理化学研究所(理研)、東京大学(東大)、科学技術振興機構(JST)の3者は7月13日、量子計算のための光電場の非線形測定を実現し、これまでの研究で実現されている定数倍および足し算と引き算と組み合わせることで、光電場の掛け算が実現可能となったことを発表した。
同成果は、理研 量子コンピュータ研究センター 光量子計算研究チームの阪口淳史特別研究員、同・古澤明チームリーダー(量子コンピュータ研究センター副センター長/東大大学院 工学系研究科 教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
量子コンピュータを実現するためのハードウェアの方式の1つに、光方式がある。光量子コンピュータは、室温での動作が可能であることなどの複数の利点から有望視されている。
これまでの研究で、パルス列状に飛んで来る量子光同士の時間をずらし、複雑に干渉させた量子もつれ状態に対し、測定と測定値に基づく動的な操作(フィードフォワード)を行うことで、量子状態の変化と補正を行いながら計算する測定型量子計算の手法が開発されている。同手法の利点は、同一のセットアップを各時間のパルスごとに使い回すことができ、セットアップの空間的な規模を保ったまま量子コンピュータの大規模化が可能な点だ。
測定型量子計算では、測定の種類と精度が量子操作の種類と精度に対応している。ただし、これまで実現されていたのは非線形性のない「ホモダイン測定」に限られていた。任意の量子計算が可能な光量子コンピュータでは、光電場同士の「掛け算」操作を行う必要があり、そのためには決定論的な非線形操作に相当する非線形測定が必要不可欠だという。
その手法として提案されているのが、被測定光と補助的な量子光を干渉させ、得られる2つの光の片方にホモダイン測定をし、他方にはその測定結果に非線形計算を行った値に基づき動的に位相回転操作をするという、フィードフォワードの後にホモダイン測定をすることで非線形測定として働くというものだ。
しかし、非線形計算を電気的に行う際にかかる時間が長く、高速で飛び回る光信号との同期が困難である点などの課題があり、これまで非線形測定は実現されていなかった。補助量子光に関しては2021年に近似状態の生成が報告されたが、非線形なフィードフォワードは未実現のままだったのである。
そこで研究チームは今回、電気-光のフィードフォワード制御をデジタル回路により柔軟かつ高速に行う手法を提案。同手法を用いた制御系と非線形スクイーズド光を組み合わせることで、任意の量子計算を実現する上で不可欠な非線形測定の原理実証を行うことにしたという。