シグマIシリーズを深掘りする連載2回目(中編)は、予告通り“F2じゃない軍団”の面々を紹介します。高画質はもちろんのこと、コンパクトで金属の質感が楽しめるというのがIシリーズのコンセプト。その点では、開放F2の5本よりも、本体がスリムでシャープなF2.8~4の4本のほうがコンセプトに沿っているように思います。
キレ味鋭い17mmと24mmの広角コンビ
まずはIシリーズの中でも、50mm F2と並んでもっとも新しい「17mm F4 DG DN|Contemporary」。スペックだけを見れば、F4といえども前玉は金魚鉢のような、いわゆる出目金レンズを想像してしまいます。しかし、実際にはフィルター径55mmというコンパクトサイズ。シグマfp/fp Lに装着すると、フィルム時代にいくつか存在した超広角専用カメラを彷彿とさせます。あるいは、ライカにおけるスーパーアンギュロン21mm F3.4を想像する方もいるかもしれません。
それらはレンズが固定式だったり、ファインダーが素通しガラスだったり、何かしらの制約がありましたが、この17mm F4はいたってふつうのミラーレス用交換レンズです。Lマウントのシグマ、ライカ、パナソニック、あるいはソニーEマウントのレンズ交換式カメラに装着して、当たり前のように撮影できます。
そしてこのレンズの登場は、超広角マニアだけでなく、多くのミラーレスユーザーに朗報だと考えます。たとえば、24mmスタートの標準ズームをメインに使っている場合、さらに広い画角をどうカバーするかは悩みのひとつ。大きくて高価な広角ズームを併用するのもいいですが、使用頻度を考えるとそこまでの必要性はないんだよなぁ…という人もいると思います。そんなときこれを1本プラスすれば、24mmで収まらない場面を17mmでカバーできるわけです。高画素化が進んで多少のトリミングも問題なくなった今、17mmから24mmの間がないと困るという人も少ないでしょう。
Iシリーズの広角レンズといえば「24mm F3.5 DG DN|Contemporary」も忘れてはなりません。僕が思うには、Iシリーズで“もっともトンがった”レンズです。
80年代のシグマには、名称に「スーパーワイド」を冠した24mm F2.8の一眼レフ用レンズがありました。最短撮影距離は18cm、倍率1:4まで寄れるのがウリでしたが、まさにそのリバイバル。最短撮影距離はさらに短い10.8cmで、1:2まで寄れるハーフマクロなのです。しかも、絞り開放&マクロ域からキレキレ。F2.8の標準ズームを使っている人には、あえて持つ理由がなさそうなスペックですが、そんなセコい計算は抜きにしてください(といいつつ僕も計算しがちですが)。このレンズだからこそ撮れる世界を楽しむ、そんな一本です。着けっぱなしにして広い画角と格闘するもよし、Iシリーズの35mm F2や45mm F2.8、50mm F2などと組み合わせるもよし。
寄れることとボケ味の美しさが魅力の45mm
Iシリーズの第一弾というか、まだそんな名前もないころに登場した「45mm F2.8 DG DN|Contemporary」も、スペックだけを見れば平凡なレンズです。しかし、その数字を聞いて、“鷹の目テッサー”を思い出す好事家も多いのではないでしょうか。
82年に初期型が登場し、2005年の京セラ撤退まで発売されたカールツァイス・テッサーT*45mm F2.8、はい同じスペックです。あちらは3群4枚というシンプルな構成のパンケーキレンズで、対するこちらはIシリーズの中ではコンパクトとはいえ、7群8枚の現代的な構成。しかし写りでいえば、あちらは鷹の目という名に違わずシャープなのに対し、こちらは絞りや撮影距離で描写が変わるという、むしろオールドレンズ的な味わいがあります。わずかに球面収差を残すことで、絞り開放では優しさや柔らかさを感じられます。
最短撮影距離が24cmとこのレンズもかなり寄れるのですが、その近接域になるとにじみが強くなり、70~80年代のオールドレンズのように写ります。ただし、そこは現代の光学技術の結晶。ふんわりした描写の中にもしっかりと芯があり、表現手段として生かせます。Iシリーズの中で50mm F2というライバルも出現しましたが、あちらはオールラウンドな優等生。一方、こちらは噛めば噛むほど味が出る、スルメのようなレンズといえます。
レンズ交換の楽しみを再認識させてくれる90mm
そしてトリを務めるのは、Iシリーズでもっとも長い焦点距離を持つ「90mm F2.8 DG DN|Contemporary」。こちらもまた最短撮影距離50cmという寄れるレンズなのですが、何よりの魅力は、明るい中望遠レンズなのにポケットへ収まるサイズということと、ボケが美しいこと。今回紹介した24mm F3.5と45mm F2.8にこれを加えた3本セットで出掛ければ、24-70mmや24-105mmのズームレンズで広角から中望遠までカバーするのはまた違った楽しみがあるはず。その理由は何なのかを突き詰めると、「レンズを交換する」という行為にあるのではないでしょうか。
ときには、それがシャッターチャンスを逃す原因にもなり、ゆえにズームレンズが普及するわけですが、立ち止まって考えるとレンズ交換こそ撮影の大きな醍醐味であるように思います。目の前の被写体や光景に対して、あるいはこの先起こることを予測して、どのレンズを選択するか。絞りやシャッター速度以上に選択肢は広く、個人の意図や哲学が反映できるポイントです。仮に1本だけ所有するとしても、どれを購入するかでその後のカメラライフが決まってきます。標準域を挟む17~90mmというレンジで、9本もの選択肢があるIシリーズは、まさにその選ぶ楽しみを与えてくれる存在ではないでしょうか。
というわけで次回・最終回は、Iシリーズの魅力をさらに深掘りすべくシグマ本社を訪問。すでにたっぷり取材をしてまいりました。乞うご期待!