ソニーの「STAR SPHERE(スター・スフィア)」は、同社の先端テクノロジーを生かして、多くの人々が宇宙をより身近に感じられる新しいエンターテインメントをつくるプロジェクトです。

  • 人工衛星を使ったソニーの宇宙プロジェクト「STAR SPHERE」に、一般のファンが参加できる機会がやってきました!

2024年1月からいよいよ、宇宙から見た地球の写真を撮影できる体験型サービスが始まります。2023年1月に打ち上げた人工衛星「EYE(アイ)」が搭載するカメラを地上から操作し、地球の写真を撮るサービスです。今回、ソニーがメディア向けに開催した宇宙撮影の先行体験に参加しました。

衛星の打ち上げから1年。ついに始まる宇宙撮影体験

STAR SPHEREのプロジェクトは、ソニー、東京大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の3者連携によって、2020年春にソニーの新規事業として誕生しました。

人工衛星のEYEには、ソニーのデジタルカメラ「α」シリーズなどで培った技術を投入したカメラユニットが載っています。EYEは「宇宙の視点」から、4K動画や高精細な写真が撮れる人工衛星です。STAR SPHEREプロジェクトでは、一般の方々に向けて宇宙視点のカメラを開放する準備を進めてきました。

プロジェクトのことや、人工衛星のEYEが搭載するソニーの技術を詳しく解説した別記事『宇宙を撮れるみんなのカメラ! ソニーが開発中の人工衛星を見てきた』も合わせてご覧ください。

  • ソニーが東京大学およびJAXAと一緒に開発した人工衛星「EYE」

衛星の打ち上げとEYEが搭載するカメラによる動画・静止画の撮影は、2023年1月に無事成功しました。

ところがその後、衛星の姿勢を制御する機構の一部に故障が発生。宇宙に打ち上げた衛星は基本的に修理できません。そこでソニーはEYEによるサービスの仕様を見直し、当初予定していた「参加者がEYEの向きを自由に変えながら宇宙や地球を撮れる有料サービス」を取りやめることを決めました。

STAR SPHEREのプロジェクトのチームは、その後もあきらめずに知恵を絞り、現在のEYEが使える姿勢制御の範囲内で参加者に宇宙視点の撮影を楽しんでもらえる方法を探しました。同時に、EYEとの通信やデータ送受信を行う地上局設備を整えたことが奏功。待望の「宇宙撮影体験」、2024年1月から一般募集が始まります。

参加できる期間・人数に制限あり。応募方法は?

STAR SPHEREの宇宙撮影体験では、参加者が自分のパソコンでWebブラウザを立ち上げて、ソニーが開発した「EYEコネクト」と呼ばれるWebアプリケーションからEYEを遠隔操作。その中で高精細な静止画像が撮れます。

EYEコネクトでは、宇宙視点のプレビューを画面中心に配置して、マップの位置やカメラの向きを自由に変えながら撮りたい景色を探せます。ソニーがデザインしたシンプルなユーザーインタフェースが特徴です。特別なコントローラーを用意したり、複雑な操作を覚えたりする必要はなく、マウスとキーボードを使って衛星(EYE)を直感的に操作できます。

  • Webアプリ化されたソニー独自の「EYEコネクト」のイメージ。EYEのカメラがとらえた宇宙や地球の景色を、リアルタイムで表示するわけではありません

今回、提供が始まる宇宙撮影体験への参加は無料ですが、STAR SPHERE公式サイトから無料のクルー(アカウント)登録が必要です。

まずは2024年1月からテストを兼ねたプレ体験を予定。こちらは2023年12月までにSTAR SPHEREのクルー登録を済ませていたユーザーから10組を選びます。

2024年2月中旬からは、正式な宇宙撮影体験の一般募集をスタート。クルー登録者に限らず、STAR SPHEREの公式X(エックス)や、ソニーグループが運営するほかのSNSなどでも募集告知を行う予定です。撮影体験の実施は3月中を見込んでいます。

第1回の募集は30組。「1組」の人数制限はありませんが、実際にEYEコネクトを操作したり、写真撮影のリクエストを送ったりできるのは代表の1名に限られます。

参加募集は期間限定ですが、ソニーは2024年内の追加募集も検討しているそうです。合わせて、多くの参加者を代表するインフルエンサーが宇宙撮影を体験し、SNSなどでシェアする企画も進行中です。

サポートも充実! 2種類の体験ツアーを用意

筆者は今回、実際の体験会でナビゲーターを担当する「コスモさん」(正体はソニーの“中の人”)から指南を受けながら、宇宙から見た地球の写真を撮りました。

ソニーが一般向けに提供する体験会ツアーは2種類あります。「スペースフォトグラファー養成講座」では、コスモさんに要所をサポートしてもらいながら、参加者が自身でEYEを操作して「こだわりの1枚」を撮ります。

もうひとつの「地球の見どころガイドツアー」は、コスモさんがナビゲートする地球の美しいフォトスポットや、SDGsに関連する地球の大切な場所などを、EYEコネクト上でめぐります。EYEコネクトの操作はコスモさんにお任せしてもOK。最後に、参加者が気に入った場所の写真を撮ってもらえます。

宇宙撮影体験会は約1時間のオンラインイベントです。その中で宇宙や地球、人工衛星に関する基礎知識を学び、コスモさんとオンラインで対話しながらEYEによる宇宙目線の写真撮影や地球観察をたっぷりと楽しめました。

  • 宇宙から見た日本の全景。EYEコネクトの操作はとても楽しく直感的。ぜひ「スペースフォトグラファー養成講座」への参加をおすすめします

EYEによる宇宙写真撮影の流れ

人工衛星のEYEは、地球の大気圏を越えた上空500〜600kmの高度を周回する低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit)です。地球の周りをおよそ90分〜120分で1周するスピード(秒速約8km)で、1日に15回〜16回、地球の周りを回っています。そのうち日本の上空を通過するのは1日に数回。EYEは本体の姿勢を安定させるため約6分に1度回転しているので、シャッターチャンスは限られています。EYEによる宇宙撮影体験ツアーの参加者を限定せざるを得ない、大きな理由のひとつがここにあります。

EYEが地上局の上空を通過する約10分間には、地上から衛星を操作しながらリアルタイムで写真を撮れます。今回の宇宙体験会では、ほかの時間帯にも参加者が自由に撮りたい写真を選べるように、場所と時刻といった条件をEYEコネクトに入力してタイマー予約撮影が行えるようにしました。

  • EYEコネクトでは、EYEの軌道(場所と時刻)から撮れそうな写真の候補をリストアップ。ユーザーが選んだ1枚を撮るリクエストを設定すると、EYEに対して撮影の指令が送られます

体験会の当日にEYEコネクトのプレビューから見る画面は、後日、EYE(のカメラ)が宇宙から見る景色を予測したイメージです。地球儀状のマップで場所を選んだり、「サハラ砂漠」「グランドキャニオン」といったキーワード検索機能で撮影する場所を探したりできます。

場所と時刻などを決めたら、EYEコネクトに表示されるカメラのシャッターアイコンをタップすると、写真撮影のタイマー設定(=撮影リクエストの投入)は完了。撮影予約情報は、ソニーのシステムオペレーターによるチェックを経てEYEに転送されます。

今回、筆者はコスモさんの説明を受けながら体験会の間に撮影リクエストを投入しました。実際には、体験会の終了後にユーザーのマイページ上からEYEコネクトを操作して、リクエストしたい画像を選ぶこともできるようになります。

EYEはリクエストの日時周辺で前後2枚ずつ、合計5枚のサムネイルを用意します。サムネイルはSTAR SPHEREクルーである参加者の「マイページ」に届きます。その中からキレイに撮れている写真データの1枚を選ぶと、後日、参加者はマイページから画像データをダウンロードできるという流れです。

これがEYEで撮った宇宙の写真だ!

筆者は今回「ぜひ富士山を撮ろう」と意気込んで参加したのですが、EYEコネクトのプレビューで確認すると、富士山が「とても小さな白いドット」くらいにしか写せないことを知り、愕然。宇宙スケールで見ると、そんなサイズ感なのです。

そこで被写体を急遽変更。南米チリのユニークな形をした海岸線の景色です。EYEが撮った写真を公開しましょう!

  • これがEYEで撮影した写真です!

と、期待していたところ……。撮影を予約するときにEYEコネクトで見たイメージは、海岸線の起伏をダイナミックにとらえた写真だったのですが、想像とはだいぶ違う写真になったようです。

  • こちらがEYEコネクトから撮影予約をしたイメージ

ソニーのスタッフに理由をうかがったところ、タイマーを設定した時刻がちょうど夏の厚い雲に覆われており、EYEの姿勢が「地球のフチ」方向へズレていたようです。ただ、この写真はまぎれもなく、筆者が指定した時刻に存在していた地球と宇宙空間のリアルな記録です。青く輝く地球のフチが、これはこれでとてもキレイで満足しています。スマホやPCの壁紙にして楽しみたいと思います。

講師のコスモさんいわく、映える宇宙の写真を記録するコツは、リアス式海岸、砂漠、グランドキャニオンのような広範囲にわたるダイナミックな景色を被写体に選ぶことだそうです。これから宇宙撮影体験に参加する皆さんも、EYEコネクトを操作しながら「ダイナミックな景色」を探す時間は十分にあると思いますが、あらかじめGoogle Earthなどで撮りたい場所の目星を付けておくとよいでしょう。

EYEが搭載するカメラには、ソニーが開発した約1,200万画素のフルサイズセンサーが採用されています。レンズのスペックは35ミリ判換算で28〜135ミリ、約5倍のズーム対応、絞り値はF4です。コスモさんが言うには、「EYEのカメラは、宇宙旅行が実現する将来に、一般の方々がふだん使っている標準ズームレンズのカメラを宇宙に持ち出して地球を撮る楽しみ方を想定している」とのこと。上空500km〜600kmの距離から「私の家」を見つけて撮るような超望遠ズーム的なことはできません。

  • EYEが搭載するソニーの先進技術を搭載したカメラ

EYEは宇宙空間を飛びながら姿勢を安定させるため、翼状の太陽電池パドルを太陽の方向にいつも向けています。カメラのレンズは多くのセルが並ぶソーラーパネルと反対側に向いています。「カメラの向き」は、時間帯や季節によって変わる太陽の位置に影響を受けることも知っておくとよいでしょう。例えば、日本が位置する北半球では、夏は太陽が高い位置にあるためEYEのカメラが真下を向きます。冬であれば太陽の位置が低いので、カメラが横を向いて地平線/水平線の景色が撮りやすくなります。

衛星の打ち上げ直後からトラブルに見舞われながら、これほどまでに内容の濃い宇宙撮影体験ツアーを企画したSTAR SPHEREプロジェクトチームの胆力に感服しました。参加する価値は大いにアリなイベントとして太鼓判を押したいと思います。まずはSTAR SPHEREの公式サイトでクルー登録を済ませるところから、ぜひ参加してみてください。