ソフトバンクは2月7日、2024年3月期第3四半期の決算を発表し、宮川潤一社長兼CEOがその内容を説明する決算説明会を開催した。
説明会の冒頭では、令和6年能登半島地震への対応について報告。通信設備の復旧だけでなく、同社のサービスがそれぞれの得意分野で支援を行っている現状を紹介した。なお質疑応答によればこの地震の業績への影響は概算で20億円前後とのこと。後述の業績予想の上方修正には、自身の影響も織り込み済みであるという。完全復旧については、能登半島の地理的条件などから作業が難しいこともあり、電力の復旧も待たねばならないことから、現時点では時期を明言するのは難しいと説明した。
この日発表された四半期決算によれば、第3四半期までの累計で、全社の売上高は前年同期比4%増の4兆5,116億円。営業利益は前年同期比7%増の7,319億円となった。
売上高ではエンタープライズ/ディストリビューション/メディア・EC/ファイナンスの4事業が増収、営業利益では全セグメントが実質増益。通期の業績予想に対して売上高で75%/営業利益で94%の進捗率となっており、業績予想も売上高を6兆円から6兆600億円へ、営業利益を7,800億円から8,400億円へ、それぞれ2023年5月の期初予想から上方に修正している。
携帯電話事業を含むコンシューマ事業セグメントは、前年同期比0.3%の減収、同2%の減益。ただし、スマートフォン/主要回線の純増数は昨年から好調を継続しており、累計契約数は前年同期末から5%の増加となった。
新プランなどによりARPUの低下に歯止めがかかっていることもあり、第3四半期にモバイル売上高は増収に転じた。通期での増収も、2023年5月に発表された中期経営計画では2025年3月期からと見込んでいたところ、1年前倒しでの達成を見込んでいる。これに伴い、業績予想も上方修正され、営業利益は期初予想の4,700億円に対して4,900億円となっている。
他の事業セグメントでは、メディア・EC事業がコスト最適化やメディア事業の業績回復などによって好調で、前年同期比で3%の増収、同29%の増益となった。業績予想も190億円の上方修正となっている。
またファイナンス事業は前年同期比95%の増収となっているが、これにはPayPay株式会社の子会社化の影響が大きい。ただし2023年3月期期初から同社の子会社化を行っていたという仮定での試算でも、2023年3月期第3四半期の累計営業損失118億円から2024年3月期第3四半期の累計営業損失は35億円と大幅な改善になっているという。
このほか、すでに報じられているとおりWeWork Japanの事業の承継、データセンター/日本語国産LLM(大規模言語モデル)の構築といった次世代インフラの構築、コネクテッドカー向けプラットフォームを提供するCubic Telecom Ltd.への出資などについても報告した。
質疑応答も基本的に宮川社長が対応した。
12月27日スタートの新販売プログラム「新トクするサポートバリュー」の狙いと総務省の反応について聞かれると、「(通信事業法の省令の改正によって)端末が出なくなるだろうなと思いました。我々としては5Gの普及をもっと急ぎたいので、流通を増やしたいというチャレンジです。(総務省に)怒られるかなという思いもあったんですが、お叱りを受けるというようなこともありませんでした」という回答。同プログラムについては省令改正の狙いをかいくぐるものという批判もあり、総務省の反応が注視されましたが、適用対象が限られることもあってか今のところ特に問題とはなっていないようです。
また、この前日に発表されたKDDIによるローソンへの出資については、「我々が目指す経済圏というものはもう少しオープンなイメージで、当社の方向性とは違う」とコメント。AppleのVision Proへの期待感については、「すばらしい構想だと思いますが、もう少し安くならないと購入するお客さまが増えていかないのかなと。ただ、Appleが本格的に取り組むことでXRは加速していく、その第一歩だと思いますので、我々は販売という形のお付き合いになると思いますが、コンシューマだけでなく産業界にも広がるものとして、チャンスがあれば参入していきたい」としました。
スカパー!の衛星との干渉の緩和をうけてKDDIが予定しているSub6の出力アップについては、ソフトバンクもKDDIと同様に、首都圏でのエリア拡大/通信品質改善が受けられるという。なお衛星関連では、スマートフォンと衛星の直接通信のサービス提供を検討しているか、という質問もあった。宮川氏はこれまでHAPSに注力してきた自身のスタンスについて能登半島地震を受けて「心境の変化が大アリです」とし、衛星を持つ会社とは積極的に議論をしていく方針を示した。もちろんHAPSについてもすみ分けで進めていくという。
LINEヤフーの将来については、東証プライムへの上場に必要な流通株式基準の基準をクリアし、上場を維持することでLINEヤフーと一致していることを明言。具体的な手法については明らかにしなかったが、期限までに対応する方針であると語った。今後の成長戦略については「私がコメントするのは違うかもしれませんが」と前置きしながら、「さまざまなナンバーワンをもっている会社ですから、数字だけでなくもう少しヤンチャにチャレンジして、昔のヤフーらしさ、LINEらしさを出してほしいと個人的には思っています」と話した。
第2四半期の決算説明会における楽天モバイルの事業進捗についてのコメントのその後を聞かれると、「現場で話はしていますけれど、現時点で大きな進展があったわけではありません」と言い、そのうえで発言の意図について「楽天が獲得した700MHzのプラチナバンドは貴重な帯域ですから、受け取った以上はしっかり整備してほしい。電波の有効利用はMNOの責務だと思います。基地局の場所や伝送路、電源まわりの整備に協力してもいいですから、1万カ所と言わず、全国を自前で作ってほしいと思ってますし、楽天にはその力があると信じています」といい、今後も協議を続けていく意向を示した。
NTT法廃止をめぐる動きについての現在の受け止めとしては、「2025年度ありきということについては違和感を感じたままです。これから本格的な議論が始まるという段階ですから、われわれの懸念について主張していきたいですし、それがNTT法廃止で他の方法で代替するということになるのならそれが機能するのかをチェックしようと思っています。NTTが持つ“特別な資産”がリスクにさらされることのないよう、あるべき制度について丁寧に議論したい」とこれまで同様のスタンスをあらためて強調した。