスコントローラー」を有線接続で使用するのがおすすめ。馬で駆ける振動や剣戟が手に伝わるハプティックフィードバックや、実際に弓を引き絞るような感覚を得られるアダプティブトリガー機能が、プレイ中の臨場感に大きく貢献するからだ。
一方で、キーボードを利用した操作系は、マルチプレイモード「Legends/冥人奇譚」であれば、アリに思えた。本編よりも難易度高めの戦闘で、素早い対応が優先されるゲーム性のため、キーアサインを多数カスタマイズする方が、コントローラーよりもプレイしやすいかもしれない。
また、フォトモードやビジュアル関連の設定が充実している本作で、画像・動画キャプチャをPCのストレージで管理できるのもありがたい。PS4、PS5ではゲームデータだけで容量がカツカツだった、というユーザーも気兼ねなく「画になる」シーンを保存できる。
時を経ても色褪せないツシマ。未プレイ勢も既プレイ勢もおすすめの移植
鮮烈な体験はそのままに、デバイスの選択肢が広がった『Ghost of Tsushima Director’s Cut』。さまざまなグラフィックオプションが設定できるようになったわけだが、元々のビジュアルの高い完成度に改めて驚かされた。
実写映画版の制作も進行中で、まだまだ話題は尽きそうにない本作。今まで触れていなかった人はこの機会に、ガッツリやり込んだ人は思い出の対馬再訪を、PC版で体験してみてはいかがだろうか。