ニコンファン待望の高性能カメラとして話題になっているのが、縦位置グリップ一体型のフラッグシップモデル「Z 9」の装備や機能を出し惜しみなく盛り込んだフルサイズミラーレス「Z 8」。発表直後に短期間試用した時点で「モーレツに購買意欲が刺激された!」と語っていた落合カメラマン、そのキモチは変わっていないのでしょうか。改めてZ 8をジックリ試してもらいました。
フラッグシップ機相当の機能を持つ小型軽量機を選んできたワタシ
ニコン「Z 8」をアレコレ使ってみたあと、じっくり時間をおいてみた。自分のZ 8に対する気持ちを熟成に導くために。
フィルム時代、写真を仕事にしてからは、ニコンをメインとしていた我が機材事情。その中で、とある時期はニコン「F5」ではなく「F100」を積極的に選んでいたことのあるワタシである。
フラッグシップモデルを好んで使っていたのは「F4S」までだった。その後は、若くして「デカくて重いのはイヤ」という悟りを開き自らの写真人生を達観。「キヤノンT90を使う同業者がうらましくて仕方がなかった」という事実をさて置いたとしても、オールインワンの中級機に理想を求める嗜好は、順調に育まれることとなった。
デジタル一眼レフでは、「D3」に加えそれを追うように登場した「D700」を入手。そうしたら、D3はアッサリ使わなくなってしまった。これぞ、自らの性癖を再認識した瞬間である。
D3とD700の間には、ボディサイズや重さはもちろん、バッテリーの持続力や堅牢性、秒間コマ速などにも明確な差があった。でも、連写速度がモノをいう場面を除けば、D700でD3と同じ絵を撮ることは難しくなかった。ワタシが重視したのはそこ。とりわけ、良好な超高感度画質には相当に世話になった。フィルムでは撮れない写真が本当の意味で撮れるようになったのは、少なくともワタシの写真生活における認識においては、まさしくD3&D700からだったといっていい。
その後も、「D4」や「D5」には手を出さずに「D750」を2台買いするなど、中級機好きには磨きがかかる一方。途中、「D4(と同じ)センサー」が欲しいというそれだけの理由で「Df」を入手したり、はたまた別路線でD800に浮気したり、まぁやりたい放題ではあった。
何が言いたいのかというと、このZ 8のレビューは、まずはそういう足跡が前提になっているってこと。しかも、現在は他メーカーのモデルも併用する浮気者の目線で書かれていたりもいる。つまり、けっこうな“偏見フィルター”がかかっている可能性を排除できないんですネ。なので、最初に謝っておきたい。偏ったことをいっちゃってスミマセンねぇ~と。
Z 9との性能差を限りなく少なく仕上げたZ 8のすごさ
Z 8が待ちに待ったモデルであったのは確かだ。いつから待っていたのかといえば、Z 9が登場したその瞬間から、である。なんだか、Z 9に失礼なことをしているような気がしなくはないけれど、でも同じ発想、妄想、要望、希望を抱いたニコンフリークは少なくなかったハズ。「Z 9のデビュー、おめでとうございます! で、Z 9の下を切ったモデルはいつ出るんスか?」という拙速にも見える話の流れは、しかしディープなニコンユーザーにとっては朝の挨拶みたいなものなのだ。
そして、実際に登場してくれたZ 8は、ある意味、想定外の仕上がりだった。過去の事例では、たとえばフラッグシップ機と同一のイメージセンサーを搭載していたとしても、秒間コマ速など、いわば“動力性能”に直接、関わる部分には明確な違いがあるのがアタリマエだったのに、Z 8とZ 9の間には、そのあたりの差別化が明確ではないのだ。
これにはビックリした。基本的には嬉しい話なのだけれど、Z 9よりも明確な小型軽量化が実現されているにもかかわらず、撮影時に発揮される“動力性能”がZ 9と同等だなんて! こんなゼイタクはそうそう味わえるものではない。っていうか、Z 7やZ 6シリーズと同じバッテリーでそれを実現しているってどーゆーことっ!? まず、疑問に思ったというか、興味を抱いたのはソコ。なんせ、電源周りがネックになって“Z 9の下を切ったような”モデルの登場は、さすがに今回はないんじゃないか」なんて思っていたクチなので。
でも、“Z 8の奇跡”は起きた。聞くところによると、ひとことで言えば省電力化のタマモノらしいのだが、たったそれだけの言葉で済ませられる話ではないんじゃないかと勝手に想像している。機会があれば、ぜひ根掘り葉掘り聞いてみたいところだ。「Z 9と同等の動力性能」にこだわり抜いた理由も一緒に。
動力性能だけじゃなく、ファインダーにも手抜きがないところは実にニコンらしい。格下のポジショニングからハミ出すことは許されていないはずのZ 8に、デバイスのみならず光学系までもがZ 9と同じファインダーを惜しげもなく与えたこの暴挙、いや、快挙を我々ユーザーサイドはどのように理解すればいいのか? 個人的には、ニコンがそれだけ「F100から始まった有能なミドルランナー」の系譜を大切にしてきてくれているということだと思っている。かつてD700のユニークな存在感に対し寄せられた賞賛の声をしっかり受け止めていてくれたのかもしれない。
でも、ニコンはZ 8を700番台の後継とは位置づけておらず、どちらかといえば「D850の代わりになり得る」ということにしたいようにも見える。なるほど、ニコン製デジタル一眼レフの中で随一の万能性を有していたD850のZ版だといわれれば、納得することにもさほどの困難は伴わないし、数字の「8」縛りで「D850」につなげたい気持ちもわからんではない。しかしそれは、Z 7系ボディが60MPクラスのイメージセンサーを搭載した上で担うべきポジションであるようにも思う。モデル名の“数字イメージ”は錯綜してしまうけれど・・・。
発表直後に感じたモーレツな購買意欲の移ろい
そんなこんなで、Z 8に対しては、ストレートに「Z 9譲りの高速性を余すところなく受け継ぐ新ジャンルのハイスピードマシン」なんてことをいってくれた方が、ナンボかスッキリしそうというのが個人的見解だ。でも、それじゃ製品が手元に届くまで何カ月も待たされていたZ 9オーナーが許してくれないかも!?ってなことまで考えると、けっこう立場が微妙なZ 8・・・なんて気もしてきてしまう。
捉え方によってカメレオンのように印象を変えるカメラであることは、Z 8デビュー時に「これ欲しい! 買うならNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sと一緒じゃなきゃ絶対にダメ!!」なんて強く思っていた気持ちが、時を経るごとに少しずつ変わってきているという、我が個人的事情の範疇でも感じることのできる“現実”だ。いったい何がそうさせているのか? ワタシが浮気者でなければ、おそらくこんな思いに至ることはなかったハズなのだが・・・。