キヤノンのグループ会社であるCanon USAが、世界最大のエレクトロニクスショー「CES 2024」に出展しています。没入型の3Dエンターテインメントを撮影・制作する際に欠かせないキヤノンの先進技術が盛りだくさんの展示でした。コンセプトモデルとして展示されていた、VR撮影に対応するRFマウントレンズと新趣向カメラもレポートします。
ボリュメトリックビデオ、個々のユーザーが好きな視点で見られるように
キヤノンは、複数のカメラで被写体をさまざまな角度から撮って3D空間データを再構成する「ボリュメトリックビデオ」の技術で定評があります。今年のCESでは、制作者が設定した自由視点の映像をユーザーが楽しむこれまでの技術を進化させ、個々のユーザーがスマートフォンやタブレット端末を操作して自由に角度を変え、好きな選手のプレイを間近で見られるという新しい技術展示をしていました。
ボリュメトリックビデオの映像は、バスケットボールのコートに設置した100台以上の4Kカメラによって同時に撮影されています。すべての画像から空間全体を3Dデータ化することで、先ほど解説したようにスマホの画面で自由に角度を変えて好きな選手のプレイを間近で見るほか、MR/VRヘッドマウントディスプレイを使ってコートを俯瞰したり、コートの中に入り込んで試合を観戦する迫力の体験が得られます。
キヤノンの自由視点映像システムの特徴は、カメラによる撮影から映像の生成までをリアルタイムに行えるところにあります。日本国内では日本テレビと読売新聞社との協業により、プロ野球の読売ジャイアンツの試合をボリュメトリックビデオシステムで撮り、打席のリプレイやハイライト映像を立体視するという新たなスポーツ中継の楽しみ方をすでに提供しています。
CESが開催されているアメリカでも、スポーツアリーナに自由視点映像システムが導入されており、ライブ中継のリプレイ映像の放送やバーチャル広告などのサービスに活かされています。
1度のシャッターで立体画像データを記録
立体画像の撮影に関連する技術としては、キヤノンのデジタルカメラが搭載する独自の像面位相差AF「デュアルピクセルCMOS AF」を応用して、1回のシャッターで被写体の3Dモデルを記録する技術も紹介されていました。
デュアルピクセルCMOS AFは、通常オートフォーカスの精度を高めるために使われる技術ですが、得られるピント情報をレンズやセンサー情報とF値などの撮影条件をもとに被写体の「形状情報」に変換。高精細な3Dモデルを生成します。2つのフォトダイオードが右目・左目の役割を果たすことで、画像と奥行き情報を同時にキャプチャするイメージです。この新たな使い方を提案するために、いまキヤノンは本格的な技術検証を進めています。今後1~2年以内には実用化も見込めるそうです。
3D撮影が可能な小型カメラやRFマウントの交換レンズを展示
キヤノンが2023年に日本国内で開催した展示会にも展示した、PowerShot Vシリーズの360度カメラのコンセプトモデルがCESにも登場しました。今回もタッチ&トライのできないコンセプトモデルが展示され、スペック情報の詳細開示もありませんでした。2つの180度カメラを活用して3Dの立体撮影と360度の全天球撮影の両方に使えるコンセプトがとても面白いカメラなので、ぜひ商品化に踏み込んでほしいと思います。
VR映像撮影用のRFマウントレンズは、APS-C対応のRF-Sレンズを2種類も展示していました。どちらも、今回のCESで初めて披露されたコンセプトモデルです。
ひとつは、2021年12月に発売したフルサイズ対応レンズ「RF5.2mm F2.8 L Dual Fisheye」のコンセプトを継承したAPS-C対応レンズ。フルサイズ対応レンズは値段も高額になることから、3Dコンテンツの撮影に携わるプロフェッショナルでないと、なかなか手が出しづらい製品になってしまいます。今回キヤノンが展示したAPS-C対応のコンセプトモデルは、値段こそ明らかにされていませんが、3Dコンテンツ制作の裾野を広げることを狙って開発したといいます。商品化される際には、YouTuberなどを含む多くの映像クリエイターにアクセスしやすい価格になることを期待したいと思います。
もう1種類、VR撮影用レンズのコンセプトモデルは、レンズがフィッシュアイではなく、撮影者の目の前にある被写体だけを立体撮影することを狙っています。一般的なレンズと同じサイズの筐体の中に、2つの小さいレンズが搭載されています。こちらも幅広いクリエイターに使われることを想定して、コンセプトを固めた製品です。
最後に、手のひらサイズの立体視用ディスプレイのコンセプトモデルもありました。こちらは、2023年秋にキヤノンが横浜で開催した「Canon EXPO」で展示していた製品と同じものです。キヤノンの光学技術により、小型軽量サイズのデバイスでありながら「高画質」を実現したことが特徴。ハンズオンも可能な展示だったので、ブースの来場者からの関心を集めていました。